家は、ただの「住む場所」ではなく、そこに暮らす人の価値観や生き方が映し出される場所。どんな家にも、住む人ならではのこだわりやストーリーが詰まっています。シリーズ『イエとヒト。』では、新潟で暮らす人々の「家」と「暮らし」にフォーカス。その空間にはどんな想いが込められているのか、どんなふうに過ごしているのかをご紹介していきます。
第6回は、新潟市中央区古町で暮らすご家族。根橋さんファミリーが理想の住まいを追い求め、たどり着いたのは、オフィスビルをリノベーションするというユニークな選択。そんなご家族が「サルキジーヌ」と共に築き上げたのは、お気に入りのモノや人が心地よく溶け合う空間でした。リノベーションしたきっかけから、暮らしてみての感想まで、いろいろと聞いてきました。
根橋さんファミリー
根橋雄一さん
株式会社Never代表。セレクトショップ『After School』を運営。奥さんと娘ちゃんの3人家族。慣れ親しんだ古町で新しい住まいを探し、「サルキジーヌ」と共に家づくりを行う。
企画/プロデュース・北澤凌|Ryo Kitazawa
イラスト・桐生桃子|Momoko Kiryu
――こちらの家は、もともとオフィスビルだったところをリノベーションして住まいにしたと聞きしました。物件探しはいつ頃からはじめられたんですか?
本格的に探しはじめたのは、おととしの秋頃ですね。最初は「マイホーム=新築」というイメージが強かったんですよ。ただ、「家を建てるなら絶対に古町」という想いだけは譲れなくて、ずっと物件を探していたんです。
――古町へこだわるのには、どんな理由があったんでしょうか?
僕が働いている洋服屋も古町にありますし、飲食とかファッションとか、僕のカルチャーは全部この街でつくられました。だからずっと、大好きなこの街に自分の家を建てたいと思っていたんです。仕事からプライベートまで、すべてをここで完結させられたら最高だろうなって。
――なるほど。好きな街で、好きな人たちに囲まれて暮らす。最高の選択ですね。
でも、探しはじめて4年くらい経っても、理想の場所がなかなか見つからなかったんです。その間にも新築のハードルは上がり続けました。そんなとき、「中古物件をリノベーションするのもアリだな」と考えるようになったんです。
――そこで出会ったのが、このビルだったんですね。
そうなんです。仕事でお付き合いのあった、「サルキジーヌ」の大福さんとご飯を食べた帰りに、たまたまこの物件の前を通りかかって、「ここ、いいじゃん!」って(笑)。でも、いざ内見してみたら、本当にただのビルでしたね(笑)
――(笑)。その「ビルに住む」という決断は、かなり勇気がいりませんか?
最初に内見したとき、正直「ここで暮らすのは無理でしょ」って思いました(笑)。でも、大福さんは「ここなら根橋くんっぽい、面白い家ができるよ!」って。その言葉を聞いて、一気に視界が開けた感じがしたんです。もしそのとき、大福さんが言ってくれなかったら、あと10年経っても家を建てられていなかったかもしれません。
――根橋さんの好みやライフスタイルをよく理解してくれていたんですね。
僕は家に人を呼んで、みんなでワイワイするのが好きなんです。そんな僕のスタイルを理解した上で、「それだと生活しづらいよ」というプロの意見と、「でも根橋くんはこういうのが好きだもんね」という僕の理想を、絶妙なバランスで提案してくれました。そのさじ加減が本当に素晴らしかったです。
――そんな信頼できるパートナーと家づくりを行ったわけですが、特に気に入っている場所ってありますか?
リビングですね。ここのテーマは「ギャラリーのような空間」なんです。僕の好きなモノや人がより映えるよう、白を基調とした空間にしました。
――その中で、ビルならではのこだわりはありますか?
