南魚沼市にある紅葉の名所「しゃくなげ湖」。湖といってもこちら、実は三国川(さぐりがわ)ダムの貯水している「ダム湖」なんです。湖面にはピークを迎えた紅葉が、鮮やかな陰を映していました。この三国川ダムは、きれいに整備された天端公園や情報館などの設備があったり、ダム内部の点検トンネルの一般公開を行っていたりと、地域に開かれたダム。今回は三国川ダムの専門官・中嶋さんに、ダムについてのいろいろなお話を聞き、点検トンネルの中にも案内してもらってきました。
国土交通省 北陸地方整備局 三国川ダム管理所
中嶋 邦博 Kunihiro Nakajima
1966年上越市生まれ。国土交通省 北陸地方整備局 三国川ダム管理所 専門官。1984年に三国川ダム工事事務所入社。その後、いろいろなダムなどを転勤して、2019年に三国川ダムに戻ってくる。
——今日はよろしくお願いします。紅葉がダム湖に映って、とってもきれいですね。
中嶋さん:三国川ダムのダム湖は「しゃくなげ湖」と呼ばれていて、紅葉の名所としても有名なんです。しゃくなげ湖の周囲は一周することができて、紅葉を見ながらドライブやウォーキングすることもできます。周辺にはキャンプ場もあって、レジャーを楽しむ人も多いですね。ダムの上流には「十字峡」という渓谷があって、こちらの紅葉も見応えがありますよ。紅葉の見頃は10月後半〜11月前半。11月の半ばからは雪が降り始めます。
——「十字峡」以外にもダム景観の見所はあるんでしょうか?
中嶋さん:三国川ダムの「3大スポット」として、秋の「十字峡」の紅葉をはじめ、春の桜と越流、夏の新緑があります。ただ、これは公式に定めたものではありませんけどね。あと夏場は「ダム資料館」の開館時期に合わせて、毎週末にダム全体と管理所前にあるモニュメントのライトアップをおこなってます。夏の夜はミヤマクワガタやノコギリクワガタがたくさん照明に寄って来て、一晩に軽く10匹くらい採れるんです。採集したクワガタ虫は夏のイベントで子ども達にプレゼントしてます。
——カブト虫も採れるんですか?あと、野生動物も見れるんでしょうか?
中嶋さん:なぜかカブト虫はあんまりいなくて、クワガタ虫ばっかりなんですよね(笑)。野生動物はもちろん見れますよ。「十字峡」のあたりではニホンカモシカが見られることもありますし、クマが道路にいたという話も聞きました。以前、上流の川が荒れて濁った時は、サル達がきれいな水を求めて降りてきて、ダムにあるモニュメントの噴水で水浴びしていたことがありました(笑)
——三国川って普通は「みくにがわ」とか「さんごくがわ」とか読んじゃいますよね。
中嶋さん:「さぐりがわ」と読むんですよね。このいわれは諸説あるんです。一説には、この川が越後の国(新潟県)、上野の国(群馬県)、岩代の国(福島県)の三国にまたがっていたことから「さんくに」がなまって「さぐり」になったのではないかと言われています。ちなみに、このダムを境に日本海と太平洋にそれぞれ流れが分かれているんです。
——三国川って、どんな川なんですか?
中嶋さん:越後三山から魚沼盆地へ下っていく中で、魚野川と合流して信濃川に注がれる川です。三国川の歴史は洪水の歴史と言っていいほど、洪水を繰り返してきたんです。昭和44年の水害では死者4名、重傷者9名、3,300戸の建物に被害を与えました。また昭和42年と48年には渇水で米作りに深刻な被害を与えています。
——今見るとそんな大変な川に見えないですけどね。
中嶋さん:それも三国川ダムのおかげなんですよ。三国川ダムは洪水や渇水に脅かされず、水資源を確保するために造られたダムなんです。三国川ダムの役割は「洪水調節」「流水の正常な維持」「水道用水の供給」「発電」の4つなんです。三国川の水をコントロールしたり、いろんなことに利用したりしているんですね。
——ダムで働いている職員さんは普段どんな仕事をしているんですか?
中嶋さん:管理所にいる8人の職員が、ダム機能を正常に保つために、測定、点検、整備といった維持管理業務を行っています。たとえば、ダムに漏れている漏水量の測定、機械設備の点検、自然環境調査とかの管理業務です。
——中嶋さんはどんな仕事をしているんですか?
中嶋さん:おもに洪水調節の仕事をしています。どれだけ雨が降ったかでダムの水量を予測して、放流する水を増やすかどうかの計画を立てます。放流することが決まったら、下流の状況をカメラで監視したり、パトロール車で確認して回ったり、スピーカーやサイレンで警報を鳴らしたりして、川のそばに人がいないことが確認できてから放流を始めるんです。
——じゃあ、大雨の時は大変なんじゃないですか?
