春になってもまだまだ雪が残る十日町市。新潟県民でも暮らしていくのに少し勇気が必要なこの地域に、温暖な香川県から移住してきた女性がいます。農業を通じて人々に「こころ動く価値」を届ける「株式会社 雪の日舎」の佐藤可奈子さん。今回はそんな彼女に、移住してきた理由や豪雪農業についてなど、里山のあれこれについてうかがってきました。
雪の日舎
佐藤 可奈子 Kanako Sato
1987年香川県生まれ。立教大学法学部卒業。2011年に十日町に移住して就農。2018年より干し芋の製造販売をメインとする「株式会社 雪の日舎」代表取締役。ママであり経営者でもあるパワフルな彼女は、読書と山が好き。
――佐藤さんって香川県のご出身なんですよね? どうして十日町市に移住することに?
佐藤さん:話すと長いんですけど……中学生のときに、日本人で初めて国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に所属した緒方貞子さんの話を読みました。彼女は紛争解決や難民支援をしたんですけど、その話にとても感動して、私は法学部を目指したんです。大学時代は、紛争を学ぶために海外によく行っていて、そこで紛争はちょっとした妬みとかシンプルな感情から生まれているんだなってことに気がつきました。
――ふむふむ。
佐藤さん:この気づきから「日本でも何かできるのでは」と考えはじめていたときに、知り合いのNGOの人に中越地震の復興支援を十日町でしていることを教えてもらったんです。それでこの場所でスタートしていた農作業支援に加わったのがまず最初のキッカケですね。
――その時点ではまだ移住は考えていなかったんですよね?
佐藤さん:はい。でも、私が支援に加わった集落は6軒13人しかいない限界集落だったんですけど、「今は過疎地域だけれど、その状況を克服して日本中の過疎地を元気づけたい」というふうに、70歳以上の方々がすっごく前向きに夢を語ってくれて。それで大学在学中から定期的に通うようになりました。
――もしかして、通っているうちに十日町で暮らしたくなったとか?
佐藤さん:通いはじめてから、私に農業を教えてくれた人がいたんです。その農家さんは、農業が生み出す美意識とか、ただの作業だけじゃない価値とかも教えてくれて。当時、リーマンショックが起きて世界が揺れ動いていた中で、「こんな地に足の着いた大人になりたい」「この人が生み出している素敵なものをなくしたくない。つないでいきたい」とか、思ったんですね。それで、十日町で積み重なったいろんな思いがまとまったのをキッカケに移住を決めましたね。
――それでは「雪の日舎」についても教えてください。どんな会社なんですか?
佐藤さん:「里山農業から、こころうごく世界を」をテーマに、農業が生む目に見えない大切な価値を届けている会社です。協力してくれる農家さんたちとサツマイモを栽培して、会社のメインである干し芋の製造販売をしています。近々、干し芋の加工を中心とした加工場を建てる予定で、新しい仲間たちとサツマイモのスイーツや惣菜も作っていこうと考えているんです。
――ということは、佐藤さんもサツマイモの栽培を?
佐藤さん:そうですね。栽培管理や指導をしながら自分の農業もやっていますね。
――栽培管理や指導まで……パワフルですね(笑)。ちなみに「雪の日舎」の干し芋は、どこで買うことができるんですか?
佐藤さん:実店舗だと、4月上旬頃までは新潟県内の「ウオロク」で買えます。あとはネットショップがあるから、そこがほとんど。ネットショップの運営とか、発送、発信、それに経営もあるからめちゃくちゃ忙しくて……。それで加工場を建てるにあたって農家レストランを経営している知り合いの農家さんと一緒になって、再スタートすることにしたんです。
――仕事量が多すぎるとパンクしちゃいますもんね。仲間は大切ですよ。
――ところでちょっと疑問があるんですけど……十日町といえばコシヒカリやキノコ、ニンジンなんかが有名ですよね。どうして干し芋をメインにしたんですか?
佐藤さん:それはですね、私が十日町市に通いはじめたときに農業を教えてくれた師匠がサツマイモを栽培していたんです。そのサツマイモを奥さんが街に売りに行っていたけど、亡くなられてからは……。それで、私が手を挙げたんだけど、なかなか売れなくて、いろんなご縁や流通性などを考えて干し芋に加工してみたんですよ。
――そんな経緯があったんですね。またまた疑問なんですけど……こんなに雪深い環境で、サツマイモは育つんですか?
佐藤さん:それが育つんですよ。この場所は標高が高くて、寒暖差があります。そのお陰で甘さがギュッと凝縮されるんです。砂地が土壌と合っていたこともあって、山よりも海側で栽培する方が美味しいサツマイモができるといわれていた概念を覆せたんですよ。それに約半年間も畑が雪に埋まっているから、リセットされるのか連作障害もなくて、無農薬栽培ができています。
――サツマイモを栽培しはじめてから、干し芋に加工して出荷するまでって、どのくらいの時間がかかっているんですか?
佐藤さん:ご存じの通り、十日町市は雪がとっても深いです。だから、雪が解けて農道を通れるのはゴールデンウィーク頃なんですね。芋苗を植え付けていき、育ったら10月上旬から収穫をスタートして、貯蔵庫で約1ヵ月半熟成して。糖度が16度以上になったら加工をスタートします。蒸かして皮を剥いて、干したら完成です。と、けっこう時間がかかる工程ですね。
――けっこうかかりますね。 じゃあ、大切に食べないとですね!
佐藤さん:むしろパクパク食べてください(笑)。濃厚で美味しいですよ。
――蒸かした後って、相当甘くなっているってことですもんね。よだれが……(笑)
佐藤さん:生の状態で糖度16度以上で、そこから蒸かすと50度ぐらいになりますね。さらに干すから甘みもうま味も凝縮されて、まるで羊羹みたいになるんです。
――ねっとりして美味しいんでしょうね。アレンジしても楽しめるんですか?
佐藤さん:そのまま食べても美味しいけど、オーブンやレンジで温めると柔らかくなって、より甘みが増します。あとは、朝食メニューやゆっくり夜を過ごしたいときに食べたいレシピなんかもありますね。
――朝食? 夜に食べる? え? え?? 干し芋を?
佐藤さん:朝食メニューは「干し芋ヨーグルト」。これ絶品です。ヨーグルトの酸味と甘みがベストマッチ。贅沢にごろごろ入れるのがおすすめです。で、夜は「干し芋レーズンバター」を。バターを溶かして、干し芋とレーズンを合わせて固める。クッキーに挟んでバターサンドにしてもGOODですよ。
――ん~。聞いただけで美味しい確定ですね。干し芋の可能性は無限大ですね!
株式会社 雪の日舎
新潟県十日町市小泉167-1