Things

新潟の女の子たちの20年を描く群像小説、新作『グレーの空と虹の塔』。

新潟の女の子たちをモデルにしたお馴染みのフリーペーパー「新潟美少女図鑑」。創刊20周年の記念事業として、今年、1冊の小説が発売されました。『グレーの空と虹の塔 小説 新潟美少女図鑑』は、新潟の街で暮らす10人の女の子たちの20年間を描いた22話からなる、青春群像ストーリーです。作者である藤田さんに今作にまつわることについて、いろいろとお話を聞いてきました。

 

藤田 雅史 Masashi Fujita

1980年新潟市生まれ。日本大学芸術学部卒。著書『ラストメッセージ』『サムシングオレンジ』『ちょっと本屋に行ってくる。』など。今年『サムシングオレンジ』が「サッカー本大賞2022」優秀作品に選出され読者賞を受賞する。8月20日に『グレーの空と虹の塔 小説 新潟美少女図鑑』を発売。最近、競馬をやめることに成功しつつある。

 

新潟で暮らす女の子たちの人生が交錯し合う、22の物語。

――まずは『グレーの空と虹の塔』をリリースすることになった経緯から教えてください。

藤田さん:もともと2007年から3年くらい「新潟美少女図鑑」でコラボ小説の連載をやっていたんです。それで、ディレクターの小林さんと去年の春くらいにお会いしたときに、2022年で美少女図鑑が20周年を迎えるっていうのを聞いて、「じゃあこのチャンスに」ってことで書かせていただきました。今このとき、このタイミングじゃないと書けなかった本だと思います。

 

――全部で22話ですが、当時連載されていたものを土台にして書かれた回もあるそうですね。

藤田さん:基本的には書き下ろしなんですけど、連載当時に読んでくれた人たちと今だからこそつながりたいなという気持ちもあって、3編だけ、前の話の登場人物を変えて書き直しました。でも感覚としては「1冊まるごと書き下ろし」って感じですね。去年の夏に書きはじめて、やっと出来上がりました。

 

ウィズビルの閉店、古町や万代で過ごした何気ない時間……新潟で暮らしてきたからこそ感じられることを小説に。

――ひとつひとつの物語はどのように発想しているのですか?

藤田さん:テーマとか、光景とか、シーンとか、作り方のスタートという意味ではさまざまなんですけど、今回の場合、ひとつには「新潟に暮らしていて自分にとって印象のあるものを書きたい」というのがありました。

 

――それは例えば?

藤田さん:例えば、ウィズビルがなくなったときってものすごい衝撃だったんです。「あっ、建物が完全に消えてる」「まっ平らになった」って。そのインパクトって、同じ世代の人にはきっと共感してもらえるんですよね。あとは高校時代の、帰宅部だったんで友達と用もないのに放課後自転車で古町とか万代に行って、マックとか、たいして好きでもないゲーセンとかでだらだらした「ああいう無駄な時間を書きたい」とか。「西堀が一方通行じゃなくなったことを書きたい」とか。レインボータワーのある風景、というのもひとつの時代の消失という意味ではとても象徴的ですよね。

 

――じゃあそれぞれの話の根底には、藤田さん自身の経験があるんですね。

藤田さん:新潟の街を描く、ということでいえば、もちろん自分の経験がベースにあると思います。「実体験ですか?」ってよく聞かれるんですけど、実体験はないですよ。あるとしてもディテールだけで。あくまでフィクションなので。でも自分が実際に感じたことがフックになって、そこから話を広げていく、まとめていくっていう感じで書きました。

 

 

――読んでいて気になっていたんですけど、登場人物にはモデルがいるんですか?

藤田さん:「この人をモデルに書きました」っていうのはないです。ただ友達とか知人とかの断片が合わさったりはしています。「この登場人物の20%はこの人かもしれない」っていうのはありますね。ゲス男として出てくる「美容師の佐藤さん」はね、書いていて楽しかった(笑)。こういう人、本当にいそうな気がするんですよね……。

 

――SNSで「登場する男はクズ率が高い」と言われたそうですが(笑)

藤田さん:仰る通りで。自分が男だからだと思うんですけど、人間としてカッコいい男の人を書くのって、なんか白々しいんですよ。ああいう醜さっていうか、女の人から「クズだな」って思われる男を書くのは楽しいです(笑)

 

――そうなんですね(笑)。他にも思い入れのある登場人物はいますか?

