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會津八一も愛した古町の老舗そば処「そばの山文」。

古町のど真ん中に「そばの山文(やまぶん)」という老舗のお蕎麦屋さんがあります。昼は近隣のサラリーマンや学生で賑わい、夜は一杯ひっかけて帰る人の姿も。どんな歴史のあるお店なのか、5代目店主の酒井さんにお話を聞いてきました。

 

 

そばの山文 古町本店

酒井 雅史 Masashi Sakai

1953年新潟市中央区生まれ。「そばの山文」5代目店主。趣味は読書で、一時期は藤沢周平、山本周五郎の時代小説を愛読していた。

 

古町にある老舗そば店の創業者は十手持ち。

——酒井さんは「そばの山文」の何代目にあたるんでしょうか。

酒井さん:私で5代目になります。店の創業年ははっきりしないんですけど、1864年の江戸末期に出版された「越後土産」という本に店名が掲載されているので、その年を創業年ということにしています。まあ、それ以前から営業していたんでしょうね。

 

——創業したのは、どんな方だったんですか?

酒井さん:創業者の山形屋文吉(やまがたやぶんきち)は、「文吉親分」と呼ばれる十手持ちでもあったんです。その姓名を縮めて「山文」という店名になりました。

 

——「十手持ち」というと、銭形平次や伝七みたいな岡っ引きのことですよね。ところで、店内に飾ってある書はどなたの作品なんですか?

酒井さん:あれは新潟を代表する書家・會津八一先生の作品です。三代目店主だった私のおじいさんが、會津先生と仲良くさせてもらっていたんですよ。私の母が嫁に来たばかりの頃、毎日店に来ておじいさんと将棋を指しては、ただでおそばを食べていく人がいて、「何者なんだろう」と思っていたら會津先生だったそうです。

 

 

——そんな偉人と関わりがあるなんて、おじいさんこそ何者なんですか(笑)

酒井さん:古町を中心に顔が広い人だったようです。「門外(もんがい)」という雅号で書も嗜んでいたので、自分の店の看板はもちろん、「百花園」さんや「笹川餅屋」さんをはじめとした老舗の看板もいろいろ書いています。「新潟県麺類飲食業生活衛生同業組合」もおじいさんが立ち上げたんですが、付き合いの広さからたくさんのお店が加盟しました。

 

大学を強制終了させられ、いきなり店長を任される。

——酒井さんはいつから「そばの山文」で働かれているんですか?

酒井さん:神戸の大学に行っていたんですけど中退して「そばの山文」で働くことになったんです。

 

——えっ、それはどうして?

酒井さん:大学生活を送っていたある日、アパートに仲間が駆け込んできて、大学の除籍者名簿に私の名前が載っているというんです。どういうことなのか調べてみたら、うちの親が大学へ連絡して勝手に退学手続きを済ませていたんですよ。親が言うには「もう十分遊ばせたんだから、そろそろ帰ってきて店を手伝え」ということでした。ひどいよねぇ(笑)

 

 

——ひ、ひどいですね(笑)。新潟に帰ってからは、お父さんの下で修業をされたんですか。

酒井さん:ところが、いくつかあった支店のひとつで、いきなり店長を任せられることになったんです。ずっとその店で働いてきた従業員からすれば、いきなりやってきた人間が自分たちの上になるのは面白くないし、ましてこの前まで大学生だった若造だから舐められるんですよ。全然言うことを聞いてくれなくて胃が痛む日々が続きましたね。

 

——酒井さんのせいじゃないのに大変でしたね。

酒井さん:でもそのおかげで、コミュニケーションの取り方を学びました(笑)

 

——まるで泳ぎを教えるのに海に突き落とされたような……(笑)。おそばの作り方もそのとき身につけられたんですか?

酒井さん:高校時代から店の手伝いをさせられていたので、その頃にそばの作り方は教わっていました。大学時代は夏休みや正月休みに帰省するたび手伝いをさせられていたので、だんだんと帰省しないようになっていきましたね(笑)

 

——だから強制的に呼び戻されたんじゃないですか?

酒井さん:そうかもしれませんね(笑)。ただ、おそばのなかでも重要な「かえし」の作り方だけは教わっていなかったんです。だから父が倒れて跡を継いだときは大変でしたね。いつも注文している「かえし」の材料を調べて、そこから自分で分析しながら作りました。

 

業者といい関係を保つ老舗の心得。

——「そばの山文」のおそばにはどんな特徴があるんでしょうか。

酒井さん:小麦粉とそば粉の比率を2:8でやっているところが多いけど、うちは3:7でやっています。2:8だと蕎麦が切れやすいんですよ。少しでも舌触りや喉越しがいいように加水率は多めにしています。ただ温度や湿度の違いで水の量は変わってくるので、手触りを確認しながら作っているんですよ。新潟の夏と冬では2〜3割は変わってくるからね。

 

——そばつゆについてはいかがですか?

酒井さん:高度成長期以降は、どこのお店でも化学調味料を使うことが当たり前になっていたんだけど、私の代からはそれをやめて鰹節や鯖節といった天然素材だけで出汁をとるようにしています。自分の店の味を大切にしていきたいと思ったんです。

 

——他にもこだわりがあったら教えてください。

酒井さん:材料はできるだけいいものを使うようにしていますね。うちは「にしんそば」と「鴨南そば」が人気メニューなんですよ。「にしんそば」に使っているのは本場京都から取り寄せている身欠きニシンなので、発酵臭がないんです。「鴨南そば」に使っているのも、フランス料理に使う合鴨なので臭みがないんですよ。天ぷらに使う海老も、あまり使われることのない大きさを使っているので、天重の蓋が閉まらなかったりします(笑)

 

 

——食材にもこだわっているんですね。

酒井さん:でもその食材が手に入らなかった時期もあって、大変な思いをしたことがありましたね。世界的な鳥や魚の病気が流行して鴨やニシンが獲れなくなったんです。食材がなければおそばは作れませんから、いろんな業者さんを当たって食材を探しました。

 

——それは大変でしたね。食材は無事手に入ったんでしょうか?

酒井さん:業者さんたちが協力してくれたおかげで、なんとか手に入れることができましたね。父から唯一教わったことが「業者さんをいじめたりせず、上手に付き合うように」ということだったんです。私はその言いつけを守っていい関係を保つように心がけてきたので、そうしたピンチの際にはずいぶん助けていただきました。

 

——いざというときは周りの協力が大事なんですね。これから年末を迎えますが、年末年始はかなり忙しいんじゃないですか。

酒井さん:そうですね。うちは通し営業の上にほとんど年中無休ですから……。でも、ご愛顧いただいているお客様や、お世話になってきた古町への感謝も込めて、皆様に寄り添った店であり続けたいですね。

 

 

 

そばの山文 古町本店

新潟市中央区古町通6番町974

025-222-3027

11:00-21:00

不定休

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。

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