瞽女唄を唄いつなぐ。
「越後瞽女唄・才蔵ズ」
カルチャー
2026.03.29
かつて、新潟には「瞽女(ごぜ)」と呼ばれる、目の見えない女性たちがいました。彼女たちが旅をしながら唄った「瞽女唄」を、今も唄い続けているのが、今回お話を聞いた「越後瞽女唄・才蔵ズ」のみなさんです。取材した日はお稽古日。その様子を見せてもらいながら、瞽女唄のこと、「才蔵ズ」のことなど、お話を聞いてきました。
越後瞽女唄・才蔵ズ
左から、ゆきえさん、れいこさん、はるみさん。10年ほど前から県内外のイベントに出演し、瞽女唄を披露している。イベントのときは、出店しているごはんのことで頭がいっぱいになることもあるんだとか。
瞽女唄を唄う姿に魅了されて。
「才蔵ズ」ができるまで。
――今日はよろしくお願いします。まず、瞽女唄がどんなものなのか教えてください。
ゆきえさん:目の見えない女性の旅芸人のことを、瞽女さんというんです。瞽女さんは三味線を持って旅をしていて、行った先々の村で唄を披露します。これが、「瞽女唄」というものになります。瞽女さんは、披露したときにもらうごくわずかなお金を費用にして、旅を続けていたそうです。瞽女さんは全国各地にいましたが、明治時代には新潟県がいちばん多かったんです。「高田瞽女」と「長岡瞽女」というふたつの大きな集団があり、私たちは後者を唄っています。
――現役の瞽女さんは、今でもいらっしゃるのでしょうか。
ゆきえさん:今はもう瞽女さんはいないのですが、私たちのように瞽女唄を歌いつないでいる方はいらっしゃいます。「長岡瞽女」を代表するような瞽女さんに、小林ハルという方がいらっしゃって、わたしたちはハルさんの瞽女唄を唄いつないでいます。
れいこさん:私は小林ハルさんの教え子に、瞽女唄を習いました。瞽女唄をはじめて30年以上経ちましたね。
――「才蔵ズ」ができるまでの経緯を教えてください。
れいこさん:元々、同じ先生に瞽女唄を習っていた方たちと、グループを作って唄っていたんです。グループでの活動もしつつ、ひとりでイベントに出ることもありました。唄のひとつに『瞽女万歳』っていう曲があるんですけど、これは「太夫(たゆう)さん」と「才蔵さん」のふたつの役があって。これをひとりで唄うのはなかなか大変だな、と思って、一緒に唄ってくれる「才蔵さん」を探しはじめたんです。
――ということは、ゆきえさんとはるみさんは「才蔵さん」なわけですね。
ゆきえさん:私は、れいこさんが出演していたライブに行ったのが、瞽女唄を習いはじめたきっかけでした。ステージの照明が当たっているところに、正座して三味線を抱えて歌っているれいこさんに衝撃を受けて。その後、私がやっている飲食店で演奏してもらったときに、「やってみない? 」って誘われたんです。
れいこさん:肩叩いて、「やってみない? 」ってね(笑)
ゆきえさん:私もその場で「やってみます」って軽く言っちゃって(笑)。それから1ヶ月後には一緒にイベントに出ていましたね。瞽女唄をはじめて10年目になりました。
――はるみさんは、どんな経緯で瞽女唄をはじめられたのでしょう。
はるみさん:私は1年半前くらいからはじめました。十日町のイベントに「才蔵ズ」が演奏していたときに、声をかけたのがきっかけです。20代の頃から三味線をやってみたいと思っていたんですが、なかなか機会がなくて。もう三味線は諦めて、ギター教室の申込みをしようと思っていたときに、三味線を持った「才蔵ズ」が現れて(笑)。演奏が終わった後、「三味線を教えてください!」ってお願いしたんです。
れいこさん:私が演奏するのは、瞽女唄用の三味線だったので、「三味線だけっていうのもなんだから、瞽女唄も一緒にやってみない? 」って誘ったんです。
――瞽女唄をはじめた頃、どんな印象でしたか?
ゆきえさん:一緒にイベントに出はじめたとき、当たり前なんですけど、れいこさんとの実力の差はあまりにも大きくて。「早く追いつきたい」と思ってお稽古していましたね。まず声の出し方が違ったんですよ。ただ大きな声を出せばいいというわけでもなかったので、どうしたられいこさんみたいな声が出せるか、自分なりに考えていましたね。
はるみさん:私も声の出し方は難しいなって思いました。最初は全然できなかったんですけど、やっていくうちに声が出るようになって。そうなると、なんか気持ちいいんですよ。まだ少し不安なところはありますが、なんとかやっていけるところまでこれたかなと思っています。


