庭と人生、20年の物語。
「Watanabe Garden蔵」
その他
2026.09.06
季節ごとに表情を変える豊かなオープンガーデン&週末営業のカフェ「Watanabe Garden蔵」。「食べることが好きなので」とハーブや果樹など数え切れないほどの植物を育てているのは、店主の渡辺さん。子育てがひと段落した50代から庭作りをはじめて約20年。これまでのエピソードや園芸のコツなど、いろいろとお話を聞いてきました。
渡辺 公子
Kimiko Watanabe(Watanabe Garden蔵)
1954年新潟市生まれ。夫が営む産婦人科医院の事務長を務めながら、園芸について学ぶ。医院に隣接する料亭跡地を購入したことをきっかけに庭作りをスタート。オープンガーデンのほか、蔵を活用してカフェ営業や作品展などを開催している。
第3の人生は、
庭作りとともに。
――まずは「Watanabe Garden蔵」が今の姿になるまでのことを教えてください。
渡辺さん:ここは以前、立派な料亭があって、その隣に夫が営む産婦人科医院がありました。もう20年くらい前になりますね、料亭の敷地が売りに出されるというので、思い切って買い取ることにしたんです。患者さんやそのご家族がくつろげる場所にしてもいいしね、と主人も賛成してくれて。
――それでお庭にしようと?
渡辺さん:私は敷地の一角でも貸してもらって、趣味で育てていたハーブやバラを植えられたらいいな、くらいに思っていて。もともと建築や造園が好きでそれっぽいことはしていたんです。下の子が大きくなってからはハーブ関連の資格を取って、スパイスやアロマを勉強するようになりました。
――ご自身の好きなことを学ばれたんですね。
渡辺さん:子育て期間は、新潟市と燕市(旧吉田町)の2拠点生活をしていたんです。義父が早くに亡くなり、夫が産婦人科医院を継ぐことになって。お産がありますから、夫は新潟市の自宅に帰ってこられない日も多かったです。私は週に数回吉田に来て医院を手伝い、長期休みには子どもと一緒に移動してくるという暮らしでした。それなので、落ち着いたら好きなことを学びたいな、と思っていたんですね。
――料亭がお庭になるまでは、途方もない道のりだったのでは。
渡辺さん:現在駐車場にしているところを含めて、敷地は約300坪。すべて業者さんにお任せする考えでいたんですが、とんでもない費用がかかるというので、そこからは二転三転、ほんとうにいろいろなことがありました。そこで造園に興味があった私に、「自分の手で庭を作る」という出番が回ってきたわけです(笑)

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カヤツリグサにゴロゴロ石。
頼れるパートナーと二人三脚で。
――お庭作りは、まずは建物を壊して更地にするところからですよね。
渡辺さん:この辺りは田んぼでしたから、少し掘るだけで水が出てきます。更地にした途端、地面の下に眠っていたカヤツリグサの種があたり一面に芽吹いて、もう大変でした。どうにもできず土木面だけでも建設会社さんにお願いすることにして。そこに黙々と仕事をしてくれる、とても優秀な方がいらっしゃってね。カヤツリグサを始末して、お庭の土台を作ってくれたんです。あの方がいなければ、「Watanabe Garden蔵」ははじまっていなかったでしょうね。
――厄介な草の処理を終えたあとは?
渡辺さん:土を入れなくちゃならないんだけど、それも高いでしょう。費用を抑えるために残土を選んだので、石が混在していてとても苦労しました。結局、運搬には数台のトラックが必要で、金額は大して変わらなかったという(苦笑)。それでもなんとか簡単な図面を作って、さきほどお話した優秀な担当者さんと相談しながら作業を進めていきました。地中海ハーブのエリアやバラに果樹類のコーナーも作り、車椅子やベビーカーでも通れるように通路の幅も考えてね。
――当時はどんな思いで進めていたんですか?
渡辺さん:楽しかったですよ。悩みながらも第3の人生がはじまったかな、って(笑)。あの頃のことを思い出すとドキドキしちゃう。もう一度やれと言われても無理ですもんね。まだ50代になったばかりだったからできたんですね。
――大変なことがたくさんあったと思います。
渡辺さん:応援してくれるお友達の存在は大きかったですよ。センスのよいアドバイスをしてくれて。蔵の入り口前にある竹は「残しておく方がいい」というので、そのままにすることにしました。あとは私がずっと育てていた木や渡辺家に代々植えられていた木も別の場所から移してきました。「使えるものは使い、古いものも生かそう」と思っていたので。

