上越市東本町、懐かしさが残る雁木通りにある「たてよこ書店」。オーナーは、東京と上越で2拠点生活を送っている堀田さんです。学生時代に「たてよこ書店」をはじめ、現在は若手支援事業と書店オーナーというふたつの仕事を「なりわい」としています。学生起業を決めたきっかけや、社会人になってからの気持ちの変化など、堀田さんの本音を教えてもらいました。
たてよこ書店
堀田 滉樹 Koki Hotta
2000年上越市生まれ。東京の大学へ進学し、在学中の2022年に、地元上越市に「たてよこ書店」をオープン。大学卒業後は、東京と上越の2拠点生活をしながら個人事業主として働いている。景色を眺めながらのお散歩が好き。
――在学中に「たてよこ書店」をはじめたそうですね。東京の大学へ通いながら、どうして上越で書店を開こうを思ったんでしょう?
堀田さん:「自分で自分の仕事をつくりたい」と思ったからなんです。それで大学3年次に休学し、「たてよこ書店」をはじめました。
――なんて頼もしい。
堀田さん:コロナ禍で、大学2年生のときに学校へ通う必要がなくなったんです。1年目は普通に大学へ通って、サークル、バイトといろいろあったのに、2年生になってからは授業はすべてオンラインになって。その頃、コミュニティデザインにまつわる本を読んで「まちと関わる仕事が存在するんだな」と関心を持つようになりました。それで、もう東京にいる必要はないので、2年生の夏休みに福島の山奥で過ごして、地域づくり系のインターンシップに参加したんです。そのあとは、1ヶ月安く滞在できる場所を探して、広島県の尾道市のゲストハウスで生活しました。
――いろいろな地域を知りたい気持ちがあったんですか?
堀田さん:「自主的に住む場所を選びたかった」って感じですかね。「大学に通わなくちゃいけない」縛りがないので、選択肢はすごく増えました。
――最初に話してくださった「自分で自分の仕事をつくりたい」というのは、起業するとかそういうイメージですか? それとも、今までにない仕事を作ってやろうみたいな気持ちだったんでしょうか?
堀田さん:「今までにない」みたいな革新性は、求めていなかったですね。純粋に、自分の生活を自分で組み立てるっていうか、「自分なりのなりわい」を作ってみたかったんです。加えて、福島と尾道で生活してからは「いくつかの拠点で暮らしたい」とも思うようになりました。そういうライフスタイルを叶えるとなると、「新卒で就職はできないよな」という考えになって。
――いわゆる「会社勤め」は、選択肢から外れたわけですね。
堀田さん:それは、もう無理だと思いました。理想の生活を実現するために、個人事業主の道を選んだんです。
――学生の頃から「こうしたい」って考えがあって、ちゃんと実現するなんて、なかなかできないですよ。
堀田さん:社会を知らなかったから、できたのかも(笑)。現実的に考えると「かなり無茶なことだったのかな」って、今は思います。ただ、当時は「できる」と思っていたし、一度は挑戦してみたかったんです。
――いろいろやり方がある中で、どうして「書店」だったんですか。
堀田さん:尾道市で出会った人たちは「自分なりのなりわい」で、みんなが楽しそうに暮らしていました。あの生活に触れてしまった影響が大きくて。「自分だったら何ができるんだろう」と、部屋にあるたくさんの本を扱うところからはじめてみようと思ったんです。それから少しずつ、本屋の構想が広がっていきました。
――もうひとつ聞きたいことがあります。地元で商売をしようと思ったのは、どうしてですか?
堀田さん:実現できる可能性にかけました。薄利多売の業界なので、東京都内で営業するのは難しいと思って。地元には町家の風景があるし、そこに空き家が多いことも知っていました。上越で物件を構えて営業すれば、「続けられそうだ」と思ったんです。
――「たてよこ書店」では、どんな本を揃えているんですか?
堀田さん:僕が持っていた小説やエッセイ、ミステリーをはじめとした古本と、それから新刊も一部扱っています。「こんな考え方を知ってほしいな」って思いで書籍を仕入れることもあります。割合としては少ないですけど、「売れるだろうな」って肌感覚も、ひとつの選び方です。
――堀田さんのおすすめが多いんですね。
堀田さん:あとは「あのお客さん、これ好きそうだな」って視点もあります。SNSに載せて、「やっぱり買いに来てくれた」ってときも。
――お客さんとの距離が近いんですね。
堀田さん:小さいお店ですし、顔を合わせる回数が多いとお互いのことがちょっとずつわかるようになりますよね。冬期の開催はないですが、毎月、夜までおしゃべりする会をしているので、そこに来てくれた方の好みは、なんとなくわかります。
――社会人になって、2拠点生活に変化はありましたか?
堀田さん:東京と上越の2拠点生活は、すごく心地いいです。東京での暮らしも好きですけど、満員電車はやっぱりきつい(笑)。上越で暮らす2週間は、自分の車でのんびり移動ができていいんですよ。でも、それだけでは刺激が足りなくなるから、また東京へ行って。ただ、経済的には苦しいですよね。
――う~ん。確かに、そういう一面はあるかもしれません。
堀田さん:移動費に、事業で発生する経費、払わなきゃいけない税金もたくさんあるし、「意外とお金がいっぱいかかるんだな」っていうのは、常々思っています。
――すごくリアルなお話が聞けました。さらにこれから先の10年、堀田さんがどんな「なりわい」で暮らしていくんだろうって、すごく興味がありますよ。
堀田さん:「軸となる事業をちゃんと作らなくちゃいけない」って、ちょっとだけ焦りがあります。書籍を購入する人は減っているし、それほど広くない「たてよこ書店」だけでは生活できません。まだまだ、力不足です。でも、書店を軸に働きたかったわけでもありません。2拠点生活をベースに、自分が作った仕事をいくつか組み合わせて暮らしていくのが、向こう10年の目標です。
――商売以外で、これからやってみたいことはあるんですか?
堀田さん:もっとラフに、地域の皆さんが参加できる仕組みを作りたいなと思っています。肩肘張らずに、このまちをフィールドにして遊ぶことはできないものかと。今は書店を営業していますけど、もともとは「まちづくり的な考え」から辿り着いた仕事です。「まちの中でひとつ遊びを作れないかな」ってくらい軽い感覚の取り組みがあっても、おもしろそうだと思うんです。課題がどうこうとか、事業がどうのとか、そういうカッチリしたものじゃなくて、遊び感覚でできる何か。そんな仕掛けができたらいいなと思っています。
たてよこ書店
上越市東本町2-1-4