魚沼から新潟へ引っ越してきた老舗の和菓子店「新星堂」。
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2019.08.07
創業60年余の老舗菓子店。心機一転、新たなスタートを。
代々引き継がれる伝統と技術で、長年にわたり地域に愛されているものがあります。新潟市西区にある和菓子店「新星堂(シンセイドウ)」の和菓子も、そのひとつ。家族で営む同店は、かつて、魚沼で親しまれていた老舗の和菓子店でした。季節の移ろいや地物のおいしさを伝え、地域の人たちの心を和やかに、朗らかにしてくれた「新星堂」の和菓子。なぜ魚沼から新潟市に移転してきたのか、菓子づくりにどんなこだわりがあるのか。店主の星さんに、いろいろとお話をうかがって来ました。

新星堂
星高太郎 Koutarou Hoshi
1985年新潟生まれ。新潟県立堀之内高等学校を卒業後、日本菓子専門学校へ進学。東京都赤坂の名店「塩野」などでの修行を経て、「新星堂」3代目に。川、沼、海のすべてのシーンで釣りをするほど、釣り好き。
家業としての和菓子店。継ぐよりも、作りたい。
――現在、「新星堂」3代目店主としてご活躍ですが、昔から家業を継ごうと考えられていたのですか?
星さん:2代目である父からは、子どもの頃から「新星堂を継ぐんだよ」と言われてきました。ただ、必ず継いで欲しいというような頑固な意見ではなかったので、和菓子店を継ぎたいなという思いよりは、和菓子を作りたいという気持ちの方が大きかったですね。
――ご実家が和菓子店となると、子どもの頃から後継ぎの話は出ますよね。テレビ番組なんかでも、そのようなシーンを目にすることがあります。
星さん:日常会話みたいな感じですね。実家で過ごしていた時は、明確に家業を継ごうとは考えていませんでしたが、家業として家族みんなで同じ仕事をして、同じ時間に食事ができる環境はとても素敵なことだなって思っていましたね。

――もちろん仕事なので大変なことも多いと思いますが、家族で同じ時間をたくさん過ごせることはとても憧れます。星さん、高校を卒業してからは?
星さん:東京にある「日本和菓子専門学校」へ行きました。卒業後は東京都赤坂にある和菓子店「塩野」などで、約10年間、修行に勤しみました。
――赤坂といえば高級料亭が立ち並ぶ華やかな場所ですよね。やはり、和菓子職人の修行って、厳しいんですか?
星さん:とにかく大変ですね(笑)。先輩が出勤したらすぐに仕事がはじめられるように、とにかく朝早くから仕込みの準備をするんです。朝4時台の始発に乗らないと間に合わないですからね。和菓子は種類が多く、作業スピードとクオリティーを求められるので、仕事後は練習の日々です。いつ寝るのだろうかってぐらいに働き、材料はともて重くて力仕事も多いので。まぁ、昔の話ですけどね。今は、そうでもないらしいです。

「関東じゃないのか?」。思いもよらない父の言葉。
――新潟に戻ってこられたキッカケは、やはり「新星堂」を継ぐためですか?
星さん:一番の理由は、子どもの誕生ですね。故郷である新潟で育てたかったので。なので、継ごうとは正直、考えていませんでした。どちらかといえば、自店を出したい気持ちの方が強かったんです。
――その気持ちはご家族に伝えたんですか?
星さん:自分の考えている、自店を出したいという考えを父に話しました。「新潟で和菓子屋をしようと思っている」と。そうしたら、「関東じゃないのか?」って父が言うんです。驚きましたよね(笑)。当時、父は継いで欲しいという気持ちはなくなっていたのもあり、背中を押してくれたんだと思います。まぁ、魚沼の冬期間は雪かきが仕事のようなもんですし、人も少ないですからね。

――それがどうして「新星堂」の3代目に?
星さん:昔から自分でお店をするにしても“家族でやりたい”と、ずっと思っていたんです。みんなで一緒に住んで、子どもには祖父母のいる環境で育ってもらいたいとも考えていましたし。それで新潟に一緒についてきてもらいました。「新星堂」は、魚沼からの移転リニューアルオープンという形で新潟で再スタートを切ったわけです。
――長年、魚沼で営まれていたのに??
星さん:何十年も住み続けて、「新星堂」をやってきた場所だったので、正直、難しいかなって思いたんですけど、65歳を過ぎたら雪の少ない場所に住みたいと思っていたらしく、すんなりOKしてくれました。

新しい「新星堂」。古き良さを引き継いで、新しい風を。
――新しく新潟市西区にオープンした「新星堂」は、昔からの商品も提供していますか?
星さん:妻も和菓子職人なんです。なので、「こんな和菓子を作りたいね」などと話して、生地に醤油を使った「どら焼き」、魚沼の米農家から仕入れた食材で作る「大福」をメインにしました。昔からある「酒ケーキ」は、父が考案した商品なんです。こんなおいしいケーキがあるのかと衝撃を受けたケーキなので、このケーキをはじめいくつかの商品は引き継ぎました。


――奥さんも和菓子職人さんなんですね。職人同士、譲れない部分もあるのでは?
星さん:ありますね(笑)。お互いにプライドがあるので、ちょっとずつ擦り合わせて、ちょっとずつ歩み寄っています。おいしいものを提供したいという気持ちは、お互い一緒なんでね。
――そうなると、試作にはかなりの時間がかかりますか?
星さん:「自分たちが納得して、おいしいと思ったものを売る」という信念があるので。例えば「いちご大福」なんて、完成までに2年以上もかかりました。イチゴを食べておいしくても、大福にしたらちょっと違うな。なんてことを繰り返して。同じ品種でも、育ててくれた農家さんによって、味は違いますし。

――めちゃくちゃこだわっていますね。
星さん:ちなみに、商品によってあんこも違うんですよ。砂糖も数種類のものを使っていますし。それぞれの和菓子にあったあんこを仕込むのはとても大変ですが、自分が納得できる味を伝えていきたいので、家族みんなで頑張っています。
――最後に、これからの「新星堂」のビジョンを教えてください。
星さん:両親が魚沼で営んでいた「新星堂」は、とても地域の方に愛されていました。その姿を見て育ってきたので、やはり、新潟に移っても地域に根差した和菓子店となれるよう目指していきたいです。近所の方や、遠方からも多くの方がいらしてくれます。感謝を忘れずに、「おいしい」といってもらえる和菓子を家族と一緒に楽しく、皆様にご提供していけたらと思います。

今、「新星堂」で気になる和菓子たち。
さっぱりとしたほうじ茶ソースでいただく、コクのある滑らかな「こだわりのぷりん」。…和菓子屋なのにプリン?って思いましたよね。そうなんです。「新星堂」ではプリンも提供しています。ただ、カップの底に秘密が隠されているんです。なんと粒あんが。和菓子屋のプリンとして、絶妙に和と洋が合わさり、新感覚なのにどこか馴染みのある味。手土産にも喜ばれる、ちょっと大人なプリンです。

それから、夏にピッタリな「生姜くずきり」。ちょっと辛くて、すっごくさっぱり。清涼感が抜群です。ほどよく香る生姜の風味がクセになり、冷やして食べたら止まりません。暑くてクールダウンしたい時に食べたらひんやりと。クーラーで冷えてしまったら、生姜パワーで体の内側からポカポカと。冷たくてぽかぽか温かい、ちょっと不思議な夏の和菓子です。

新星堂
新潟県新潟市西区小針4-26-2
025-378-2957
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