お粥で世界をやわらかく。
「米草堂」の荻野さんと藤澤さん。

食べる

2026.09.14

text by Ayaka Honma

新潟といえばお米、お米といえば……? お粥になる日も近いかもしれません。中央区の花町に「米草堂(こめそうどう)」という場所があります。1階のお粥スタンドでは、世界のローカルフードと新潟米を掛け合わせた「クラフト粥」を楽しむことができます。「米草堂」という場所ができるまでのことや、お粥のお店をはじめた理由など、荻野さんと藤澤さんにお話を聞いてきました。

Interview

荻野 高弘

Takahiro Ogino(米草堂)

画像左/1991年新潟市出身。関東の大学へ進学後、東京で場づくりの会社で働く。会社員としてリモートで働きながら、2023年に新潟に戻り、「米草堂」を立ち上げる。

藤澤 はるか

Haruka Fujisawa(米草堂)

画像右/1992年長野県下諏訪町出身。大学進学を機に上京し、卒業後は事業会社でマーケティングの仕事に携わる。その後は企画やブランディングの仕事を経て、2020年にフリーランスとして独立。2023年に荻野さんとともに新潟に住みはじめ、「米草堂」を立ち上げる。

「米草堂」のはじまりは、
友達がほしかったから。

――今日はよろしくお願いします!おふたりはご夫婦なんですよね?

藤澤さん:そうです。ふたりで「米草堂」を立ち上げたので、名字が一緒だと、どっちがどっちか分かりにくいんじゃないかと思って。仕事をするときは名字を分けているんです。

 

――なるほど。新潟に住みはじめるまで、おふたりはどんなことをされていたのでしょう。

荻野さん:ふたりとも東京で働いていました。僕は場づくりをしている会社で、コワーキングスペースやシェアオフィスの企画や設計に関わる仕事をしていました。ここの社員として働いているんですよ。平日は新潟からリモート仕事をしていることが多いです。

 

藤澤さん:私は事業会社でマーケティングの仕事をした後、企画プロデュース会社でブランディングや商品開発などに携わり、2020年からはフリーランスで活動していました。

 

――それぞれ東京でお仕事があったのに、どうして新潟へ?

荻野さん:僕の祖母の家が空き家になって、そこをリノベーションして住むことにしたんです。ちょうど子どもが生まれるタイミングでしたし、コロナ禍を経てリモートで仕事ができるようになったことも大きかったですね。

 

藤澤さん:新潟は都市機能と自然のバランスがちょうどいいですね。あと、ご飯がとにかく美味しい(笑)。東京にも割とすぐに行けるので「移住」というよりは「引越し」みたいな感覚に近かったですね。

 

――おふたりが「米草堂」をはじめるまでのことを教えてください。荻野さんは新潟に戻ったら、お店を作ろうと考えていたのでしょうか。

荻野さん:それは全然考えていなくて。新潟に戻ってきて、人とつながりを持ちたいなって思うようになったんです。東京にいたとき、飲み屋でたまたま一緒になった人と友達になることが結構あって。でも自分のライフステージも変わって、そういう偶然のつながりがほぼなくなってしまいました。そんなときに、「リノベーションスクール」のチラシを見つけたんです。

 

――古町の空き物件を題材にした実践型のスクールですね。

荻野さん:「友達ができたらいいな」くらいの気持ちで参加したら、この建物が僕たちのグループの対象物件だったんです。もとは1階が理容室、2階が住居として使われていた建物で、ちょっと天井が高かったり、2階にスキップフロアのような階段があったのが面白いなと思って。「この物件だったら何かできるかも」と感じたんです。

 

――藤澤さんはこの建物を見て、どう感じたのでしょう。

藤澤さん:荻野さんに「こんな面白い物件があるんだけど、どう?」って相談されて物件を見てみたら、建物のつくりが面白いし、いろいろアレンジできそうだなと思いましたね。場所を作ることはでやってみたいと思っていたので、前向きに考えてみることにしました。

 

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新潟のお米で作るお粥が、
世界の食文化を運んでくれる。

――お粥を選ばれたのには、どんな経緯が?

荻野さん:物件と出会う少し前に、家族で2週間ほどインドネシアに行って、そこで「ブブル・アヤム」という伝統的なお粥を食べたんです。出汁で炊いたお粥に串焼きやナッツ、フライドオニオンなどをのせて食べるんです。日本で食べるお粥は体調が悪いときに食べるような、質素な料理のイメージですが、インドネシアのおかゆは旨みも食感もしっかりあって、いい意味で期待を裏切られたんです。新潟のお米を生かした「おにぎり屋」はたくさんあるけど、「お粥屋」はこれまでにはない切り口で、面白いかもしれないと思ったんです。

 

――お米は「クラシックコシヒカリ」という品種を使われているんだとか。

藤澤さん:品種改良される前のコシヒカリで、粘り気と甘みが強いお米なんです。どんなお米がお粥に合うか、知り合いのお米屋さんに相談してみたらこの品種を教えてくれて。作ってみると、私たちの作りたかったお粥にはぴったりだったんです。今のベースになっているレシピは、道路を挟んで向かいにある「atori」さんの力を借りてかたちにしていきました。

