地元の水や米にこだわった「近藤酒造株式会社」の酒づくり。
ものづくり
2023.09.19
一年のうち最も寒さが厳しい時期の、「寒九の水汲み」という行事を知っていますか? 「菅名岳(すがなだけ)」という日本酒の仕込みに使う清水を汲むために、冬の菅名岳に登る行事で、往復3時間もかかる山道をせっせと歩くのだとか。毎年冬になるとテレビニュースや新聞で報道されていたので、ご存じの方も多いと思います。「菅名岳」や「寒九の水汲み」について、五泉の「近藤酒造株式会社」を訪ね、8代目社長の近藤さんにお話を聞いてきました。

近藤酒造株式会社
近藤 伸一 Shinichi Kondo
1949年五泉市生まれ。東邦大学薬学部卒業。水戸の酒類総合メーカーでの修業を経て1971年に「近藤酒造株式会社」へ入社し、2001年に社長に就任。令和元年秋に黄綬褒章受章。蕎麦やラーメンが好きで、お気に入りは博多ラーメンの「一風堂」。
薬剤師を目指していた老舗酒造の8代目。
——まずは「近藤酒造」さんの歴史を教えてください。
近藤さん:はっきりとした創業年はわからないのですが、慶応3年の「越後醸酒家一覧」に「吉沢 大和屋和吉」の名があることから慶応元年には酒づくりをしていたとみています。慶応3年といえば坂本龍馬が暗殺された年ですね。以来「和吉」の名は代々襲名されていて、私は8代目「和吉」ということになります。
——創業からずっとこの場所で続いてきたんでしょうか?
近藤さん:昭和20年に起こった五泉大火で何もかも焼けてしまったときは、「瀧澤酒造」さんを頼って川内地区の山奥で酒づくりをしていた時期もありましたが、6年後には当地の酒蔵を復興して、それに併せて法人化しました。現在の酒蔵はそのときに建てたものです。

——昭和26年から70年以上も続いてきた建築物なんですね。ところで近藤さんは「8代目和吉」ということですが、最初から酒蔵を継ごうと思っていたんですか?
近藤さん:思っていませんでした(笑)。親父も「これから酒造業界はどうなるかわからないから、別な職を身につけた方がいい」と言ってくれたので、薬剤師を目指して大学で薬学を勉強したんです。
——それなのに「近藤酒造」を継いだのは、どうしてなんでしょう?
近藤さん:大学4年のときに父からいきなり「そろそろ帰ってきて、うちの酒蔵で働かないか?」と言われたんです。それを聞いて「話が違うじゃないか」と思いましたね(笑)。酒づくりの知識をつけるため、父の知り合いが副社長を務めていた水戸の酒類総合メーカーで修業をさせてもらいました。

人気グルメ漫画で紹介され、大ブレイクした「越乃鹿六」。
——「近藤酒造」さんでは、今までにいろいろなお酒をつくってきていますよね。
近藤さん:創業時につくっていたのは「榮三輪(さかえみわ)」というお酒です。奈良にある「三輪明神大神(みわみょうじんおおかみ)神社」は酒づくりの神様をお祀りしている神社としても知られていて、神木の杉にちなんで新酒ができた証に掲げられたのが「酒林(さかばやし)」と呼ばれる杉玉なんですね。

——じゃあ「榮三輪」の名前は、その神社に由来したものなんですね。
近藤さん:そうなんですよ。しばらくつくっていなかったんですが、このたび復刻することになったんです。とりあえず深みのある味わいを楽しんでいただきたくて「三年古酒」として販売しましたが、今後は新酒としても販売していく予定です。
——創業時の味が楽しめるわけですね。
近藤さん:その次につくられたのが、6代目の頃の「酔星」です。キレの良さと飲み飽きしない酒質で、主に地元で愛され続けてきました。
——やはり地元で飲み続けられるお酒が多いんですね。
近藤さん:「越乃鹿六」は人気グルメ漫画「美味しんぼ」のなかで「エスカルゴに合う日本酒」として紹介していただいたことで、東京を中心に人気が出たんです。最初の年は2,000本、翌年は6,000本、その翌年は19,000本と3倍ずつ売れゆきを伸ばしていきました。
——それはすごい! 人気漫画の影響って大きんですね。
近藤さん:事前に掲載についてのご連絡をいただいていなかったので、知らないうちに話題になっていて驚きましたね(笑)
冬の雪山で汲んできた清水を使って造る、清酒「菅名岳」。
——私は「近藤酒造」さんと聞いて思い浮かぶのが「菅名岳」なんですが、このお酒はどんな思いから生まれたんでしょうか?
近藤さん:地元の特色を生かした商品を作りたいという思いから誕生したのが「菅名岳」です。五泉の特色のひとつとして、綺麗な水が挙げられます。美味しい里芋やレンコンができるのも、質の良い水のおかげなんです。そこで菅名岳の清水を使って日本酒を試作してみたら、思った通り美味しいお酒ができたんですよ。

