図書館の概念を超えた複合施設、
三条市の「まちやま」
カルチャー
2026.08.16
利用者カードで工具が借りられる、約100年前の貴重なピアノが置かれている、図書館でありながら賑わいを創出している、「本を借りる場所」という枠に収まらない「三条市図書館等複合施設 まちやま」。その背景には、閉校した三条小学校への地域の思い、ものづくりのまちとして歩んできた歴史、そして「人が集まる場所をつくりたい」というたくさんの人の熱意がありました。この4月に館長に就任した丸山さんと、「まちやま」の立ち上げにも関わった「NPO法人えんがわ」の長野さんに、いろいろとお話を聞いてきました。
左/丸山 善三
Zenzo Maruyama(まちやま)
1956年三条市生まれ。東京の大学を卒業し、ゼネコンを経て三条市の工具メーカー「トップ工業株式会社」へ入社。営業、製造、品質保証、人事・総務など幅広い部門を経験し、現在は非常勤顧問を務める。2026年4月より「三条市立図書館」館長に就任。40代で作家「吉村昭」の作品と出会い読書の魅力を知り、現在も歴史や文学を学び続けている。
右/長野 源世
Gense Nagano(まちやま)
1968年三条市生まれ。「まちやま」の指定管理者である「NPO法人えんがわ」理事長。高校卒業後は東京で広告代理店に勤務。その後、ベンチャー企業でプロダクト企画・開発に携わり、全国のメーカーと協働しながらものづくりに取り組む。30代後半に三条へ戻り起業。伝統工芸と工業技術を組み合わせた製品開発を行う。約10年前から地域づくりへ関わる。
地域の力を集める、
「土着」の取り組み。
――まずは「まちやま」がどんな場所なのか、教えてください。
丸山館長:「まちやま」は2022年7月にオープンした図書館を中心に「鍛冶ミュージアム」(三条で受け継がれてきた鍛冶の精神や知見、歴史、技術を伝える場)、「科学教育センター」(科学への興味や関心を高め、科学的思考力と創造力を育成する施設)、イベント会場「ステージえんがわ」「ひろば」が一体となった複合施設です。目指しているのは、「人が集まる場所」であること。「学ぶ、見る、触れる」をコンセプトに掲げています。
――丸山館長の本好きはとても有名だそうですね。そのエピソードも聞きたいです。
丸山館長:本を読みはじめたのは40歳から。それまでは仕事中心の生活で本には興味がありませんでした(笑)。でもあるとき、地元の図書館で吉村昭の全集を見つけまして。それを読みはじめたら、もう止まらないんですよ。全16巻をわずか1ヶ月で読み切りました。史実をもとにした記録小説で知られる吉村さんの影響で、今度は私自身も歴史に関心を持つようになって。60代で通信制の大学に通い、幕末から明治維新を学び直したんですよ。
――長野さんは「まちやま」の立ち上げ段階から地域づくりに関わっていたそうですね。
長野さん:私は、図書館に隣接している「ステージえんがわ」の運営に10年ほど前から関わっています。当初は「高齢者の外出機会をつくろう」と動き出しました。でも、「えんがわ」自体がハイカラな建物だったこともあってか、さまざまな試みをしたものの、なかなか成果が出ませんでした。そこでガラリとコンセプトを変えて、「土着な取り組み」をしてみることにしたんです。要は、地域の人たちが得意なことを持ち寄ってイベントやワークショップを開催するということですね。それを年間200以上続けていくうちに、少しずつ子育て世代が集まるようになって。今度は子どもがおじいちゃん、おばあちゃんを連れてきてくれるようになりました。その流れの中で、「過疎化を防ぐためにも中心市街地に賑わいを生み出そう」という考えが生まれ、図書館などを備えた複合施設の構想へと発展していきました。
――「土着な取り組み」とはおもしろい言葉ですね。
長野さん:もともとここは145年続いた、三条市内でもっとも古い学校「三条小学校」があった場所なんですよ。とにかく地域活動をされている方々の支援に熱心な学校だったんですね。9年前に耐震性の理由で閉校となったんですが、その姿勢を引き継ごう、と考えたんです。
――えっと、ちょっと待ってください。三条小学校の閉校が9年前で、その場所に新しく生まれた「まちやま」は今年で4周年を迎えたってことは……。構想期間はそんなに長くないのでは?
長野さん:はい、ものすごく短期間でした。三条小学校がなくなることに対しては、市民の強烈な反対がありました。みなさんに納得してもらうためにも「スピード感を持って、しっかりかたちにしよう」という考えのもと動いていたんです。