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瞽女唄を唄うことは、
自分自身を見つめること。
――お稽古を見学させていただいて、瞽女唄の力強い声に圧倒されました。唄の言葉を伝えようとする姿勢が、声に込められているような。
れいこさん:そう感じていただけると嬉しいです。ふたりにも、唄うときは地声で、声を前に出すようにって言っています。瞽女唄を教えるといっても、これだけなんです。どうやってその声を出すかっていうのは、自分の身体ですから、自分でいろいろ工夫して自分なりの唄い方を作っていくんです。
――試行錯誤しながら、自分の唄い方を習得していくんですね。
れいこさん:これは、自分を見つめる作業でもあると思うんです。30年以上やってきて「ここの声が出ない」なんてことが、いまだにあるんです。声を出すっていうだけでも、自分や周りの人の変化が見えてくることがありますね。
ゆきえさん:私は瞽女唄をはじめる前はふんわりした声というか、声の太さが全然違ったんです。瞽女唄を唄いはじめてから、日常の会話から声の出し方を意識するようになって、今では声も大きくなったし、言いたいことも言えるようになったし(笑)。れいこさんのおかげで、自分がすごく開けたなって思います。
――それぞれの唄に、楽譜がないのも納得です。
ゆきえさん:練習のときに見ている紙には、歌詞しか書かれていません。そこに「ここは伸ばす」みたいな、自分が歌いやすくなるための注意書きを書き足していくと、譜面になるんです。
れいこさん:瞽女さんは、耳だけで音程や唄い方を記憶していましたから。その部分は大事にしていきたいなって思っています。教えてもらったとおりに唄ったとしても、皆さんそれぞれ響きが違うんです。その違いが一緒になって響き合うのがすごく好きなんです。
――皆さんがステージで瞽女唄を唄うときの、衣装も印象的です。
ゆきえさん:これは「旅姿」と言って、字の通り瞽女さんが旅をしているときにきているものです。瞽女唄を披露するときは着物に着替えるのですが、私たちは旅姿に羽織を着て披露します。この衣装は「才蔵ズ」ならではかもしれませんね。


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瞽女唄を音楽のひとつとして、
多くの人に、楽しんで欲しい。
――「才蔵ズ」が出演しているイベントは、昔からある地域のイベントから、カジュアルなイベントまで様々です。
れいこさん:私がひとりで「才蔵さん」を探しているときから、ご縁がつながっていろんなイベントに呼んでいただいていました。「豪雪JAM」のような、瞽女唄のことをよく知らない方も多くいるイベントで、瞽女唄に触れていただける機会があるのはありがたいですね。「今日、瞽女唄を聴いてきたんだ」みたいな会話が少しずつでも広がっていくといいかなって思っています。
――イベントでの瞽女唄って、どう楽しんだらいいのでしょう。
れいこさん:この衣装を含め、その場を楽しんでもらえたらいいのかなって思っています。何も知らなくても、「瞽女唄ってこんなのなんだね」って思ってもらえたら嬉しいですね。なるべくお客さまに近い距離で唄うので、聴いてくださるお客さまも手拍子をして、一緒に楽しんでもらえたらいいですね。
――「瞽女唄」というひとつの音楽として、楽しんでほしいと。
れいこさん:瞽女さんって、いろんな音楽のジャンルの元祖だと私は思うんです。全国を旅して、唄でみんなを楽しませる。これ、かっこよく言うとツアーですよね(笑)。今の音楽のかたちは、瞽女唄と通ずるものがあると思うんです。昔は瞽女さんの唄を聴いて、涙したり、ワイワイ楽しんだりして。この楽しみ方は、きっと今も変わらないと思うんです。
――これから、「才蔵ズ」としてどんなことをやっていきたいですか?
ゆきえさん:私は10年目になったので、次の世代まで瞽女唄を唄いつなげられるように、新しくはじめる方を育てられたらいいな、と思っています。まだまだですけど、少しはできるようになったし、基本は教えられるかな、と思うので。
はるみさん:私はまだ、覚えることがたくさんあるんですけど、今、目の前のことを一生懸命にできたらいいなと思っています。私とゆきえさん、れいこさんではキャリアがぜんぜん違うんです。その違いを楽しんでもらうのも面白いと思いますし、はじめたばかりの私の変化も一緒に楽しんでもらえたらって思っています。
れいこさん:瞽女唄の言葉をお届けするっていう気持ちを大事に、ひとつひとつ唄っていきたいです。はじめて聴いてくださる方にどう楽しんでもらうかっていうのは、常に課題だなと思っています。イベントの持ち時間が長ければ、お話の内容をお客さまに説明したり、唄だけではなく、昔の作り話もお伝えしたり。瞽女唄に興味を持ってもらえるように、私たちがまず努力していきたいですね。


才蔵ズ
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