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タイの伝統工芸・カービングを伝える「パステルグリーン」。

  • ものづくりカルチャー | 2019.12.11

カービングアーティストの伊丹さんに会いに行ってきました。

「カービング」という言葉を聞いたことはありますか? あまり耳にしない単語ですよね。カービングとは、ナイフを使って野菜や果物などに装飾的な彫刻を施す工芸のことです。新潟では珍しい「カービング教室」を開催しているカービングアーティストの伊丹ひろこさんに、カービングについてのあれこれを教えてもらいました。

 

 

パステルグリーン

伊丹 ひろこ Hiroko Itami

1982年三条市生まれ。パステルグリーン代表。宮城県仙台市の福祉専門学校卒業後、女子大に編入して社会福祉士の資格取得。知的障がい者施設で働くが結婚出産を機に退職。その後、新潟県三条市に帰って保育園で働く。その頃カービングを知り、本場タイに渡って技術を学び、2012年パステルグリーンとして活動を始める。タイや日本でのコンテスト入賞経験多数。一姫二太郎の母。

 

カービングのルーツはタイの王宮料理。

——今日はよろしくお願いします。早速ですがカービングについて教えてください。

伊丹さん:はい。カービングというのは、約700年ほど前のスコータイ王朝時代から伝わるタイの伝統工芸で、ナイフを使って野菜や果物、石鹸などに装飾を施す彫刻のような技術です。タイの王宮に使える女中たちが、王様の食べる料理を華やかに見せるため、野菜や果物に装飾したのが始まりといわれてるんですよ。

 

——なるほど。タイでは今も使われる技術なんですか?

伊丹さん:パーティーや高級ホテルで出される料理、祭壇にまつる料理などを装飾するときに使われたりしてますね。各家庭に1本はカービングナイフがあったり、小学校で教えたりするくらい、タイでは普及している工芸なんです。タイの料理学校にはカービングの課程があって、専門的に学ぶこともできるんですよ。

 

——へ〜、そこまで普及してるんですか。素材はどんなものが多いんでしょうか?

伊丹さん:もともと料理を華やかに飾るために使われるものですので、野菜や果物が使われます。野菜では、大根、人参、きゅうり。果物では、スイカ、メロン、パパイヤなんかを使ったりしますね。そのほか、石けんにも装飾しますし、最近ではキャンドルも装飾するようになってきました。石けんやキャンドルは贈り物にもいいですよね。

 

——もらっても、もったいなくて使えないですね(笑)。カービングの魅力というと、どういうところでしょうか。

伊丹さん:とにかく手軽に作ることができるんですよ。スペースもさほど取らず、準備に時間もかかりません。ナイフ1本あれば、身近にあるなんの変哲もない野菜や果物が、華やかに変身しちゃうんです。

 

タイのスクールで「オネエ」の先生たちからスパルタ指導を受ける。

——伊丹さんはもともと彫刻のようなものに興味があったんですか?

伊丹さん:はい。中学・高校時代は美術部に入っていたんです。彫刻家を目指して東京の美大を受けようと思ったんですけど、はたして彫刻家として食べていけるのかと将来に不安を感じて諦めたんですよ。それで福祉の道に進んで、障がい者施設や保育園などで働いていたんです。

 

——あれ?彫刻から遠ざかっちゃったんですね。

伊丹さん:ところが、ひょんなきっかけで彫刻の道に戻っちゃうんです(笑)。診察のために訪れた病院の待合室で、ひまつぶしに開いた雑誌の中でカービングが紹介されていたんですよ。それを見た瞬間「これだわ!」って思いましたね。早速、新潟県内でカービングを教えているところを探してみたんです。でも見つからなかったので、だったら自分で教室を開いて、新潟県の人々にカービングを広めようと思ったんです。

 

——自分が人に教える前に、まず自分が教わらなきゃですよね。どこかで学んだんですか?

伊丹さん:私の実家は八百屋だったので、素材の野菜や果物はたくさんあったんです。ですから、ペディナイフを改造した自作のカービングナイフを作って、お店の野菜や果物でカービングの練習を始めました。りんごにアンパンマン、ナスにバイキンマンをカービングして子ども達に見せると大ウケしたんです。まわりの人たちに作品を見せるたびに喜ばれたり褒められたりして「これはいけるわ!」と確信を持つようになったんです。

 

——まさかの独学…。

伊丹さん:本格的に始めようと思って、タイからカービングナイフや教材を取り寄せたんです。当然ながらカービングの教科書はタイ語で書かれていたので、テキストは全く読めませんでした。そこで、文字は読まず写真を見ながら独学しようと思ったんですが、うまくいかなかったんですよね(笑)。それでタイへの留学を決意したんです。

 

——独学からの海外留学なんですね。

伊丹さん:2012年に娘を連れてタイに渡って、2ヶ月くらい滞在してスクールに通いました。1クラス40人くらいで生徒はタイで暮らしている日本人でした。先生は全員タイ人男性。でも、なぜか男性の生徒には優しくて、女性には厳しめなんです。特に私にはやたらと厳しくて、物差しで手を叩かれたり、作品の果物を指でつぶされたりといったスパルタ指導でした。最初に覚えたタイ語は「ダメ」と「綺麗じゃない」でしたね(笑)

 

——かなりきつい指導ですね。でも、なんで男性に優しいんですか? 普通は逆ですよね?

