米粉のまちで見つけた、ふたりの幸せ。
「米粉パンと抹茶のお店 Yine」
食べる
2026.08.09
営業日は月に数日だけ。新潟県胎内市の住宅街にある「米粉パンと抹茶のお店 Yine(イネ)」。コシヒカリの米粉を使って焼き上げたパンと焼き菓子、抹茶ドリンクのお店です。たくさん売ることよりも、「長く、心地よく続けること」を大切にしている小島さんご夫婦に、米粉のまち・胎内市ではじめたふたりらしいお店のあり方と暮らしについて聞きました。
左/小島 えなこ
Enako Kojima(米粉パンと抹茶のお店 Yine)
1978年奈良県生まれ。短大卒業後、栄養士として大阪で勤務。その後は飲食店など、さまざまなサービス業を経験する。2020年に結婚を機に新潟市へ転居。お米のおいしさに魅了され、米粉のパン作りを学びはじめる。2024年に胎内市で「米粉パンと抹茶のお店Yine(イネ)」をオープン。店舗営業のほか、イベント出店やオンラインでのパン作り教室も行っている。
右/小島雅彦
Masahiko Kojima(米粉パンと抹茶のお店Yine)
1973年新潟市生まれ。大学卒業後、専門学校や大学などで約20年間勤務。働きながら大学院を修了。胎内市への転勤をきっかけに夫婦で新たな暮らしをスタート。2024年に退職し「Yine」の運営に携わる。茶道歴は10年以上で現在も稽古を続けている。
夫の転勤は運命⁉
思いがけず米粉のまちへ。
――小島さんご夫婦が「Yine」をはじめたきっかけというのは?
えなこさん:20代の頃から趣味でパン作りを楽しみ、フルーツ酵母を使ったパンにも挑戦していました。結婚して新潟に来たんですが、もうお米のおいしさに感動してしまって。「こんなにお米がおいしいんだから、米粉のパンを作ってみたい」と思うようになったんです。そんなときに夫の転勤先が米粉のまち・胎内市に決まり、「これは運命だ!」と思いました(笑)
雅彦さん:私は謝りましたけどね。それまでは夫婦で新潟市で働いていたので、妻の仕事はどうなるんだと心配で。そしたら「やったー!」と大喜びされたんです(笑)
※胎内市は、日本で初めて微細米粉製造専用の工場が建設されるなど、米粉の製造と普及にいち早く取り組んでいる「米粉のまち」として知られています。
――お店をはじめるまでは、どんな流れだったんですか?
雅彦さん:空き家バンクに登録して物件探しをはじめたんですけど、改修が必要だったり大きすぎたりで、なかなか理想の物件が見つからなかったんです。そんなとき、不動産会社さんから紹介されたのが今の建物だったんです。広さもちょうどよくて、庭があって海も近い。歩いて温泉にも行けるし、窓からは風車も見えて。「ここしかないね」と即決しました。
えなこさん:私は小さい頃から、自分のお店を持つことが夢だったんです。でもこれまでに飲食の仕事を経験して、その大変さも知っていたので、なかなか一歩を踏み出せずにいて。そしたら夫が「やってみたらいいじゃない」と背中を押してくれたんです。私が「やりたい」と言うことは何でも応援してくれて、環境まで整えてくれる人なんですよ。
――店舗販売以外にも、いろいろなかたちで営業しているようですね。
えなこさん:月に数回の工房での営業とイベント出店、不定期ですが郵送販売もはじめました。あとは米粉のパン作り教室をオンラインで行っています。
――この営業スタイルにしたのには、どんな理由があるんでしょう?
えなこさん:いちばんの理由は、あの……パン屋さんって朝が早いじゃないですか。体力が続くか心配で。身体を壊してお店を続けられなくなってしまっては、お客さまに迷惑がかかります。無理のない範囲で、自分ができる方法を考えました。私は母を亡くしています。一緒に働いていた先輩も過労で亡くなってしまっていて。何よりも身体を大事に、家族や周りの人を大切にしたい、という気持ちが強いんです。
――素敵な働き方だと思います。
えなこさん:ちょっと変わっているけどこういうお店なんだな、と思っていただければ。それで「Yine」を好きになってもらえたら嬉しいです。好きなお客さまや好きな仲間たちとお仕事を続けていけたらいいな、と思っています。
――雅彦さんは今の働き方をどう感じていますか?
雅彦さん:私は約20年間、新卒で入社した会社に勤めていました。サラリーマンとは、トップの方針を受けて、受動的な仕事の進め方をするものだと思います。でも自営業は能動的に働かなくちゃいけない。自分で仕事を見つけて、かたちにして。そうしないという選択もあり、です。もともとたくさんのことを学びたい人間で、勤め人の働き方では時間が足りない、とずっと思っていたんですよね。習い事や趣味、働く時間を自分のリズムで作れることがとても心地よいです。
――長くお勤めで今後のキャリアに期待もされていたと思います。今回の決断ができた理由はなんでしょう?
雅彦さん:定期的にお給料がもらえるんだから「サラリーマンがもっとも安定した仕事だ」と思っていたんですけどね(笑)。やっぱり妻の影響じゃないかな。職場をコロコロと変えたり、次の仕事に就く間に短期で海外留学をしたりするんですよ。私の人生を180度変えた人です(笑)
――店名に「抹茶」とありますが、これは雅彦さんのお得意分野ですね。
雅彦さん:茶道を10年以上続けていて、お店で提供する抹茶ラテには私が選んだ抹茶を使用しているんです。抹茶の豊かな香りをぜひ楽しんでください。


