新潟で「ニットの産地」といえば、五泉市や見附市を連想される方が多いと思いますが、「木工の町」のイメージが強い加茂市にも、60年以上続くニットの製造会社があります。「株式会社Roco on the run」は、これまで主にOEMで事業を続けてきましたが、昨年10月に「CAMONI」という自社ブランドを立ち上げ、工場に併設するかたちでその直営店をオープンしたそうです。今回は、「Roco on the run」の社員さんで、「CAMONI」の商品企画開発や広報を担当されている石塚さんに詳しくお話を聞いてきました。
CAMONI SHOP
石塚 雅一 Masakazu Ishizuka
1980年東京都世田谷区生まれ。数社の外資系スポーツブランドで、PRやマーケティング担当を経験。2016年に三条市へ移住。2017年に「株式会社Roco on the run」へ入社。「CAMONI」商品企画開発から広報まで担当している。
――石塚さんはどちらのご出身なんですか?
石塚さん:東京の世田谷区です。自由が丘生まれなので、東京のど真ん中です(笑)
――それなのに、どうして新潟に?
石塚さん:東京で出会った奥さんが、田上の出身だったんです。僕はずっと東京に住んでいたので、もういいかなと思って、子どもが生まれた2016年の夏に新潟へ移住しました。前の仕事では全国津々浦々を行き来していたのと、サーフィンやスノーボードが好きなのもあって、新潟には前にも来たことはあったんです。ここで、海に行って山に行って、たまに仕事してみたいな生活が送れたらいいなと思って(笑)
――最高の生活ですね(笑)
石塚さん:今もよく出勤前に海に行きますよ。自分的に、この場所に将来性を感じたんです。ご飯も美味しいし、水も綺麗だし、海も山もあるし、ものも作れる。宝の山だなって。
――ずっと都会で生活されていたからこそ、感じられる魅力でもあるかもしれないですね。東京ではどんなお仕事をされていたんですか?
石塚さん:スニーカーで有名な某N社にいろんなブランドがぶら下がっているうちのひとつに、アメリカ西海岸のサーフブランドがあって、そこで働いたり、あとメジャーリーグで着用されているキャップで有名な「N社」でマーケティングを担当したりしていました。
――へ~!じゃあずっとスポーツ関係のアパレルで勤めていらしたんですね。「Roco on the run」にはどんな経緯で入社されることに?
石塚さん:最初は、新潟のとある家具屋さんが、海外に自社のプロダクトを持っていくための担当を探しているからっていうことで誘われて、そこに勤めることになったんです。家具屋さんのオーナーさんと、この会社の前のオーナーさんが仲良くって、「ニットの仕事もやってみなよ」って話になって、そしたらその割合が大きくなっていって「Roco on the run」で社員として働くようになりました。
――今は、こちらでどういうお仕事をされているんですか?
石塚さん:主に「CAMONI」の仕事です。デザイナーとの商品企画開発や、それに伴う広報活動、PR活動っていうのがメインですね。あとは社長や上層部の人たちと、会社の新規事業だとかをいろいろと進めています。特殊な立ち位置なので、孤独ですよ(笑)
――「CAMONI」はどんなブランドなんでしょうか。
石塚さん:大人の女性とそのパートナーに向けた、シンプルで、リラックスした上質な大人のニットプロダクト、っていうのがコンセプトです。
――名前の由来はやっぱり、「加茂のニット」で「かもに」ですか?
石塚さん:それと、「加茂に来て欲しい」っていう意味での「加茂に」でもあります。ロゴはグラフィックデザイナーさんと一緒に考えて、「C」を5個重ねて、加茂の花である雪椿が横を向いているようなデザインにしました。
――そもそも、「Roco on the run」さんは長年自社のブランドを持っていなかったわけですよね。「CAMONI」を立ち上げることになったのにはどんな経緯が?
