今年の2月、三条市の本町商店街の一角にとある本屋さん「SANJO PUBLISHING」がオープンしました。「本屋」だけではなく、「喫茶」と「編集」の機能も備えている、珍しいかたちのお店です。3人の男性がそれぞれの部門を担当して運営しているんだとか。今回は本屋担当の町田さんと、編集担当の水澤さんに、いろいろとお話を聞いてきました。
SANJO PUBLISHING
町田 憲治 Kenji Machida
1995年上越市生まれ。「SANJO PUBLISHING」本屋担当。新潟大学で文化人類学について学んだ後、青年海外協力隊としてアフリカで活動。昨年2月に帰国。三条市で本屋を立ち上げるプロジェクトの存在をSNSで知り応募。趣味は読書、散歩、音楽を聴くこと。星野源が好き。
SANJO PUBLISHING
水澤 陽介 Yosuke Mizusawa
1987年胎内市生まれ。「SANJO PUBLISHING」編集担当。県内の高校を卒業後、関東の大学に進学。そのまま関東で数年間企業に勤めた、26歳のときに沖縄へ。コワーキングスペースを運営するなかで「Next Commons Lab」の代表と出会い、三条市でのプロジェクト立ち上げを知り応募。趣味は甘いものを食べること。
——気になっていたんですけど、お店の入り口にもあった「3」のようなマークは?
町田さん:三条の「三」と、本を開いたときの形を表しているんですよ。
——なるほど!このお店にぴったりのデザインですね。まずは、お店がオープンすることになった経緯から教えてください。
町田さん:そもそも、三条市が「Next Commons Lab」という一般社団法人に、「この街を盛り上げる場所をつくりたい」と依頼したところからはじまります。どういう場所につくるかを決めるために三条燕地域に住む人たちに話を聞いていくなかで、「本屋さんってあんまりないから、本屋さんにしよう」って流れになったんです。それで、一階が本屋さんで、二階をカフェにして、更に編集制作の部門をつけて、と決まっていったんです。
——本屋さんにプラスして、喫茶と編集の分野を取り入れたのはどうしてですか?
町田さん:現実的に本屋さんは、商売として成り立たせるのが簡単ではないというのが理由のひとつです。それと、お店に来られる方の間口を広げたり、珈琲を飲むついでに本を読んでもらえたりするので、喫茶と本屋って相性がいいんですよ。あとは、本と編集っていうのは切っても切り離せないものなので、「本を売るだけではなくて出版ができるようになったらいいね」ということでこの構想になりました。
——そうか、だから店名に「PUBLISHING」が入っているんですね。お店のコンセプトである、「まちを編集する本屋さん」とはどういう意味なんでしょうか?
町田さん:「編集」っていうのは「よいところをPRする」っていう意味と、「よさとよさをつなげる」という意味があって。ものづくりが盛んなこの街で、そこに住む方々をつなげることで、まだちゃんと伝わっていない、この街のよさをさらに引き出せる場所になれたらと思ったんです。
——水澤さんにお聞きしたいのですが、編集部門では実際にどのようなことをされているんでしょうか?
水澤さん:燕三条でプレイヤーとして活躍する人を紹介して、最終的にはその人のパーソナルな部分が覗けるような本を出版できるように準備を進めている最中です。3階に編集室を立ち上げる計画があるんですけど、それもそのひとつです。その前に今は、燕三条にはどんな人がいるのか、改めて可視化できるようなサイト作りをしています。直近だと、5日間で10か所の会社さんに取材させていただきました。「人」という入り口から、その会社さんがどんなことを行っているのか知ってもらえるように、かたちにしているところです。
——Thingsに近いものを感じます。実際に話を聞いてまわってみて、何か気づきはありましたか?
