美術をもっと身近に。複数人が運営に関わるギャラリー「新潟絵屋」。
カルチャー
2025.06.15
新潟市中央区上大川前通にある「新潟絵屋」。2000年の創設以来、異なるジャンルで活躍する人々が集まり、複数人で運営しているギャラリーです。今回は「新潟絵屋」で働き、運営委員の理事でもある井上さんに、施設の特徴や企画展の見どころなどについていろいろとお話を聞いてきました。

新潟絵屋
井上 美雪 Miyuki Inoue
1978年新潟市生まれ。県立新潟女子短期大学在学中に、映画ロケのボランティアに加わる。以後、自主映画やシネ・ウインド、舞踊家の堀川久子氏のサポートをする。喫茶店や雑貨店勤務を経て、2005年より「新潟絵屋」で働く。ぼーっとする時間が好き。
複数人の視点で生み出す、新潟絵屋の舞台裏。
――まずは、「新潟絵屋」がどういう施設なのか教えてください。
井上さん:現在9名で運営しているギャラリーです。複数人で経営している点は、設立当初からの「絵屋」の特徴のひとつです。いくつもの視点があるから、いろいろな美術を紹介することができます。カラーが定まっていないので、来場される方にとっては異なるタイプの美術に触れるようなおもしろさがあると思います。2005年からは「株式会社新潟ビルサービス」と共同で、新潟市の芸術文化施設「砂丘館」の指定管理業務も行なっています。
――皆さんで一緒に企画や展示方法などを検討されるんですか?
井上さん:月に1度会議を開いて、どんな展覧会を開催するか決めるんですが、それぞれの企画には担当者がいて、基本的にはその人にお任せしています。メンバーの誰かが「やりたい」という企画であれば、その人が責任を持って準備するわけです。

――メンバーの「やりたい」という意思が尊重されるんですね。
井上さん:極端な話、提案した企画に他のメンバーが反対したとしても、担当者に「やりたい気持ち」がほんとうにあれば企画を開催することができます。その反対を押し切る熱意があるかどうかを問われ、より客観的な思考をめぐらすことができます。もちろん開催が決定した企画については、メンバー全員がそれぞれの立場でできる限りのサポートをします。
――大人のいい関係に思えます。
井上さん:そう思います。運営委員の本業は建築家、大工、家具職人、デザイナー、美術評論家、俳人、写真家などいろいろで、それぞれが得意分野を生かして活動しているんですよね。

「観る」を育てる、「新潟絵屋」での仕事。
――井上さんのことも教えてください。「新潟絵屋」で働きはじめたきっかけは?
井上さん:スタッフに欠員が出て、声をかけてもらったんです。「絵屋」の管理、運営、展示の準備や設営、接客、作家さんとのやりとり、作品の安全を守ることなどが、私の仕事です。
――それまでは、どんな仕事をされていたんですか?
井上さん:「収入を得る」という意味では、喫茶店や雑貨店で働いていました。でも生活の中心は、舞踊家である堀川久子さんのサポートをすることでした。あるとき堀川さんの公演をカメラマンさんが撮影することになって、私は撮影助手をしたんですが、そのときに堀川さんの踊る姿にものすごく衝撃を受けたんです。「この方の活動を近くで見ていたい」と思ったんですよね。
――「絵屋」で働く前から表現者を支えていたんですね。
井上さん:私が「絵屋」で働いたのは2005年から。今年でちょうど20年になります。「自分にとって、最高な場所に流れ着いたな」と思っています。
――井上さんが「絵屋」に関わりはじめた頃と今とで、何か変化を感じることはありますか?
井上さん:「画像」への馴染みがグンと進んだ気がしますよ。自分で写真を撮ったり、画像を加工したり、もしかしたら2000年代より、今のみなさんの方が「何かを観る」ことを日常的にしているのかもしれないですよね。そういう意味で、「観ることの価値観の変化」はあるかも。
――価値観の変化ですか?
井上さん:作品の実物と画像とでは、情報量には大きな違いがあります。普段から画像に触れているからこそ、実物を目にしたとき「こういう作品だったのか」という驚きや感動を感じてもらえているのではないかと思います。それだけ、いろいろなものが作品から放たれているんですよね。