石塚さん:僕がこの会社に入った2017年がちょうど会社の転換期で、社長が長年アパレル業界にいた方だったこともあって、「自社ブランドをやりたいよね」っていう話をしていました。僕は前職の関係で経産省とつながりがあったので「何か面白いことがあったら教えてほしい」って言ったときに、「パリのデザイナーと組んで現地の展示会に出る予定だから参加してみないか」っていう話をもらったんです。直販と展示会に向けて、3年間試行錯誤しながら商品の企画を進めて、ようやく去年、ブランドとお店を立ち上げました。もともと工場だったところを壊してお店にしたんですよ。
――すぐ横が工場になっていて、お店の窓から機械が動いているのが見えるのも面白いです。
石塚さん:「自分が手にしているものが完成するまでの工程を見られる」っていう体験を提供したいと思ったんです。特にうちは特徴のある工場なので。
――といいますと?
石塚さん:社内一貫生産といって、ニット製品製造の全部の工程を、このひとつ屋根の下でやっているんですよ。糸は商社から買っているんですけど、その後の工程は全部ここでやっています。そこは1955年の創業時から変っていないです。
――社内一貫生産の強みってどんなところなんですか?
石塚さん:いろんなところを突き詰めて、こだわって作ることができるんです。セーターって「パーツ数」っていうのがあって、僕が今着ているようなプルオーバーだと5パーツ使っているんですけど、そこを約30パーツ使った、ニットに見えないニットを作っています。パーツ数が多いと、着たときにシルエットが綺麗に出るんです。「絶対に試着してください」って店頭では言っています。
――それは着てみたいですね。「CAMONI」の服はどんなことを意識して作られているんですか?
石塚さん:エンドユーザーさんにも職人技が分かる、触ったり、着たりしたときに感動してもらえるようなものを作っています。ウールだと「ちくちくするよね」って敬遠されることもあるんですけど、うちの製品はふわふわタッチでちくちくしない肌触りになっているし、他にも、ニットって「洗濯ができない」とか、「秋冬だけ着るものだ」とか思っている人が多いんですけど、うちの製品は簡単に型崩れしないので洗濯もできるんです。そういうニットに対するマイナスなイメージを変えていければ、ニットの市民権みたいなものも上がるんじゃないかと思うんです。
――洋服以外に、小物も充実していますよね。
石塚さん:はじめは洋服にウエイトを置いていたんですけど、遊び心というか、冒険心でバッグやポーチを作ってみたら、それがかなり人気だったんです。これからは半々くらいのウエイトで作るつもりです。
――アパレル以外にも、加茂にちなんだいろいろなアイテムを置いているんですね。
石塚さん:加茂は木工の町でもあるので、老舗の建具屋さんと組んで作った雑貨だとか、加茂や三条で採れた梨やブルーベリーから作ったジャムとか、地元の土を使って焼いたカップやお皿とか、セレクトして置いています。
――ワークショップもしているって聞いたんですけど、どんなことを?
石塚さん:ニットを編むための糸が巻いてある芯って、三角形になっているんですけど、それに端材のボタンや糸をくっつけて、卓上クリスマスツリーを作るっていうワークショップを去年やりました。反応がよかったので、今度はお子さん向けに何かやろうかなって考えています。
――最後に、今後の目標を教えてください。
石塚さん:とにかくお店に来てもらうために、「もの」を売るよりも「こと」を売っていきたいなと思っています。ショールを出しているんですけど、その柄や配色を選んでもらって、セミオーダーみたいなかたちで販売するとか。そうやって、ここに来る理由や価値をどんどん高めて、いろんな人に加茂に来てもらいたい。お昼ご飯は「cafe LITH」さんに行こうかなとか、「ごえん」さんに寄って靴下も買おうかなっていうふうに、加茂を回遊してもらえる、そういう、ファッションの感度が高い人のステーション的な役割の場所になっていきたいです。
CAMONI SHOP
新潟県加茂市新栄町3-3
0256-46-8070
11:00-17:00
火曜定休(祝日の場合は翌日)
駐車場あり