伊丹さん:じつは先生がみんな「オネエ」だったんです(笑)。でも、厳しい指導のおかげで本場の技術を身につけることができて、私のカービングレベルもどんどん上がっていったんです。先生達にもそんな頑張りを認めてもらえるようになっていきました。あと、娘が一緒だったので厳しい授業も乗り越えることができたと思ってます。その後も数回タイに渡ってカービングを学びました。

 

——色々な努力があったわけですね。帰国してすぐに「パステルグリーン」を立ち上げたんですか?

伊丹さん:はい。2012年に三条市で「パステルグリーン」を立ち上げて、オーダー製作、体験教室、イベント出店を始めました。

 

制限時間より早く完成して減点されたコンテスト?

——伊丹さんはカービングのコンテストで何度か受賞されているんですよね。

伊丹さん:最初に受賞したのは、フォーチュンホテルバンコクで開催された「フルーツカービングコンテスト2013」でした。団体戦で総合優勝することができたんですよ。タイのカービングスクール生3人と先生で出場しました。みんなで作品を作りためて、それを集めて大きなディスプレイを作ったんです。本場のタイ人チームが20組くらい参加した中で、日本人チームのみんなが力を合わせて優勝できたのはとっても嬉しかったですね。

 

——カービングの本場タイでの優勝ってすごいですね。他に思い出深いコンテストってありますか?

伊丹さん:あとは2017年に開催された「第8回日本カービング協会主催 カービングコンテスト」です。70分間でスイカとメロンそれぞれにオリジナルデザインのカービングを彫り上げるコンテストで、20〜30人が参加しました。私はあらかじめデザインを考え、70分間のタイムトライアルを重ねてコンテストに臨んだんです。ところが、思っていたより早くできてしまい、制限時間前に完成しちゃったんです。その結果、残念ながらシルバーメダルになってしまいました。

 

——制限時間前にできるのは減点になるんですか?

伊丹さん:そうですね。時間ギリギリまで使って、より精密な作品を作るということが求められるんです。

 

——ゴールドメダルじゃなかったのは残念ですがシルバーメダルでもすごいですよ!

伊丹さん:ありがとうございます。

 

使う素材によって作る感触や完成イメージが違って来る?

——「パステルグリーン」のカービング教室について教えてください。

伊丹さん:はい。初心者の方にはまず「体験レッスン」を受けていただきます。素材は野菜、果物、石けんからお好きなものを選んでいただき、1回2時間で1つ〜2つくらい作品を作ります。完成した作品は持ち帰っていただくことができます。

 

 

——素材は選べるんですね。野菜と石けんではカービングする時に違いはあるんでしょうか?

伊丹さん:石けんの場合はなめらかに削れます。色はシンプルに単色で、香りを楽しむことができますね。野菜や果物はノコギリでサクサク切るみたいな感触で、繊維を断ち切るように削っていきます。色彩豊かで、カボチャやスイカみたいに色の層もできたりします。

 

——なるほど。素材によってそれぞれに特徴があるんですね。では、受講者はどんな人が多いんですか?

伊丹さん:子育てがひと段落した奥様や、飲食店のシェフ、それから学校の先生なんかもいらっしゃいます。私よりも年上の方が多いので、カービングは私が教えていますけど、それ以外のことは逆に色々と教わることが多いんですよ。それから、家でカービングをしたら孫が喜んでくれたとか、学校でカービングをして生徒に喜ばれたとか、自分も講師としてカービングの教室を始めたとか、そういう喜びの声を聞くと私もうれしいんです。

 

地元農家とのコラボなどで地域活性化につなげていきたい。

——今後やってみたいことってありますか?

伊丹さん:現在やっていることの中に、地元の農園に協力して、カービングしたル・レクチェのコンポートを作っているんです。そんな感じで、今後も地元農家さんのお手伝いをしながら、地域活性化につなげていけたらいいなって思ってます。あと、ル・レクチェのゆるキャラを作りたいですね(笑)

 

 

ほんわかした話し方に親しみをおぼえる伊丹さん。でもその癒し系キャラの裏には、意外にもカワサキのクラシックバイクに乗り、チェーンソーアートを楽しむワイルドな面もあるそうです。クリスマスやお正月といった、パーティーや宴会の多いこれからの季節。カービングで技術を身につけ、装飾した料理でお客さんをおもてなししてみるのはいかがでしょうか。

 

 

パステルグリーン

〒959-1316 新潟県加茂市大字山島新田450

090-4718-8352

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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