月に2度、出会えるアート。
――「新潟絵屋」では、どんなものが展示されるんでしょうか?
井上さん:絵画、写真、アートとジャンルはさまざまです。よく「新潟の作家さんの作品が対象か」と聞かれるのですが、そうではありません。メンバーの誰かが興味を持ったものを展示しています。
――展示内容は、どれくらいのペースで変わるんですか?
井上さん:だいたい2週間ですね。なので、月にふたつの企画展があることになります。早めにスケジュールを調整するので、おおよそ1年先の企画展まで決まっています。
――そんなに先の予定まで組むんですか。じゃあ、告知も早めにできますね。
井上さん:告知が目的というより、作家さんに余裕を持って制作していただきたい気持ちがあるんですね。

――常連さんは、どんなことを期待して「絵屋」さんに足を運んでいるんでしょうか?
井上さん:刺激や安らぎだと思います。定期的に来てくださる方もいますし、「今日は時間があるから」とふらりと寄ってくださる方もいます。
――6月は25周年記念の企画展をされているそうですね。
井上さん:6月1日~14日までは、「アンティエ・グメルス展 Sun Diary」を開催していました。アンティエ・グメルス氏は、一時期新潟に住んでいたドイツ人の作家です。今回は、ドイツから作品を送っていただきました。「絵屋」がオープンした頃から幾度もアンティエさんの展覧会を開催しているんですが、毎回異なるテイストの作品を発表されるんです。そして、そのアンティエさんの作品から影響を受けた作家さんが、新潟市生まれのアーティスト・蓮池ももさん。6月16日~29日までは、「蓮池もも展」を開催します。開廊25周年の節目に、ふたりの展覧会を開催できることがすごく嬉しくて。「絵屋」の歴史を辿ることにもなるなと思っています。

美術をより身近なものに。
――「絵屋」さんには、美術展や公演会などのフライヤーがたくさん置かれていますよね。
井上さん:「絵屋」には、「いろいろな美術に触れて欲しい」という思いがあるので、その一環として、インフォメーションスペースを設けているんです。「絵屋」独自に、ミュージアムマップの作成もしているんですよ。2008年から毎月発行していて、いろいろなギャラリーを紹介しているんですが、それが「どこにあるか」だけを示したマップではあまり意味がないので、何が開催されるのかという生の情報を掲載しています。
――毎月発行されているなんて。力を入れようがわかります。
井上さん:「活発に活動しているギャラリーを少しでも応援したい」と新潟市内の情報を載せています。ミュージアムマップを作りはじめた当初より、けっこうな広域を網羅していると思います(笑)

――今後、注目の企画展はなんでしょう?
井上さん:まずは、今月の25周年企画展ですね。それから7月上旬には、「マドハット・カケイ展」を開催します。マドハット氏は、日本とスウェーデン、フランス、出身地のイラクにもアトリエを持ち、国際的に活動されています。その方の絵には、とても心に響くものがあって。また7月下旬からは、新潟の街角をたくさん描かれた斎藤應志さんの展示会を予定しています。斎藤さんが描かれた昔の新潟の街並みは、「写真とはまた違う味わいだ」とファンが多いんですよ。
――お話を聞いて、美術にそれほど詳しくなくても「絵屋」さんには足を運べそうだなと思いました。
井上さん:「美術をより身近に感じてもらいたい」というのが、「絵屋」の願いなんですね。この記事を読んだ方が、「絵屋」を知ってくれたり、他の画廊や美術館に興味を持ってくれたりしたらすごく嬉しいです。

新潟絵屋
新潟市中央区上大川前通10-1864
025-222-6888
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