旅人や地元の人たちの心を温める
新潟市東区の銭湯「小松湯」。
その他
2026.02.10
寒い日が続き温泉に入りたい気分だけど、温泉地まで行くのは時間もお金もかかるし……。そんなときにオススメなのが「銭湯」。遠くまで足を運ばなくても、広々とした大きな浴槽で入浴を楽しむことができます。ご紹介するのは新潟市東区にある「小松湯」。釜場を担当する泰三さんと番台を担当する真由子さんのご夫婦から、銭湯を経営する苦労や喜びを聞いてきました。
神田 泰三
Taizo Kanda(小松湯)
1974年新潟市東区生まれ。古町でバーをオープンするなど飲食店をはじめとした様々な職業を経験し、2014年より家業として代々続いてきた「小松湯」に就業する。映画鑑賞が趣味で、心の一本は「ゴッドファーザー」。
神田 真由子
Mayuko Kanda(小松湯)
1973年新潟市江南区生まれ。子ども服やお酒の販売員として働いてきた。2014年に泰三さんと結婚し「小松湯」で働きはじめる。映画鑑賞が趣味で、心の一本は「トゥルー・ロマンス」。家で4匹、銭湯で5匹の猫の面倒を見る愛猫家。
同じ製材所から生まれた
東区と江南区、ふたつの「小松湯」。
――「小松湯」は、いつから続いているのでしょうか。
泰三さん:昭和31年にじいちゃんが創業したんです。その前は安田(現在の阿賀野市)で仲間と一緒に製材業を営んでいて、そのときの屋号が「小松」という地名にあやかった「小松製材所」だったんですよ。
――どうして製材所をやめて、銭湯を?
泰三さん:仲間たちが家庭を持つにつれて製材所を辞めていったので、少人数でもできる銭湯に商売替えをしたそうです。製材所の木材がたくさん残っていて、燃料の薪に不自由しなかったので銭湯を選んだんでしょうね(笑)
――「小松湯」の名は「小松製材所」から来ているんですね。
泰三さん:そうなんですよ。以前は「小松湯」が何軒かあったんですけど、今ではうちと亀田の2軒だけになりました。ちなみに亀田の「小松湯」は、私の同級生がやっているんですよ(笑)。前の経営者が亡くなって誰もやる人がいなかったので、同級生に勧めました。
――同じ系列だったから、亀田の「小松湯」も名前が同じなんですね。創業時はお風呂のない家庭も多かったと思いますが、現代はお風呂のない家庭ってほとんどないじゃないですか?
泰三さん:そうですね。昭和30年代に比べると、銭湯を利用する人の数は減っていると思います。それでも様々な理由で、銭湯を利用する人は少なくないんですよ。この辺りには工場や病院、介護施設も多いので、夜勤明けの方が帰宅前に汗を流していきます。
真由子さん:朝早くから営業しているので、旅行で新潟市を訪れた方も多く利用していきます。ドライブやツーリングで来られた方はもちろん、新幹線や高速バスでJR新潟駅に着いた方もわざわざ来てくださるんです。
――なるほど、旅行者にとっては便利ですよね。常連のお客さんも多いんでしょうか。
真由子さん:「銭湯に慣れると家のお風呂に入れない」とおっしゃるお客様が多いですね。「午前中に入浴したのに、寝るまでポカポカしている」とおっしゃる方もいました。
泰三さん:家庭用の浴槽だと小さくて湯量にも限りがありますから、冷めやすくて温まりにくいんですよね。その点、大きい浴槽だと温度の変化が少ないんです。

