趣味で絵を描いている方のなかには「絵は自分の世界だから教わるものではない」という方もいるかもしれませんが、人からの指摘や指導で気づくこともあると思います。新潟市にある「絵画教室ウニアトリエ」は、本人が気づかないような能力を引き出す指導を心がけている教室です。今回は代表の加藤さんを訪ねて、絵画教室や自身の作品制作についてお話を聞いてきました。
絵画教室ウニアトリエ
加藤 和彦 Kazuhiko Kato
1968年新潟市秋葉区生まれ。多摩美術大学卒業後、美大受験予備校、絵画教室、高等学校、公共職業訓練校の講師を経て、2017年に「絵画教室ウニアトリエ」を開業。作品制作も行い、1995年には「黒部市国際文化センター コラーレ」の能舞台鏡板を手がけている。アウトドアが好きで、湖や海にカヌーを浮かべて釣りをすることもある。
——加藤さんは昔から絵を描くことが好きだったんでしょうか?
加藤さん:はい、幼稚園に上がる前はよく折り込み広告の裏に絵を描いていて、将来は絵描きになりたいと思っていました。その後はいろいろなものに興味が移ったんですけど、高校時代に恩師の影響もあって、油絵や彫塑をはじめるようになったんです。
——それで多摩美術大学に進学されたんですね。
加藤さん:親からは公務員になるよう勧められていたんですけど、公務員よりも美術に関わる仕事をしたいと思ったので、親を説得して多摩美術大学に進学しました。
——大学を卒業してからは美術関係の仕事をされていたんでしょうか。
加藤さん:結婚を機に神奈川へ移住して、横浜の美術大学予備校や絵画教室で講師の仕事をはじめました。一度新潟に帰ったときに高校の美術教師をやりましたが、生活態度まで指導しなければならないので僕には合いませんでしたね。
——いろいろなところで教えてこられたんですね。
加藤さん:2015年から再び新潟で生活しているんですけど、一時は職業訓練校でWEBデザインの講師として、制作に使うアプリケーションについて教えていました。
——自分で作品を制作するだけではなく、教える仕事に携わってきたのはどうしてなんですか?
加藤さん:僕は生まれつきの「先生体質」なんだと思います(笑)。苦労の末に手に入れた知識や技術を、自分だけのものにしておくのはもったいないと思ってしまうんです。多くの人の役に立ててもらえるように伝えていきたいんですよね。
——加藤さんは絵画の講師だけじゃなくて、作家としても創作活動をされているんですよね。
加藤さん:はい、昨年の6月にも久しぶりに個展を開催しました。
——どんな作品を描いているんでしょう。
加藤さん:線、形、色といったシンプルな要素のみで、見る人の感覚に訴えるような抽象絵画を制作しています。だから作品に意味を持たせないようにしていますし、何かに見立てることができないように描くようにしているんです。感覚で描く自動書記に近い手法ですね。
——質感が変わっていますけど、何を使って描いているんですか?
加藤さん:アクリル絵の具と、日本画で使われる岩絵の具を合わせているんです。僕は油絵の具が性に合わなくてアクリル絵の具を使ってきたんですけど、そこに岩絵の具の持つ品のある質感を取り入れたかったんですよ。
——それで和モダンな雰囲気のある、面白い作品になっているんですね。代表作があったら教えてください。
加藤さん:「黒部市国際文化センター コラーレ」で、野村万作さんが能を舞う舞台の老松と若竹を制作したこともあります。時間的な問題もあって、いろんな日本画家に断られた挙げ句に回ってきた依頼でした。僕は岩絵の具をアクリル絵の具と融合させているので、膠(にかわ)を使うよりも乾燥が早くて対応することができたんですが、それでも2カ月泊まり込みで制作して間に合わせましたね。
——「絵画教室ウニアトリエ」を開設したいきさつを教えてください。
加藤さん:いつかは自分の教室を持ちたいと考えていたんです。そんな矢先に職業訓練校の教え子が不動産屋を開業して、ここの物件を紹介してくれたんですよ。大家さんの人柄が良かったこととトイレが綺麗だったことから、ここで絵画教室をはじめようと思いました。
——トイレにはこだわりがあったんですね(笑)
加藤さん:今までの経験から絵画教室の生徒さんには女性が多かったので、トイレが綺麗なことは必須条件でしたね。
——やっぱり生徒さんは女性が多いんですか? 40〜50代の、子育てがひと段落した世代の方が通うイメージがありますけど……。
加藤さん:そういうイメージがあると思いますけど、うちは20〜30代の生徒さんが多いんですよ。あと、一般的に男性の生徒さんの比率は20%くらいなんですけど、うちは男性が40%もいらっしゃるんです。
——へぇ〜、半数近くが男性の生徒さんなんですね。
加藤さん:新潟県って「県展」への応募数も全国でトップクラスなんですよ。長い冬の間は家のなかで絵を描いたり、ものを作ったりする人が多いので、実は文化的な土壌がある県なんじゃないかと思うんです。
——そうだったんですね。でも、絵を学べる場所って少ないような気がします。
加藤さん:確かにしっかり学べる場所は少ないかもしれませんね。好きな人は多いんだけど、教育にはお金をかけない土地でもあります。そうしたなかで、新潟の文化起点になる場所を目指したいと思っているんです。
——加藤さんはどんなことを意識して絵の描き方を教えているんでしょうか。
加藤さん:デッサンに関しては物の「描き方」ではなく「見方」を教えているんですよ。物を見るときって先入観で見ていることが多いんですが、よく観察してみると思っている形とは違うんです。そうした先入観を取っ払って物を見るところから教えるようにしています。これは絵画に限らず、世のなかのいろんなことにも応用できるんです。
——デッサン以外ではいかがですか?
加藤さん:生徒さんの絵が、先生とそっくり同じような絵にならないよう気をつけています。誰もがみんな「武器」を持っているんですけど、それに気づいていないんですよ。私たちはそれに気づかせて、引き出してあげるのが指導だと思っています。
——それぞれの個性を生かした指導ということですね。他にも心掛けていることはありますか?
加藤さん:生徒さんに満足していただけるよう心掛けています。絵を学びに来る目的ってそれぞれが違うんですよ「県展」入選を目指している人もいれば、息抜きのために絵を描いている人もいます。それぞれの目的に応じて、満足していただけるように対応したいと考えています。
——「うにキッズ」というのは何ですか?
加藤さん:敷地内にある物件が空いたので、2021年からそこを使って新しくキッズコースをはじめたんです。そちらは子どもの指導に慣れている専門の講師にお願いして、方針を相談しながら指導してもらっています。
——いろいろと充実させていっているんですね。今後はどんなことに力を入れようと思っていますか?
加藤さん:どこからでも受講できるよう、オンライン授業を充実させていきたいと思っています。学べる環境が近くにない生徒さんはもちろん、講師も遠方から授業をすることができるんですよ。そうした環境を整えて「絵画を学べる場」を広く提供していきたいですね。
絵画教室ウニアトリエ
新潟市中央区堀之内南3-4-10
025-384-4562
火曜祝日休