中嶋さん:いや、もう大変ですね。大雨が降りそうな時はダムに詰めて待機していなければなりませんので。先日の台風19号の時も30時間対応していました。ダム下流の南魚沼市をはじめとする住宅街を浸水被害から防ぐために、上流の雨の降り方、流れ込む水量、下流の川の状況を随時確認しつつ、ダムへ貯め込む水量と下流の川へ放流する水量を決めるゲート操作にあたっておりましたので。
——三国川ダムはいつ頃完成したんですか?
中嶋さん:昭和50年に実施調査を始めて、その2年後に工事が始まりました。ダムが完成して竣工式が行われたのは平成4年のことです。完成までに20年近い歳月かかってるんです。ダムの型式は「中央コア型ロックフィルダム」というものです。
——「中央コア型ロックフィルダム」ってどんなダムなんですか?
中嶋さん:コンクリートではなく、粘土、岩石、砂利を積み上げて造られたダムのことです。三国川ダム建設予定地の地形を調査してみて、「中央コア型ロックフィルダム」が最適だということになったんです。現地の地質に構造的に適合したということと、盛り立てに使う岩石や砂利がダム近隣で手に入り、コストを下げることができるということが決定要因になりました。
——コンクリートのダムと違って、自然に溶け込んでいる気がしますね。でも、これだけの石や岩はどこから持ってきたんですか?
中嶋さん:ダム湖の向こうにある山を見てください。ピラミッドのような段々がありますよね?あの山を発破で崩して岩や石を確保したんです。盛り立て工事は24時間ぶっ続けでおこなわれ、4〜5年で盛り立てが完成しました。ちなみに、このダムの建設で水没した家屋は一軒もないんです。
——お話を聞いてダムにますます興味が出てきてしまいました。
中嶋さん:じゃあ、ダムの中を探検してみますか?三国川ダムでは「監査廊(かんさろう)」という点検用トンネルを一般開放しているんです。月曜、木曜、金曜は4回、土曜、日曜、祝日は5回見学を受け付けています。各回開始時間の10分前までに情報館受付で申し込みしていただき、定員14名で締め切らせてもらってます。
——え?ダムの中を見ることができるんですか?でも、どうして一般公開してるんですか?
中嶋さん:この三国川ダムは国土交通省から「地域に開かれたダム」に指定されているんです。ダム湖の活用を推進したり、地域の活性化を図ることを目的とした事業なんです。多くの人からダムに親しんでもらい、その役割をより深く知ってもらうというメリットもあるんです。
——なるほど。じゃあ、早速案内してもらっていいでしょうか?
中嶋さん:まずエレベーターで天端から約100m下の監査廊に降ります。監査廊は現在点検や整備のために使われているトンネルです。気温は12℃くらいで安定しているので、夏は涼しいし、冬は暖かく感じるんですよ。
——今日はあんまり気温差を感じないみたいですね。この階段はすごく急傾斜ですね!
中嶋さん:この500段の登り階段はダム天端の左右両脇につながっているんです。山の斜面に沿って作られた階段なので、40度くらいの急傾斜になっています。下り階段はダムの麓まで続いているんですよ。じゃあ今度は放流路にご案内します。
——これが放流路ですか。すごい勢いで水が流れていきますね!
中嶋さん:農業用水や水道水の利用に必要な水を流す時に使う放流路です。利水放流ゲートを必要な水量分開けることで放流される仕組みになっています。今は時速70kmくらいの速度で放流水が流れているんですよ。
——中嶋さんは三国川ダムに対してどんな思い出があるんですか?
中嶋さん:私は昭和59年に建設省三国ダム工事事務所に入ったんです。まだダムはなくて道路を作っていた頃でした。ダムの建設現場に関われて、その後は管理業務にも関われたのはよかったと思っています。転勤でいろいろな場所に行って、三国川ダムに戻った平成23年に過去最大級の洪水に出くわしたんです。土砂崩れで道路が寸断されて車が通れなくて、10日間ほど徒歩でダムを登ったのは大変でしたね。でも、その時あらためて三国川ダムの防災効果を実感することができました。今後は自分の経験を若い後輩に伝えていきたいですね。
「しゃくなげ湖」の紅葉シーズンは残念ながら終わってしまいます。でも、ダム点検用トンネルは11月30日まで一般開放されていますので、ドライブがてら三国川ダムを訪れ未知の世界を探検してみるのもいいのではないでしょうか?そしてダムの役割の大きさに触れ、その素晴らしさを感じてみてほしいです。
国土交通省 北陸地方整備局 三国川ダム管理所
〒949-6741 新潟県南魚沼市清水瀬686-59
025-774-3015
8:30-17:15
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