水澤さん:地元の人ほど地元のことを知る機会がないなって感じました。例えば、包丁を作っている工場が「男性より女性のほうが職人に合っているんじゃないか」と考えて積極的に女性の方を採用していることとか、「ものづくりは45歳から一人前としてスタートする」と言われてきたなかで、プレイヤーではなくものづくりの仕組みをつくる「研究」っていう道を選ぶ方が現れているとか。そういう、ものづくりへの関わり方が広がってきていることを、地元の方や出身の方にお伝えする機会を増やしていきたいです。
——へ~、知らなかったです。ものづくりの業界も多様化してきているんですね。
——町田さんは、ここで働かれるまではどんなことをされていたんですか?
町田さん:青年海外協力隊で、アフリカに1年と10ヶ月、行っていました。
——アフリカではどんな活動を?
町田さん:自分は給水と衛生の分野で派遣されていました。ポンプを普及させていた地域があって、その後の現状把握と、更にポンプを普及させるにはどうしたらいいのかの検討をしていました。あと、手洗い指導とかの衛生啓発も行っていました。
——学生のときから卒業後は青年海外協力隊に参加したいと考えていたんですか?
町田さん:大学では文化人類学について学んでいましたし、留学生と交流するサークルにも入っていて、そういう国際的なことには興味があったんです。
——そうだったんですね。そこから、どんなきっかけでこのお店で働くことになったのでしょうか?
町田さん:本当は去年の7月までアフリカにいるはずだったんですけど、コロナの影響で2月に帰ってくることになったんです。仕事を探したり友達とのんびり過ごしていたなかで、SNSで流れてきた本屋担当スタッフの募集を見て応募しました。そこで初めて「Next Commons Lab」の存在とか、三条市でこういうお店を立ち上げようとしていることを知ったんです。
——その募集のどんなところに興味を持たれたんでしょうか。
町田さん:もともと、国際的な分野と並行して地域おこしにも興味があったのと、昔から本が好きだったので、本屋さんっていうところにも惹かれました。
——昔はどういった本を読まれていたんですか?
町田さん:小学生のときは「ファーブル昆虫記」、中学生では「竜馬がゆく」とか読んでいました。小説とか、学問的な本が割と好きでしたね。
——こちらに置いている本は、町田さんがセレクトしているのでしょうか?
町田さん:だいたいそうです。
——どういうテーマで選ばれているんですか?
町田さん:「ものづくり」をテーマに、デザイン系の本や、アート系の本を置いています。本を読むことで新しくアイデアが沸いたり、燕三条の企業さんのことを新しく知れたりするので、読んだ人に、この街でのものづくりの意欲につなげてほしいと思っています。あとは僕が好きなのと、とっつきやすいように小説も揃えています。古本が多いんですけど、新刊も少しずつ入れているところです。自分の趣味で置いている本もありますが(笑)
——本に関するイベントも行っていると聞きました。
町田さん:直近では、読書会を開催する予定です。三条別院の僧侶の方が作ったフリーペーパーがあるんですけど、ここで紹介されている本の著者の方が新刊を出されたので、取り上げさせていただきました。
——街の本屋さんならではの企画ですね。今後はどんなイベントをやってみたいですか?
町田さん:個人的には、本を書いた方を呼んで、著者イベントとかやってみたいです。それと、3階にオープンする予定の編集室を使って、印刷や製本ができて、実際にZINEとかも作れるような場所と機会を作りたいと考えています。
——それは楽しみですね。町田さん個人としての夢はありますか?
町田さん:ここで働き始めるまでは海外のことと地域のこと、ふたつに興味があって、どっちかに関わる仕事ができたらいいなと思っていたんです。そこに新しく「本」っていう文脈ができて。自分は本を読むのも好きですが、本を届けるのも好きなので、ただ売るだけじゃなくて、地域へ刺激を与えられる場所になりたいと思っています。それを実現させるには自分も、選書や企画、人との関係性とか、まだまだ力が必要なので、場所と共に成長して、この場にふさわしい人間になりたいです。
SANJO PUBLISHING
三条市本町2-13-1
11:00-19:00
火・水曜休