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お米に魚、果物。そして海も山も。
新潟県はまるでテーマパーク。
――今度はお店のことを聞かせてください。えなこさんが作っているのは、どんなパン?
えなこさん:「新潟製粉」さんのコシヒカリの米粉を使っている、ずっしり、もちもちとしたパンです。米粉パンにもいろいろな考え方があって、中には小麦粉で作ったパンに近いかたちに仕上げようと頑張っている方もいます。でも私は米粉だからこその「お米の味」を届けたいと思っていて。「Yine」のパンは小麦を使用していませんので、アレルギーをお持ちの方にも安心して召し上がっていただけるんですが、小麦がダメという方に向けて作っているわけではないんです。せっかくお米のおいしい新潟県にいるんだから、そのお米の旨みと甘みをしっかり引き出せるように努力しています。ちなみに酵母は、お米や麹、フルーツを発酵させた天然酵母などです。
――パンやスイーツはどんな種類があるんですか?
えなこさん:ハード系のパンが得意なので、バゲット、カンパーニュ、プレッツェルなど。ベーグルも数種類ご用意しています。「Yine」で使っている米粉はパン用ではないので、もちもち食感が強い一方で膨らみにくくって。でもベーグルをコシヒカリの米粉だけで作ると、すごく美味しいんです。それとシフォンケーキやマフィン、パウンドケーキなどの焼き菓子もご用意しています。スイーツのファンというお客さまも多いので、いつもみなさんの顔を思い浮かべて工房に入っています(笑)
――お客さんと距離が近い分、リクエストをもらうことも?
えなこさん:「食パンを作ってほしい」とよく言われるんですが、まだ研究中です。パン用の米粉を使えばよいんですけど、そうはしたくなくて。今は他の米粉とミックスしながら、納得できる美味しさのパンをお届けしています。
――その他の食材もお気に入りのものを選んでいるとか。
えなこさん:笹川流れのお塩、砂糖は新潟にはないので地域のものではないですが好きなものを、フルーツを混ぜるときは近くのフルーツ農家さんを頼って、とできるだけ地元の素材を選ぶようにしています。
――奈良出身のえなこさんが、新潟の食材を好んでくれていることが嬉しいですね。
えなこさん:お米はもちろん、フルーツも美味しいってどういうこと⁉ とびっくりですよ(笑)。フルーツって南の方や中国地方の特産物というイメージだったのに。お魚も美味しいですよね。特に胎内市には、お水の工場、ワイナリー、麹屋さんもあれば、お米農家さん、フルーツ農家さんもたくさんあります。海も山もある、観光に行きたくなる場所もたくさんある新潟県は、私にとってテーマパークです(笑)

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旅するように暮らし、
暮らすように働く。
――おふたりは現在、今後を見据えた暮らしをされているそうですね。
えなこさん:いずれはお互いの実家やこれまで関わった生徒さんがいる場所を行き来しながら、キッチンカーで生活したいと思っているんです。
雅彦さん:ふたりとも旅が好きなもので(笑)。留学経験もあるし、お互いの趣味や価値観を話すうちに、「異文化に触れることがとても刺激的」という話に至ったんです。ここでの暮らしも、ポータブル電源で動く冷蔵庫や冷凍庫、扇風機など、持ち運びできるものを少しずつ揃えて使っています。
――それをキッチンカーに乗せて移動するわけですね!
えなこさん:10年後の『Yine』がどうなっていたいか、もう考えています。私たちは身の丈に合った暮らしができて、貧乏旅行でも好きな場所へ旅ができれば、それで十分。だから、お店を大きくしたいという気持ちはありません。その代わり「米粉パンのお店がもっと増えたらいいな」と願っています。「Yine」に限らず、どこでも米粉のパンが食べられるといいな、って。もうひとつ叶えたいことは、私たちふたり、これまで頑張って働いてきたので、いつかは従業員さんを迎えてみんなが働きやすい職場づくりをすること。そんなふうに、自分たちらしい暮らしを続けていきたいですね。
――常連さんもいらっしゃるのに、胎内を離れるのが名残惜しくなりはしませんかね?
雅彦さん:その話もふたりでよくするんです。でも全国を飛び回っていても、きっと毎月胎内でお店を開くと思います。
えなこさん:どこにいても、胎内に戻ってきますよ(笑)。今も月に数回しか営業していないので、お客さまと会える回数も変わらずにいられると思っています。


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