 

――なるほど、そうして「米草堂」ができたんですね。

藤澤さん:「お粥で世界をやわらかくする」を「米草堂」のテーマとしています。新潟のお米を媒介にして、世界の奥行きを楽しめるようなお店にしたいなと思ったんです。お粥を食べる体験の中で、どこかに行ってみたくなったり、視野がひらけたり、気持ちが楽になったり。そんな「やわらかな変化」が生まれるお店になれたら嬉しいなと思っています。その思いから新潟のお米と世界のローカルフードを掛け合わせた「クラフト粥」を週替わりで提供するというかたちになりました。

 

――新潟のお米を通じて、世界の食文化を体験してもらおうと。

藤澤さん:そうですね。海外の料理というよりは、日本も含む「世界のローカルフード」をお粥に仕立てています。新潟ののっぺや宮崎の冷汁、奄美大島の鶏飯などを発想のベースにしたお粥もあります。海外の料理だと、スペインの「ガスパチョ」やチェコの「チェスネチュカ」など、様々なローカルフードをヒントにしたお粥もありますね。

 

――「この料理がお粥になるの!? 」と驚かされる組み合わせが多いです。

藤澤さん:即興的に生まれるものも多いです。この間も、ポップアップのために、アフリカ料理とお粥を組み合わせてみたら美味しくできたり、ヨーグルトが使われたブルガリアの伝統的なスープとお粥をかけ合わせてみたら、これもすごくマッチしましたね。「お米って包容力があるんだな」って、あらためて感じました。

 

――お粥を考える中で、大切にしていることはどんなことでしょう。

藤澤さん:お粥を食べて、食感や味を楽しんでもらうことはもちろん、それぞれの料理の背景も楽しんでもらえたら嬉しいなと思っています。例えば、パラグアイの「ソヨ」という伝統料理をベースにしたお粥があるんですけど、「ソヨ」は元々、貧困層が安価で固いお肉を美味しく食べるための工夫から生まれています。叩いたお肉を野菜と一緒に煮込んだ後に、お米でとろみをつけたスープで、このとろみによって全体がまとまって、旨みが底上げされています。それぞれの料理が持つ背景や物語も面白いですよね。食文化を知ることも「世界をやわらかくする」ことにつながると思っています。

 

トマトのガスパチョ粥。フライドオニオンのザクザク感が楽しい!
パラグアイの伝統料理「ソヨ」着想を得たお粥。

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お米で世界をやわらかく。
あらゆる境界線を溶かしていきたい。

――ところで、「米草堂」って、どんなふうにつけられた名前なのでしょう。

藤澤さん:ちょうど「令和の米騒動」が話題になっていた時期で、歴史上の「米騒動」について調べてみたら、旗振り役が有名な武将ではなく、名もなき主婦だったんですよ。それがすごく面白いと思ったし、私たちも名もなき市民として、ここから何か広げられたらいいなと思ったんです。自分の家を謙遜して言うときに使われる「草堂」という言葉を使って、愛着を持ってもらえるお店にしたいという意味も込めました。

 

――へ〜、米騒動ってそんな歴史があったんですね。これから「米草堂」でやってみたいことを教えてください。

荻野さん:お粥のパウチ商品化や通販展開とかをやってみたいです。非常食として常備されるパウチのお粥って、あまり美味しくないイメージがあると思うんですが、そこを美味しくできたらすごくいいなと。テンションが上がる非常食があってもいいんじゃないかなと思っています。

 

――「米草堂」として、お粥以外にも取り組まれていることがあると聞きました。

藤澤さん:「新潟次郎」という工業用品種のお米と、お米のもみ殻を使用した「Nikome Material」というバイオマスプラスチックも開発しています。これは、食品を作る発想で「素材」を作ってみたらどうか、という好奇心から生まれたもので、新潟市内の企業3社で連携して立ち上げました。「米草堂」の2階には、素材のショールーム(ラボ)もあります。

荻野さん:今はまだプロトタイプを作っている段階ですが、内装用のタイルや家具の素材としての活用を進めていきたいなと思っています。

 

――「米草堂」から、お米の可能性がもっと広がっていきそうですね。

荻野さん:「お粥で世界をやわらかくする」というコンセプトは、いろんな境界線を溶かしていくことだとも思っています。食べ物にかかわらず、どんなジャンルもお米を媒介にしてつなげていけたら嬉しいですね。新潟の人にとって、お米は当たり前の存在かもしれませんが、すごく大きな支えだとも思うんです。みなさんと一緒にお米をいろいろな角度から楽しめるような場所になれたら嬉しいです。

 

米草堂

新潟市中央区花町2065

11:30-14:30

定休日:日曜、月曜、祝日(不定休あり)

※最新の情報や正確な位置情報等は公式のHPやSNS等からご確認ください。なお掲載から期間が空いた店舗等は移転・閉店の場合があります。また記事は諸事情により予告なく掲載を終了する場合もございます。予めご了承ください。

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