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柔らかさを感じることができる、
薪釜で沸かすお湯へのこだわり。
――こちらの銭湯の特徴を教えてください。
泰三さん:県内では数少ない、薪を燃料に使っている銭湯なんです。手間がかかって大変なので、以前は薪で沸かしていた銭湯もガスに変わってしまい、今では薪を使っている銭湯って3軒くらいしか残っていないんじゃないかな。
――薪を使うのって、そんなに手間がかかるんですね。
泰三さん:手に入れるにも使うにも手間がかかりますね。工務店から廃材を譲っていただくんですけど、手に入れるのはなかなか大変なんですよ。雪が積もった冬場は小路にトラックが入ってこられなくて、長らく薪が手に入らないこともあります。
真由子さん:廃材をたくさん積んでいるトラックを見かけるたびに、うらやましい気持ちで見とれています(笑)
――喉から手が出るほど廃材がほしいんですね(笑)。使うときも手間がかかるんでしょうか?
泰三さん:まずは仕入れた廃材を、使いやすい大きさにチェンソーでカットするんです。
真由子さん:「チェンソーマン」だね。
――(笑)
泰三さん:釜につきっきりなのも大変なところですね。開店が8時半なので、それに合わせて5時半までに火入れをします。気温の高い夏場は1時間ごとに薪をくべればいいんですけど、気温の低い冬場は10分〜15分ごとに釜を薪でいっぱいにしないとお湯の温度が下がってしまうんです。
――そんなに大変な思いをしてまで、薪にこだわるのはどうしてなんでしょうか?
泰三さん:燃料費を抑えることができるので、お手頃な価格で入浴を楽しんでいただけるんですよ。
真由子さん:それから「お湯が柔らかくなる」みたいです。私はよくわからないんですけど、お客様からはよく言われるんですよ(笑)
泰三さん:お湯の温まり方に原因があるんでしょうね。ガスだと短時間で一気にお湯が温まるんだけど、薪火は少しずつ熱が伝わって温まるので、お湯がまろやかになるんじゃないかな。
――こちらは「かけ流し」の銭湯なんですよね。
泰三さん:そうなんです。だから機械で温度管理することができなくて、お湯を水で埋めながら温度調節をしています。温度計もないので、お湯の流れるパイプを手で触りながら温度を測っているんですよ。ときどきお客様から「あっちぇぞ」とか「ぬるまっこいろ」とか怒られています(笑)
真由子さん:釜は10〜15年くらいで入れ替えをするんです。そのたびに何百万もかかってしまうんですけど、お客様に喜んでいただくために頑張っていきたいです(笑)

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地元の人たちが交流できる
コミュニティスペースでありたい。
――「いちばん風呂」を目掛けてくるお客さんもいるんでしょうか?
真由子さん:開店前から待っているお客様も多いので、早く開けることも多いですね(笑)
――年配のお客さんが多いイメージですけど。
真由子さん:103歳の女性もいましたし、ひとりで来る小学生の男の子もいました。お客様のなかには湯あたりして具合が悪くなる方もいらっしゃるので、常に注意を向けるようにしていますね。それだけではなく、お客様とコミュニケーションを取りながら和やかなムードで営業するよう心がけています。
泰三さん:この人の接客のおかげで「小松湯」がやっていけるようなものです。
真由子さん:優しいお客様の支えに、いつも助けていただいているんです。はじめて来たお客様にも、常連のお客様がいろいろ教えてくれたりして、アットホームな雰囲気が流れています。
――お客さんにとって居心地のいい場所なんでしょうね。
真由子さん:この地域にはひとり暮らしの方も多いので、毎日のように通ってくださってはお客様同士で会話を楽しんでいるんです。だから、たまに来ない日があると心配になります(笑)
――年配の方もいらっしゃるんでしょうからね。
真由子さん:そうですね。先日も雪道で転んで入院することになったお客様がいたんですが、ご家族がわざわざ来られて「入院することになったので、しばらく銭湯はお休みします」と事情を伝えてくださいました。
泰三さん:入浴に来ることができない前日は、お互いに心配をかけないよう「病院に行く日だからお休みする」とか「家の留守番しなきゃダメだから来られない」とか伝えていかれます(笑)
――皆さん、仲がいいんですね(笑)。貼ってあるポスターを見ると「銭湯寄席」なんかも開催しているようですね。
泰三さん:「新潟浴場組合」と新潟お笑い集団の「NAMARA(ナマラ)」さんがコラボして、あちこちの銭湯で開催しているんです。
真由子さん:その他に「ベアスローブ」というブルースユニットをお招きして、浴場でライブ演奏をしていただいたこともあります(笑)
――音響が良さそうですね(笑)。他にもイベントをやっているんでしょうか?
泰三さん:キッチンカーに来ていただいたり、「銭湯トレカ」をつくったりしていますね。「銭湯トレカ」は東京から買いにきたコレクターもいました。
真由子さん:たい焼きやたこ焼きキッチンカー、野菜販売車に来ていただいているのも、皆様に喜んでいただきたいからなんです。地元のコミュニティスペースとして楽しんでいただけたら嬉しいですね。

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