——どんなふうに美味しいお酒ができたんですか?
近藤さん:菅名岳の清水は超軟水ですので、柔らかい口当たりで後味もいいので、飲みやすい日本酒ができるんです。また、鉄分が少ないから色や味が変質しにくくて、日本酒をつくりやすい水なんですよ。特に菅名岳中腹から湧き出ている「どっぱら清水」が最適でした。
——その水を汲みにいく恒例行事が「寒九の水汲み」だったんですね。
近藤さん:1年のうち最も寒さの厳しい寒の入りから9日目の「寒九の水」は最も澄んでいて、その水を使うと最高の日本酒ができるといわれているんです。最初は弊社の社員だけで汲みに行っていたんですが、やがて「越後泉山会」の酒屋さんたちにも協力してもらうことになり、最後は一般公募で参加者を募集していました。
——「越後泉山会」って何ですか?
近藤さん:「菅名岳」は生産量が多くないので、弊社の思いや趣旨に賛同してくださる酒屋さんを選んで限定販売させていただいているんです。その会の名前が「越後泉山会」なんですよ。

——「寒九の水汲み」って、冬の風物詩みたいになっていましたよね。
近藤さん:新聞やテレビニュースで何度も紹介していただいたおかげで、40回ほど続いてきました。往復3時間かかる山道を、男性は20kg、女性は10kgの清水を担いで歩くんですが、大雪のために登山を断念したり、不慮の事故に遭ったりすることもあって、今後は安全面を考えて水汲み登山を取りやめることにしたんです。
——それは残念ですが仕方ないですね。
近藤さん:麓でも十分美味しい清水は汲めるんですよ。あとね、水だけじゃなくてお米にもこだわっているんです。新潟産の酒造米「越淡麗(こしたんれい)」を使っているんですけど、最初は自家栽培していたんですよ。でもこのお米は醸造には向いているものの、穂発芽しやすくて栽培が難しい品種なんです。少しでもいいお米を使いたいので、自家栽培もやりながらプロの農家さんへも委託栽培をお願いしています。

日本の文化でもある日本酒を世界に輸出。
——酒づくりで苦労するのはどんなことでしょう?
近藤さん:お酒は生き物ですから、温度管理には神経を使いますね。温度によって発酵や熟成が早くなったり遅くなったりするので、こちらの都合通りには進んでくれないんですよ。他の作業と重なってしまうと予定が変わってしまって、急に人手が足りなくなってしまうこともあります。
——予定通りにいかないのは大変ですね。
近藤さん:暖かい年には氷で冷やすこともあるんです。春になると気温が上がってしまうので、雪を探してきてタンクの周りに積んで冷やします。雪が見つからないときは、氷を買ってくることもあります。とにかく気温との戦いなんですよ。

——苦労されながらお酒をつくっているんですね。
近藤さん:だからこそ、お客様に喜んでいただけると励みになるんです。そのためにもエンドユーザーの声を聞く機会は大切にしています。JR新潟駅のなかにある「TABI BAR & CAFE」さんで行われる試飲会や、「にいがた酒の陣」はとても参考になりますね。
——近藤さんは日本酒の魅力をどのように考えていますか?
近藤さん:日本酒は人と人を結ぶコミュニケーションツール……「和材(わざい)」だと思っています。「和材」っていうのは私の作った言葉なんだけど、お互いにお酒をお酌し合う「さしつ、さされつ」って、他の国にはない日本独自の文化だと思うんです。そんな文化を持つ日本酒を、少し前から世界に輸出しはじめているんですよ。
——えっ、そうなんですか?
近藤さん:フランスの料理店に売り込もうと「越乃鹿六」を輸出用に「KAROKU」として売り出したんです。ところがフランスよりも日本のフランス料理店で受けちゃったんですよ(笑)。現在はアメリカやシンガポールに向けて日本酒を輸出しています。世界に向けて日本酒が羽ばたいてくれたら嬉しいですね。

近藤酒造株式会社
五泉市吉沢2-3-5
0250-43-3187
8:00-117:00
土日曜休
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