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20年かけて育てた、
植物たち。
――お庭にはどんな植物が植えられているんですか?
渡辺さん:せっかくだからご案内しますね。えぇっと、このもみじの木は吉田の家から新潟の自宅に植え替えたんだけど、また連れ戻してきたんです。サンザシは、今年はぜんぜん元気がなくて、どうしたんだろう……。そうそう、植えてから3年、今年はアーモンドが採れたんですよ。
――アーモンドなんて育てられるんですか!?
渡辺さん:びっくりでしょう(笑)。他にはユーカリ、憧れて植えた甘い香りのする菩提樹、ミモザの木。食べることが大好きなので、食べられる植物が多いんです。ゆず、あまなつ、ローリエ、姫りんごとその仲間のクラブアップル。今年はブルーベリーがとても立派な実をつけました。他にもラズベリー、プルーンもあるし、ハーブ類もいくつも植えています。
――いったい何種類あるんですか?
渡辺さん:数百種類だと思うんだけど(笑)。増えることもあれば、珍しいものを取り寄せて植えても育たない場合もあって。ここでは農薬や化学肥料を使わず、できるだけ自然の状態にしているので、その環境の中で生きていける子たちが残っているんでしょうね。
――ここまで豊かなお庭になるまでには、相当な時間がかかりましたね。
渡辺さん:「庭作りは10年」とよく言いますが、それはほんとうだな、と実感しました。10年かけてかたちにして、10年が過ぎるとまた別の問題が出てくるんですよね。長らく私とベテランスタッフさんだけで手入れをしてきたんですけど、ついにふたりだけでは手に負えなくなっちゃって。去年から知り合いのガーデナーさんにお手伝いをお願いしています。
――お庭の話に夢中になっていましたが、この蔵で営んでいるカフェについても教えてください。
渡辺さん:カフェをはじめるつもりはなかったんですけど、遊びに来てくださる人がちょっとゆっくりできればいいな、と蔵を改装してランチをはじめました。最初は、夫の産婦人科医院でおいしいと評判の給食を出していたんです。今はグリーンカレーとラタトゥイユの定番2種に、お庭で採れた植物から作ったシロップを使った季節のドリンクなどをお出ししています。


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庭との付き合い方は、
頑張りすぎずに。
――お庭のお手入れは毎日?
渡辺さん:それは無理ですよ。私、そんなにマメじゃないですから。「みんな、頑張って育ちなさい」という方針です(笑)。この環境で育つ植物を力強くしていくやり方ですね。バラにはほんの少し肥料を与えるだけなので、立派できれいなお花は咲きません。それでも咲くバラが頑張っています。
――渡辺さん流の育て方はあるんでしょうか?
渡辺さん:基本はテデトール、アシデフーム(手で取る、足で踏むの園芸用語)。あとは調べたり、人に聞いたり、失敗したり。収穫したものをシロップやチンキなどにして加工するのも試行錯誤の連続です。
――まさか新潟で育つなんて、と驚いた植物は?
渡辺さん:プルーンですね。まったく実をつける気配がなくて、「もう切っちゃおうか」と迷った翌年に実がなりました。それまで10年近くかかったと思います。ゆずは18年かかるとよく言いますね。この庭のゆずも18年くらいかけて、ある年に見事な花を咲かせ、実をつけました。あまりに実がなりすぎたのか、翌年は残念ながらいまひとつ。自然はほんとうにおもしろいですね。
――18年かかるなんて人間のようです。
渡辺さん:「忍耐」ですよね。だから一生懸命になりすぎるともたないの。もちろんプロの方はきちんとしていらっしゃいますけど、私の場合は「好きに育ってちょうだい」と、ある程度おおらかでいることが植物を育てるポイントのような気がします。
――ここは渡辺さんにとって、どんな場所でしょうか?
渡辺さん:この20年、庭作りが私の生きがいでしたね。来てくださる方も喜んでくださって。主人はときどき遊びに来て、息抜きに散歩をしています。草1本も抜かない人なんですけど、雑草の様子は気にかけてくれるんですよ。少しは安らげる場所になっているんじゃないかな(笑)。庭仕事に嫌気が差すことはなくはないんだけど、外に出ると癒されるんですよね。私はこのお庭でストレス解消していたんじゃないかな、と思います。


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