人間ひとりひとりの個性や性格、人柄をあらわす唯一無二の場所、それが「自分の部屋」。世の中に「似ている部屋」や「同じ間取りの部屋」は数あれど、まったく同じ部屋というものはひとつも存在しません。Thingsの新シリーズ『部屋と人。』では、私たちと同じ新潟に暮らす人たちの、こだわりの詰まった「自分の部屋」をご紹介します。なかなか見ることのできない「他人の部屋」、ちょっと覗き見してみましょう!(毎月第1金曜日更新予定)
第1回は、『服と人。』にも出演してくれた、小学校教諭の佐藤英人さんです。新潟市を離れ、山をひとつ越えた先のとある住宅街。その一角のアパートに佐藤さんの暮らす部屋があります。入り口のドアを開けると、そこにはアンティークと現代アートが共存した、独特な感性と雰囲気を放つ空間が広がっていました。
企画/プロデュース・北澤凌|Ryo Kitazawa
イラスト・桐生桃子|Momoko Kiryu
――まずは佐藤さんがインテリアに興味を持ったきっかけから教えてください。
「私の場合はファッションがきっかけでした。もともとビンテージやアンティークの洋服や雑貨が好きだったので、『当時の物』の時代背景やブランドのバックボーンを、よく見聞きしたり、洋書を読んだりしていました。その中で『有名なファッションブランドの起源が実は椅子にあった』ということや、時代ごとに変わっていく空間デザインの在り方や家具の質感に魅了されて、家具やブロカントに興味を持つようになりました。」
――部屋作りをする上でこだわっていること、意識していることはありますか?
「古いものを現代の空間に取り入れる空間づくりの考え方が好きで、アンティークやビンテージの家具がもつ『質感』をどのようにすれば現代のものの『質感』と掛け合わせられるのかという視点をもとに、その双方のバランス感をいつも大切にしています。あとは部屋ごとにコンセプトを設けていろいろな部屋作り、空間を演出するようにしています。」
――3部屋それぞれにはどんなコンセプトやテーマがあるんですか?キッチンから順に教えてください。
「キッチンは白と黒と赤を基調としてヨーロッパにあるカフェをコンセプトにして空間づくりをしました。古いアンティーク家具やデザイナーズ家具との調和をも楽しめる空間にしています。」
「リビングは1950~1960年代をコンセプトに、その年代を代表するオレンジ、黄、緑のビタミンカラーを全面に出しつつ暖かみのある空間づくりを意識しています。私自身が好きなオレンジ色をベースとして、照明の色合いなども納得のいくまで調整しながら作っています。」
「寝室は隠れ家的な図書館というコンセプトで空間をつくりました。ここには好きな本があったり、絵を描くための道具が揃っていたり。寝るだけでなく、創作活動の場としても使っている私自身も特に気に入っている空間です。」
――たくさんあると思いますがそれぞれの部屋のなかで特に気に入っている家具やポイントは?
「キッチンでは、アンティークの椅子の上に飾っている絵がお気に入りです。この絵は1800年代に作られた雑誌の表紙なんですけど、絵の『質感』が隣のビンテージキャビネットやデザイナーズ家具、部屋にある物の存在感をより引き立たせてくれるんですよね。」
「リビングは私自身がデザインした壁面の一角です。1950~1960年代に活躍していた俳優の洋書や当時のデザイナーズブランドのアイテム、年代が同じ雑貨が並べてあり、部屋のなかで特にミッドセンチュリー時代の雰囲気を演出している場所なんです。」
「寝室は本棚と古いラダーですかね。ラダーに関しては私が所有するもののなかでも1,2番目に古いアンティークで、自分が眠る場所に1800年代当時の『質感』があるというだけで、なんだか素敵だなと思えるんです。どちらも図書館というコンセプトにハマりつつ、まるで自分がどこかの古い図書館に来たかのようなワクワクと居心地のよさを感じさせてくれます。」
――佐藤さんにとって部屋作りの魅力ってなんですか?
「未完成なところだと思います。私にとってはファッションと同じで常に『必然の縁』と新たな発見がありますし、直感的に『こうすると面白いかもしれない』という発想が尽きません。色々な試行錯誤する過程がいつも面白く、いつか完成させたいと思いつつも、これからも『未完成の作品』という空間を楽しんでいくんだと思います。」
今はへたにモノを増やすよりもモノを少なくして暮らしたいと考える人が多い気がします。でも佐藤さんの部屋にいると、自分だけの「秘密基地」に憧れて、仮面ライダーの変身ベルトや好きなお菓子、懐中電灯などを持って実家の物置部屋に籠った子ども時代を思い出しました。好きなものに囲まれる心地よさとワクワク感、そして自分好みに部屋を変えていく面白さ。しばらく忘れていた気がします。ミニマリスト的な暮らしはちょっとストップして、そんなたくさんの好きなものに囲まれる暮らしをまた始めてみようかな、なんてことを思いました。(byキタザワリョウ)