新潟の光と色を表現する、
ガラス作家「近藤綾」
カルチャー
2025.11.21
岩室温泉の一角に、ガラス作家「近藤綾」さんの工房があります。少し前までは陶芸家さんが作品づくりをしていたというこの場所で、近藤さんは、新潟の四季を作品に映し出しています。隣の母屋は夫婦で営む「岩室中華en」。ガラス作家としてスタートしたばかりのことや、どんな作品を生み出したいかなどについて、近藤さんにお話を聞きました。
近藤 綾
Aya Kondo
1990年新潟市生まれ。長岡造形大学卒業後、アメリカへ留学。美術系の大学「The Cleveland Institute of Art」でガラス工芸を学ぶ。2025年、岩室温泉に工房を構える。夫婦で「中国酒食堂en」「岩室中華en」を営業中。
理想の工房を求めて、岩室へ。
夫婦で叶えた、のんびりした暮らし。
――近藤さんの工房探しが、中華料理店「岩室中華en」のオープンにつながったそうですね。
近藤さん:作業場を兼ねた住まいで暮らしていたんですが、なにかと不自由なことが多くって。道具の置き場所に困るし、掃除もひと苦労。作業音が周囲の迷惑になりはしないかと、いろいろ気にしながら作業をしていました。思う存分、作品づくりができる環境を探していたところ「岩室によさそうな空き家がある」と教えてもらったんです。
――飲食店も工房も構えられる物件だなんて、ご夫婦にぴったりです。
近藤さん:ここは築30年の建物ですが、丁寧に使われていたようで、とても状態がよいんです。「素敵な家だ」と何人も内覧に来たそうですが、どうしたってこの作業場を持て余してしまうというので、なかなか成約しなかったと聞きました。工房探しをしていた私と、「新しい環境で中華のコース料理を提供したい」と考えていた夫。夫婦ともどもの理想である「のんびりした場所で暮らす」ことも叶いました。
――心機一転、制作に向き合えそうですね。
近藤さん:その通りなんですが、正直に言うと「中国酒食堂en」と「岩室中華en」が忙しくて、なかなか活動できていません(笑)。それはそれで、とてもありがたいことなんですけれども……。

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安定より、おしゃれより
「好き」を追い求めて生きる。
――そもそも、近藤さんはどういうきっかけでガラスに興味を持ったんですか?
近藤さん:子どもの頃に猪苗代の「世界のガラス館」に連れて行ってもらって、ガラス作品に強烈に憧れを抱いた記憶があります。大学時代は、テキスタイルや彫刻、欄間(天井と鴨居の間の開口部。彫刻が施されたり、組子や障子が用いられたりする)にも惹かれたんですけど、あるとき「ぜんぶガラスで表現できる」と気がついて。ガラスづくりには向かない「ガサツな性格」ではあるんですが、その性分を直すためにも、繊細なものを扱ってみようと思ったんです(笑)
――長岡造形大学を卒業して、その後、アメリカでもガラスを学ばれました。
近藤さん:チェコやイタリアなどヨーロッパがガラス製品の聖地とされていますが、1960年代終わりから1970年代にかけて「スタジオグラスムーブメント」(※)が起きたアメリカもガラスづくりが盛んな国です。
※スタジオグラスムーブメント……工業製品としてではなく、個人の工房で制作するガラスを芸術作品として扱う動き。この運動が世界へ広がり、個人作家の表現がより多様になったとされる。
――帰国後はどうしようと考えていたんですか?
近藤さん:「ガラスづくりを続けよう」と決めていました。そこに迷いはなかったです。当然、食べていかねばならない現実を思い知りましたけど……。
――作家活動を続けるにはどうしたらいいか、模索された時期があったんですね。
近藤さん:作家としての月々の支払いは、大変なんですよ(笑)。やっぱり「安定したい」という気持ちもあってですね。ちゃんとしたところで働いて、毎月決まったお給料をもらって、仕事の合間に作品をつくればいいと思ったこともありますが、無理でした(笑)。お金があると、遊んでしまうんですもん。
――てっきり「制作時間が取れない」という話かと思いきや、まさかの言葉でした(笑)
近藤さん:同僚と働くのも楽しいんですよ。お給料をもらえば、おしゃれもできるし、化粧品も買える、遊びにも行ける。そうなると私、きっとその生活の魅力に引き込まれてしまうと思って。どうしても、好きなことを続けたかったんですね。それで、普通に働くことはしないでおこうと思ったんです。

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パート・ド・ヴェール技法で
新潟の四季を繊細に表現。
――近藤さんは、パート・ド・ヴェールという技法で作品を完成させるそうですね。
近藤さん:細かくしたガラスを石膏の型に詰めて焼成し、冷やしてから型を外して、仕上げをする技法です。個人的には、吹きガラスのほうが向いているし楽しいんですけど、表現したいものを作るためにこの技法を選びました。生まれ育った新潟の四季や、どんよりした新潟らしい雲を表現するには、パート・ド・ヴェールがぴったりです。新潟の色は、やっぱり心地がいいんですよね。その景色をガラスに落とし込みたいと思っています。
――そう言われると、これは新潟の海みたいだし、こっちは夕日、それに稲穂みたいな色をしている器もあります。
近藤さん:新潟の海に夕日が沈むときの、紫ともピンクともいえない空の色が大好きで。あの瞬間をイメージした器もあるんですよ。
――新しい工房での作品づくりは、どうですか?
近藤さん:「離れ」にあるところが気に入っています。母屋で「岩室中華en」の女将業をして、ガラスに向き合うときはこちらへ来てと、いい具合に気持ちの切り替えができます。ここへ移ってきて、「ものづくりの環境があるって安心できるんだな」と実感しています。
――近藤さんの作品は、「en」さんでも使われているそうですね。
近藤さん:私の器をお客さまがどう感じるのか、表情やリアクションを間近で知ることができます。使い手さんの感想を聞けるのはとても新鮮だし、特別なことです。
――新しい拠点に移って1年目です。今後は、どんな活動を予定していますか?
近藤さん:私はガラスづくり、夫は料理の分野で、ワークショップを開催できそうだなと考えているところです。作品については、今まで以上に「柄」を多用したいと思っています。最近は色で表現することが多かったんですが、そこに模様を施して、これまで以上に新潟の季節の移ろいを表現したいと思っています。


近藤綾
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