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湧き水を使った美味しい鯉料理や十割蕎麦、五泉の「亀徳泉」。

田上町と五泉市をつなぐ「大沢峠」と呼ばれる旧街道沿いに「大沢鍾乳洞」という鍾乳洞があります。鍾乳洞の中は夏でもひんやりと涼しく、貴重な鍾乳石や石筍があって、これは五泉市指定の天然記念物になっています。そのそばに「亀徳泉(きとくせん)」という名の隠れ家みたいなお店があるのをご存知でしょうか。実は美味しい鯉料理や十割蕎麦で人気のお店なんです。今回は5代目店主の佐藤さんにお話を聞いてきました。

 

 

亀徳泉

佐藤 嗣久 Tsuguhisa Sato

1961年新潟市中央区生まれ。調理師専門学校を卒業後、新潟市の「行形亭」や東京築地の料亭で修行を積む。結婚を機に1989年から奥さんの実家の「亀徳泉」で働き、現在は5代目店主として料理に腕を振るう。趣味はバイクのツーリングや、オヤジバンドでのドラム担当など幅広い。

 

「霊泉」とともに続いてきた、隠れ家的な店。

——峠にある看板はよく目にしていたんですが、こんなところにお店があるとは思いませんでした。「亀徳泉」の歴史って古いんですか?

佐藤さん:140年以上前に地主の佐藤亀蔵が鉱泉を掘り当てて、弟の徳松と一緒に温泉宿を開いたのが始まりです。店名の「亀徳泉」は兄弟の名前を一文字ずつ取ってつけたものなんですよ。古い資料で唯一残っているのは玄関にかけてある泉質試験表だけなので、そこに記載されている明治13年を「亀徳泉」の創業年にしているんです。今では宿の営業はしていないんですけどね。多いときにはこの辺りに30軒の集落があったそうですが、今ではうち1軒になってしまいました。

 

 

——え、そんなにお店があったんですか!?

佐藤さん:ここの鉱泉は百病に効く「霊泉」といわれていて、とても繁盛したんだそうです。店の前の湧き水はどんな干ばつの年にも干上がることがなくて、夏でも常に水温が10℃のままなんですよ。このそばにある「大沢鍾乳洞」が関係しているのかどうかは、わかりませんけど……。

 

——不思議な湧き水ですね。

佐藤さん:そうなんですよ。だから「亀徳泉」には水道が通っていないんです。今でもこの湧き水を料理に使ったり「湧き水風呂」に使ったりしています。店内の冷房にまで湧き水を利用しているんですよ。こんなクーラーはもう作っていないから、壊れたら普通のエアコンに取り替えなければならないんですよね……。とにかく湧き水のおかげで商売をやっている珍しい店です。

 

「寺尾」という名で呼ばれていた修業時代。

——ずいぶん長い歴史があるんですね。佐藤さんで何代目なんですか?

佐藤さん:私は5代目になります。といっても「亀徳泉」は妻の実家で、私は婿養子なんです。

 

——そうなんですね。佐藤さんはずっと料理人を?

佐藤さん:そうですね。高校生の頃から板前になろうと思って、調理師専門学校で勉強した後に「行形亭」で5年間住み込み修行をしました。親方が大正生まれの厳しい方で、逃げ出したヤツもいたほどでしたけど、私はなんとか頑張って続けましたね。

 

 

——厳しい親方から言われたことで、今も心に残っていることとかありますか?

佐藤さん:よく言われていたのは「自分が使った場所は、使う前よりきれいにしておけ。汚くするなら使うな」っていう言葉です。今でもこの言葉を胸に、仕事のときには実践するように心掛けています。

 

——仕事をする上で大事なことですよね。他にも思い出に残っていることはありますか?

佐藤さん:当時の「行形亭」では、板前を苗字じゃなくて出身の土地名で呼んでいたんです。燕、井土巻、掘割っていうように……。私は「寺尾」と呼ばれていました。苗字だと呼び捨てにしたときに、同じ苗字のお客様に聞こえてしまうこともあるので、地名で呼ぶ習慣があったんですね。地名と同じ苗字っていうのは意外に少ないんですよ。当時の知り合いにはいまだに「寺尾さん」と呼ばれています(笑)

 

——芸名みたいですね(笑)。「行形亭」の後はどちらで?