あえて鉄骨を見せるデザインにしました。これは、木の温かみがある、ウッドの家具を空間のアクセントとして際立たせたかったからなんです。でも無骨になりすぎないように、床はタイルで白に統一して、光が反射して部屋がより広く見えるように工夫しています。あと、「生活感をなくす」というのもこだわったポイントです。
――生活感、ですか。
冷蔵庫や食器棚といった家電類は、リビングに入ってきたときに見えないように、すべて隠せる設計にしてもらいました。人が集まったときに、空間そのものを楽しんでほしくて。
――普段の生活でも、リビングで過ごす時間は多いですか?
寝るときと、服を取りに行くとき以外は、家族みんなリビングにいますね。食事をしたり、娘と遊んだり、この家の中心になっています。いまは家に帰るのが、前よりもっと楽しみになりました。
――実際に住みはじめてみて、ご家族やご友人の反応はいかがですか?
妻と娘はもともとインドア派なので、快適な家ができて喜んでいますね。友人を招いたときも、「こんな家あるんだ!」「リノベの可能性ってすごいね!」って、みんな空間そのものを楽しんでくれているみたいです。のびのびとくつろいでくれているのを見ると、嬉しくなりますね。
――この家を建てたことで、ご自身の仕事にも影響があったとか?
かなり変わりましたね。以前は服の話が中心でしたが、今では「家はどこで建てたの?」「この家具はどこの?」といった相談を受けることが増えました。もともと、僕は服を通して、お客さんの生活そのものを豊かにしたいと考えていたんです。この家ができたことで、お客さんの暮らしに対する話題の幅が広がりました。おかげで、より深い視点でその方に合った提案もできるようになりましたね。
――まさに、「人生のスタイリング」ですね!今後、この空間をもっとこうしていきたい、という構想はありますか?
まだまだ家具が揃いきっていないので、もっとモノを増やしたいですね。この空間は白を基調とした箱なので、飽きたときにレイアウトを変えやすいですし、色付けも気軽に楽しめます。実は、僕にはいくつか自分なりのルールがあるんですよ。例えば、重い家具は「四角」、アクセントになる小物は「丸」で揃える。使う木材も、オークとアッシュに限定しています。そうしたバランスを考えながら、少しずつ理想の空間に育てていきたいですね。
――最後に、この家とどんな人生を歩んでいきたいですか?
娘や僕たちの成長と共に、この家もアップデートさせていきたいですね。ライフスタイルが変わったら、それに合わせてまた変えていけばいい。そんなふうに、変化を楽しみながら暮らしていけたら最高です。
私たちは、猿・雉・犬のように、それぞれが得意な技術を持つプロフェッショナルチームです。お客様という桃太郎さんと一緒に、楽しみながら家づくりをお供します。 お客様一人ひとりの暮らしの課題に効く、「処方箋」のような家づくりを目指しています。
Q. 今回の家づくりのポイントについて教えてください。
A. 元々テナント事務所だったこの建物は、住まいとして使うには階段が多く、動線に無駄が多いことが課題でした。そこで玄関を家族用と来客用に分け、建物を大きく壊さずに鉄骨構造の強さを活かす設計をご提案しました。サイズの決まった箱だからこそ、限られたご予算の中で「根橋様ご夫婦らしい暮らし」の実現を最優先しました。こだわりたい部分にコストを集中させる一方、一部は「未来の楽しみ」として手を加える余地を残しています。「今できること」と「将来に手を入れる部分」を上手に分ける。リノベーションならではの方法で、コストバランスと夢の実現を両立させました。「モノづくりは楽しまないと!」をモットーに、終始ワクワクしながらご一緒させていただきました。
Q. 施主様との思い出のエピソードはありますか?
A. 根橋様にとって「古町」というエリアは絶対条件でした。その想いと、ご本人が持つ「らしさ」を何よりも大切に、土地探しからご一緒させていただきました。当初、ご夫婦は「このビルで本当に暮らすことができるのだろうか」とご不安な様子でした。しかし、私たちとアイデアを出し合う中で、間取りや空間の作り方にワクワクし、ビルリノベーションの大きな可能性を一緒に見出していってくださいました。(大福より)
サルキジーヌ(株式会社 井上建築設計)
新潟県新潟市秋葉区新町3丁目12-25
0250-23-2765