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地域の想いを受け継ぎ、
人の流れを生み出した建物の工夫。
――「まちやま」が完成するまでの出来事で、いちばん印象に残っていることは何ですか?
長野さん:構想段階では、県内外の有識者や地域の方々が集まり、何度も意見交換をしました。先ほどお話した通り、ここは三条小学校の跡地です。地域にとって思い出の詰まった場所だったので、「入口の位置は変えないでほしい」「敷地内の木は一本も切らないでほしい」など、とてもたくさんの声が寄せられました。その声に可能な限り寄り添って新しい提案をしてくださったのが、「隈研吾建築都市設計事務所」さんです。最終的に伐採した木は、どうしても必要だった一本だけ。その一本を切ることさえ、大きな議論になるほど、地域の皆さんの思いが込められたプロジェクトだったんです。
――建物の設計もとても話題になりましたよね。
長野さん:もうひとつ象徴的なのが、建物の真ん中を貫く「通りドマ」です。三条小学校は南北を塞ぐような校舎で、その跡地に建物を建てる前提で会議が進められていました。ですが、あるとき「真ん中を通り抜けられるようにしたらどうか」という意見が出たんです。それを設計事務所さんが取り入れてくださったんですね。ただ一本の通り道ですが、地域の人は「便利だ、便利だ」ととても喜んでくださって。さらに「通りドマ」から図書館やホールで催しをしている様子が見えるので、「ちょっと寄ってみよう」というきっかけも生まれました。人の流れだけでなく、人と施設の距離まで縮めてくれた、大切な空間です。
――開館時にはどんな反響があったんですか?
長野さん:当初は歓迎の声ばかりではなく、「複合施設って何なんだ」「図書館なのに騒がしい」といった意見も少なくありませんでした。従来の「図書館は静かに本を読む場所」というイメージを持って来館される方も多くて。でも、私たちも図書館の職員も一貫して、「ここは図書館だけではなく、賑わいを生み出す複合施設なんです」と伝え続けたんです。すると1年経つ頃にはクレームがほとんど聞かれなくなりました。
――丸山館長は新しい施設に、どんな期待を寄せていましたか?
丸山館長:本が好きなので、まずは蔵書がどう変わっているのか気になっていました。私はだいたい本を借りるとすぐに帰るんだけど、若い方は新しい市民図書館をサードプレイスのように使っていらして。友人同士楽しそうに図書館で勉強する姿を新鮮に眺めていましたね(笑)


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企業連携に、工具レンタル。
国内で2台しかないピアノも?!
――丸山館長にお聞きします。今後どんな取り組みを計画中ですか?
丸山館長:たくさんの方に足を運んでいただいていますが、その一方で本の貸出数は伸びていません。ここで過ごす時間をきっかけに、本にも興味を持ち、本を借りる人を増やしていきたい、と思っています。そのためには、魅力的な蔵書を充実させるだけでなく、図書館の活用の仕方そのものを広げていきたいんですね。例えば、企業と連携した取り組み。社員教育の場や自社の魅力を伝える場所として活用いただくことで、企業と「まちやま」の新しい関係が生まれるんじゃないか、と期待を持っています。
――「まちやま」は、個性的な取り組みをいくつもしていると思います。その中で「これこそ『まちやま』らしい」と思うところは?
丸山館長:三条の歴史やものづくりの文化を伝える場所でもあることですね。この場所には、その昔三条城があったとされています。城がなくなった後に、人々は新たな生業として金物づくりを発展させたんですね。そうした歴史を館内で紹介しているだけでなく、金属加工に関する専門書も数多く所蔵しています。図書館にはそれぞれ地域の特色を生かした蔵書があるので、「まちやま」も三条らしさを感じられる場所でありたいんですね。三条の文化や地元の産業を次の世代へつないでいく役割も担っている、と思いますよ。
長野さん:ふたつ思いついたんですが、まずひとつは「まちやま道具箱」です。ワークショップなどを行うと、「そんな工具じゃうまくできないよ」と地元の職人さんやメーカーの方が愛用の道具を持ってきてくれることがあるんですよ。その一方で、「三条はものづくりのまち」とは知っていても、実際に生産されている道具をほとんど知らない人もたくさんいて。「それならば三条で作られた道具を実際に使ってもらおう」と、図書館の貸出システムを応用したのが「まちやま道具箱」です。
――「まちやま道具箱」は、図書館の入り口脇に掲示されていますよね。本の代わりに工具が借りられるなんて、まさに三条らしい取り組みです。それで長野さん、もうひとつは?
長野さん:館内にある約100年前のフランス製「エラールピアノ」です。現代のピアノの原型となったとても貴重なピアノで、日本で演奏できるものは数えるほどしかありません。実はこのピアノは、三条東高校で眠っていたものなんです。それを「ものづくりのまち・三条の力でよみがえらせよう」と、多くの企業や市民の協力を得て修復しました。「まちやま道具箱」がものづくり文化を伝える取り組みだとすれば、このピアノは文化や芸術への第一歩を後押しする存在になっているんじゃないかな、と思っています。
――最後に、館長が思う本の魅力を教えてください。
丸山館長:私はね、作者の人生のエキスを摘み取るというか、作者と時間を共有するような感覚になれるところが本の魅力だと思っています(笑)。本は「作者と自分をつなぐ接点になるもの」ですよ。


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