藤田さん:主人公の10人に関しては、書いているあいだ1年間ずっと付き合ってきたので、思い入れは均等にあります。もちろんフィクションなので客観的に書いているんですけど、書く、って場面ごとにちゃんと「その人」にならないと書けなくて。他人を書きながらもどこか自分を書いているっていう感覚があります。だからみんな、自分、でもあるんです。性別や年齢は違っても。

 

 

――今回の物語を書く上で、藤田さんが意識していることってありますか?

藤田さん:「彼女は幸せになりました。めでたしめでたし」みたいなハッピーエンドの羅列にしないこと。あんまり話に白黒つけたくないんです。なんだろう、今ってけっこう何でも白黒つけたがる世の中ですけど、「でもそんな白黒つけられることって人間あんまりないよな」って常々思うんです。濃いグレー、薄いグレー、真ん中のグレー、普段、人はそういう濃淡の中を泳いで生きているっていうか。それで新潟のグレーの空をタイトルとして象徴的に使ったっていうのもあります。

 

――人の感情がそもそもそうですよね。はっきり白黒ついているわけじゃない。

藤田さん:「相手のことを好きじゃなきゃ結婚しちゃいけない」とか、まあ確かにそうなのかもしれないけど、そうじゃない人もいるかもしれないよね、いろいろ事情はあるよね、っていう。でも、人間、いつか終わりがくるならそのときハッピーエンドであればいいな、っていう希望はあるし、そのイメージを持ってもらえる終わり方にはしているつもりです。結末が悲惨な子はいないです。

 

新潟で同じ時代を生きた人に、懐かしんで読んでほしい。

――藤田さんは大学進学で上京されていますよね。それから20代の半ばに新潟に戻ってきたそうですが、新潟に帰ってきたことを後悔したことはないですか?

藤田さん:17年前に父が亡くなって、まあ家族のことを考えたら戻ってくるしかないなと思って実家に帰ってきたんですけど、自分で決めたことだから後悔はまったくないですね。だけど、やっぱりなんか「自分はここにいていいんだろうか」っていうのがずっとあって。でも今回これを書いて本になって、「新潟に帰ってこないとこれは書けなかったな」って思ったときに「帰ってきてよかった」って、ちょっと楽になったというか、スーッとした気持ちがありました。

 

――上京する主人公も出てきます。

藤田さん:春が近づいて、東京は暖かいのに自分だけが新潟と同じ気候のつもりで分厚いコート着て上京して野暮ったくて恥ずかしかった、っていうのは実体験です(笑)。新潟と東京は近いし、夢を持って東京に行く人はいつの時代も多いですよね。ユキという女の子の「WiTH」っていう話は、最初はウィズビルがなくなったときの喪失感を書きたいと思って書きはじめたんですけど、書いているうちに、そういう、東京に出て行く人の「夢が生まれる瞬間」を書きたいなと方向転換して出来上がった話です。

 

 

――今回の小説を執筆する中で、藤田さんにとっての個人的な気づきのようなものはありますしたか?

藤田さん:人って、だいたい時間の流れを「過去」「現在」「未来」の3つに分けて考えていますけど、人間って結局「今」というひとつの点しか生きられないんですよね。「未来」っていうのはいつかやって来る「今」で、「過去」っていうのは過ぎ去った「今」のことで。人間って結局、「今」しか所有できないし、「未来」も「過去」も「今」の中にしかないんだ、どちらも「今」のためにあるんだと、書いていて気づきました。

 

――最後に、この本をどんな人に手に取って欲しいですか?

藤田さん:新潟で同じ時代を生きた人に読んで欲しいです。21世紀の新潟を知っている人であれば、若い子でも年配の方でもどこか共感してもらえるところがあると思うし、懐かしんでもらえるだろうし。もちろん新潟の人じゃなくてもできるだけたくさんの人に届いてほしいですけど、でも新潟の人ならこの小説のローカル感をより楽しんでもらえると思います。あと、読んでくれた人が街を歩いているときに、登場人物が目の前の街の景色の中にふわっと出てきてくれたりしたら嬉しいな。

 

 

 

『グレーの空と虹の塔 小説 新潟美少女図鑑』

著者:藤田雅史

企画制作:TEXFARM

発行所:ホイッスルスポーツ

発売日:2022年8月20日

定価1,760円(税込)

新潟県内各書店で発売中。

 

■藤田雅史

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
  • 部屋と人
  • She
  • 僕らの工場
  • 僕らのソウルフード
  • Things×セキスイハイム 住宅のプロが教える、ゼロからはじめる家づくり。


TOP