佐藤さん:「行形亭」から紹介していただいて、東京の築地にある料亭で2年ほど腕を磨きました。その後はまた「行形亭」に戻ったんですけど、すぐに結婚することになって、妻の実家の「亀徳泉」で働くことになったんです。

 

湧き水で美味しくなる、鯉料理と十割蕎麦。

——ところで鯉料理ってこの地域の名物なんですか?

佐藤さん:村松の名物料理ですね。海から遠い山の中では鯉が貴重な栄養源だったんでしょうね。「亀徳泉」でも創業時から鯉料理をお客様にお出ししていたようです。いい水じゃないと育たないから、村松地域でも鯉料理をやっている店はどんどん減ってきていますよ。

 

——それじゃあ、「亀徳泉」で一番食べてほしい鯉料理は何ですか?

佐藤さん:鯉の甘露煮や鯉こくも美味しいけど、一番食べてほしいのは鯉の洗いですね。店の前の湧き水に鯉を放って、1週間以上泳がすことで鯉の身を締めるんです。注文があってから捌くので新鮮だし、湧き水で身を締めるのでコリコリした食感を楽しめるんです。

 

 

——ちょっといただいてみてもいいですか? ……たしかに、けっこうコリコリしてますね。

佐藤さん:ここの湧き水でしか出せない食感だと思うんですよ。鍾乳洞の影響もあるのか、カルシウムやミネラルが多く含まれているんじゃないでしょうか。

 

 

——鯉料理と同じくらい、お蕎麦も人気なんですよね?

佐藤さん:おかげさまで好評ですね。秋葉区で蕎麦屋をやられていた方が、体調を崩して店を閉めることになったんです。そこで私が道具を一式もらい受けた上に蕎麦打ちも教わって、10年くらい前から「亀徳泉」で出し始めたんです。西会津の蕎麦を使った十割蕎麦なんですけど、十割ってつなぎを使わないから難しいんですよ。時間が経つと蕎麦がぼろぼろ切れてしまうので、毎朝蕎麦を打っています。打ち終わった蕎麦は湧き水で締めるので、わざわざ氷水を使う必要がないのは助かりますね。

 

 

——佐藤さんが料理を作るときは、どんなことにこだわっているんですか?

佐藤さん:とにかくひとつひとつ真面目にやることを大事にしてます。鯉は生きているものを捌くし、蕎麦は打ち立てを食べてもらう。大根のけんだけとっても、お客様が何人だろうときちんと手で剥いています。そういうことがお客様にも伝わるんですよね。「ミシュランガイド新潟版」に載ったのも、そういうところを見てくれたのかなって思います。

 

湧き水とともに、これからも。

——今までお話を聞いてきて「亀徳泉」が湧き水とともに続いてきたことがよくわかりました。

佐藤さん:本当にそうですよね。温泉宿から始まって、今でも湧き水のおかげで美味しい料理が作れているんですから。料理の他にも、湧き水を使ったコーヒーとか、今はお休みしているけど湧き水風呂なんかもやってますからね。こんな店もそんなにないんじゃないですか(笑)

 

 

——今後はどんなふうに「亀徳泉」を続けていきたいですか?

佐藤さん:私の長男が6代目として跡を継いでくれることが決まったので、「亀徳泉」はまだまだ続けられそうですね。どんなふうに続けていってくれるのか、私も楽しみです。

 

 

140年以上前に掘り当てられてから現在まで一度も枯れることなく湧き続けてきた「霊泉」と、お客さんを美味しい料理で楽しませ続けてきた「亀徳泉」。どちらも枯れることなく、これからもまた続いていってくれることと思います。大沢峠を訪れたときはぜひ立ち寄ってみてください。鯉料理や十割蕎麦といった、美味しい水を使った涼しげな料理を楽しむことができると思いますよ。

 

 

亀徳泉

新潟県五泉市刈羽乙1360

0256-57-2971

11:00-18:00

火曜休

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