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30年の棚卸し。弥彦で1年間作品づくりに挑む、Annieさん。

ある日、「弥彦でやっている『アーティスト・イン・レジデンス』を取材してみてほしい」とお声がけいただき、いざ弥彦村へ。「アーティスト・イン・レジデンス」とはいったいどんな目的の活動なのか、直接お話を聞くべく「旧鈴木家住宅」にお邪魔し、アーティストのAnnieさんに活動のことをいろいろ聞いてきました。

 

Annie Lena Obermeier

1995年京都府出身。アメリカ人の父と日本人の母をもつアーティスト。大学卒業後から、フリーでアートやデザインを制作する。2023年から2年間、全国各地を旅しながら創作活動を行い、2025年6月から弥彦村の「旧鈴木家住宅」を活用した「アーティスト・イン・レジデンス」に参加する。長期の車中生活を経て、車から降りずに料理をすることができるようになったそう。

 

 

——まずは、Annieさんがこれまでどんなことをしてきたのか、教えてください。

Annieさん:大学を卒業後、フリーでアート制作やデザインの仕事をしていました。ポートレートの依頼をいただくことが多くて、結婚式場のウェルカムボードの制作もしましたね。

 

——そもそも、アートをはじめたきっかけは?

Annieさん:物心ついたときから絵を描いていました。誰かの誕生日やお祝いのときに、自分で描いた絵を贈っていたんです。そのときに喜んでもらえる経験をたくさんして、その延長で今も絵を描いています。はじめは似顔絵の制作をメインにやっていたんですけど、「自分の好きなものを描いてみたい」と思うようになって。それで、日本各地を車で旅しながら、創作をすることにしたんです。

 

——日本各地を車で旅をするとは。行動力があります。

Annieさん:私、すごく好奇心が旺盛みたいで。「日本のことをもっと知りたい!」と思ったときがあったんです。でも、本を読んだり、動画を観たりするだけでは、そこの実際の空気感がわからないじゃないですか。「だったら、行ってみよう」ということで、旅をすることにしたんです。1年かけて京都より東、もう1年で京都より西を回りました。実は、新潟には2回訪れたんですよ。

 

 

——2回も新潟に来てくれたんですね。

Annieさん:最初に新潟に行ったとき、弥彦にある「binn」の森田さんと仲良くなって。森田さんから店内の壁画の制作を依頼されたんです。でも次に行く場所も決まっていたので、北海道や東北を回った後、また新潟に行って壁画を制作しました。今回の「アーティスト・イン・レジデンス」も、森田さんから声を掛けてもらったんです。

 

——この活動に参加する決め手になったのは?

Annieさん:旅が一段落して、「どこかひとつの場所に住んでみようかな」って考えたんです。そのときにちょうど、お話をいただいて。新潟で住むのもいいなと思っていたので、ふたつ返事で参加することにしました。

 

今までを振り返りながら、弥彦で挑む作品づくり。

——そもそも、「アーティスト・イン・レジデンス」ってどんな活動なんですか?

Annieさん:アーティストが特定の場所に一定期間滞在して、創作を行う活動のことです。「観光資源に頼らないまちおこしをしたい」という森田さんの思いから、弥彦村でプロジェクトがはじまりました。今は30帖の大きな和室を使って、240枚の絵を合わせた、ひとつの大きな絵を制作します。

 

——30帖。実際に見ると、すごく大きいですね。

Annieさん:そうですね。作品の全貌をお⾒せすることはできないのですが、私が新潟に⾏く途中の景⾊を描こうかな、と思っています。まだ制作をはじめたばかりで、絶賛⼤迷⾛中です(笑)

 

 

——私たちが、作品を観ることができる機会はあるのでしょうか。

Annieさん:もちろん。来年の4月に、私の個展をここでやります。そのときに、この作品も展示する予定です。ただ、秋にはクラウドファンディングに支援くださった89名のみなさまに、返礼品として絵をお届けするので、個展では151枚の穴抜け状態の絵を展示します。

 

——この制作を通して、Annieさんが実現したいことはありますか?

Annieさん:30年間の⾃分の変化を解釈して、作品に落とし込もうと思っています。今まで多くの⼈に出会って、いろんな場所を訪れて、たくさんインプットをしてきました。それをひとつひとつ整理して「私がこれから何を⼤事にしていきたいか」をかたちにしたいんです。

 

 

——ご自身の人生を作品に落とし込もうと思ったのには、何かきっかけが?

Annieさん:はじめてここに来たとき、前の持ち主の所有物がたくさんあって。それを整理していくうちに、「旧鈴木家住宅」自体がもつ美しさや、取捨選択をしてものを飾ることの良さに気づいたんです。そのとき「これを私は1年間でやっていくんだ」って思いました。

 

——作品をつくりながら、今までの人生を整理していく、と。

Annieさん:私の30年間の中で、インプットしてきたことを振り返りながら、⼿放すか、残すかを選択して、これからの⾃分に取って⼤きな柱となるものを⾒つけていきたいんです。今は、まだ「⾃分」というのが定まっていなくて、それが絵にも表れているんですけど、この1年間で⾒つけていけたらと思っています。

 

自分を大事に、納得できるものをつくりたい。

——作品をつくるなかで、Annieさんが大事にしていることを教えてください。

Annieさん:「自分が納得しているか」はすごく意識しています。「自分が納得していないと何もできないけど、納得したら何でもできる人」って仲のいい友人に言われるくらいには、大事にしているかもしれません(笑)。しっくりきていない作品を人に渡すのは、最大の失礼だと思っていて。自分に対して「納得してる? 」って常に問いかけていますね。

 

——その言葉、背筋が伸びます。

Annieさん:絵を描き終えるタイミングは自分次第ですよね。納得して終われることは、自分を大事にしていることであると同時に、自分の気持ちも向き合えていることなんだとも思っているんです。

 

 

——自分の気持ちに向き合うって、言葉で書き表すよりも、大変だと思います。

Annieさん:そうかもしれませんね。それでも私は、自分のことも知りたいって思うんです。だからきっと、一年かけて自分と向き合って絵を描くことにしたんだと思います。とはいえ、ビジュアル・アートは誰かに観てもらってはじめて成り立つので、自己完結になってないか、不安になることもありますけどね。

 

——その探究心が、今のAnnieさんの原動力になっているかもしれませんね。最後に、読者に向けてひとこと、お願いします!

Annieさん:今までの制作では、自分の感じたことをそのまま絵に投影させてきたのですが、弥彦にいるこの1年間で、自分自身を見つめ直し、よりいいものつくをっていけたらと思っています。観てもらえるみなさんにいいものがお届けできるよう、私自身、楽しんで描いてきます。ぜひ、来年の個展で観に来てもらえたら嬉しいです。

 

 

 

Annie Lena Obermeier

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