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「部屋と人。#203 亀山睦美」

部屋とは、そこで暮らす人の暮らしぶりや趣味嗜好、人柄までもが現れる唯一無二の場所。似ている部屋はあっても、おそらくこの世に全く同じ部屋はひとつも存在しません。「この人ってどんな人なんだろう、どんなものが好きなんだろう」。その答えがきっと部屋にはあります。シリーズ『部屋と人。』では、私たちと同じ新潟に暮らす人たちの、こだわりの詰まった「自分の部屋」をご紹介します。

 

第9回は、フラワーショップ『hvid』のオーナー亀山睦美さんです。今回は自宅の1階スペースを取材させてもらえるということで、さっそくお邪魔してきました。お家へ上がってまずに目にしたのは、玄関からキッチンまで伸びている段差のないまっすぐな通路。珍しいなと気にしつつ通路を進み、取材のメインとなるリビングへと案内してもらいました。いったいどんなこだわりが詰まったお家なんでしょうか。間取りからお気に入りのものまで、いろいろと聞いてきました。

 

 

企画/プロデュース・北澤凌|Ryo Kitazawa
イラスト・桐生桃子|Momoko Kiryu

 

――それではまず、リビングのことについて教えてください。

「とくにテーマはないんですけど、自分が好きだなと思える家具や雑貨、花が映えるような空間にしたくて、内装はなるべくシンプルな色味や材質で統一しました。あと、家事を効率的に行える要素も加えたかったので少し工夫のある作りにしてあります」

 

 

――それは、具体的にどんなところですか?

「家具や家電がなるべく床につかないような作りにしてあるんです。普段からモノを置かないように心がけてもいるんですが、この作りのおかげで掃除に割く時間がかなり短縮できています。家と店の掃除は毎日行いたかったので、設計の段階からこだわって考えました」

 

 

――間取りにもなにかこだわりってあったりしますか?

「自分の家を建てることが昔からの夢で、もしいつか建てるなら広い家よりも、自分の手が届く範囲で収まるミニマムな空間にしたいと思っていたんですよ。でも、窮屈な印象は出したくなかったので、天井を高くしたり、廊下を作らず無駄なスペースが出ないようにしたりしました」

 

――お家にお邪魔したとき、玄関の形式が特殊だなと思ったんですけど、こちらの間取りも最初から決めていたんですか?

「そうですね。はじめから玄関とキッチンは境目を作らずにつなげようと思っていました。リビングも含めて全部フラットな形にしようかなとも考えたんですけど、途中で床の防寒対策ができないことに気がついて、さすがにやめました(笑)。いまは買い物から帰ってきたらすぐにキッチンで食事の準備ができるし、リビングにも移動しやすいのですごく気に入っています」

 

 

――玄関の入り口にお子さんの荷物を収納しておく棚もあるんですね。

「ここのアイディアは子供たちが通っていた保育園から着想を得て用意しました。この棚ができてからランドセルとか、洋服とかを自分たちで片付けるようになったんですよ。あと成長に合わせて高さを変えられるよう可動式にもなっているんです」

 

――それでは、リビングにあるお気に入りものについても教えてください。

「ひとつ目は『千』というブランドの照明です。5~6年くらい前に、これから建つ家に合うような家具を探そうと思って東京へ出かけたことがあったんです。いくつかのセレクトショップを回っているなかで偶然見つけたもので、無機質なデザインと、素材に真鍮を使っているところに惹かれて買いました。この家に取り付けるときは電気屋さんに立ち会ってもらって、微調整をしつつあえて長さを不揃いにしてもらいました」

 

 

「ふたつ目はロナン・ブルレックの画です。これも東京へ行ったときにこのデザイナーのことを知って、作品の存在感や雰囲気が気に入って買いました。部屋に置いてみると内装の色合いにもよく馴染むんですよ。普段から美術館へ行ったり、アートに触れたりすることが好きなので、良いなと思ったものはこれからも増やしていきたいですね」

 

 

――ちょっと2階の廊下が気になったんですけど、通路に隙間を作った理由ってなにかあるんですか?

「実は照明を点けると隙間から光が入ってちょっとした影絵みたいになるんです。これは設計の段階から考えていたことで、暗い時間になると、階段や花の影もはっきりと見えるようになるんですよね。花によっては影の形が全然違うし、置く位置によっても見え方が変わるのでちょっとしたアートみたいな感じがして気に入っています」

 

 

――ちなみに、今日はどんな花を飾っているんですか?

「今日はチューリップと蘭を飾っています。お店では幅広い種類の花を揃えるようにしているんですけど、個人的にヴィヴィットな色味や変わったデザインのものが好きで、出かけた先で見つけるとつい買っちゃうんですよね。いま飾っている蘭は埼玉にある生産地へ行ったときに見つけた奇形と呼ばれる種類のもので、本来はオレンジ1色ですけど、よく見ると縁が黄色になっているんです」

 

――普段から珍しい花も積極的に取り入れているんですね。

「自分が知らないとお客さまにおすすめすることはできないので、少なくとも一度は自分の家に持ち帰って、『どんなふうに咲いて、どのくらいの期間もって、どんな散り方をするのか』を見るようにしています。時期によって変わるんですけど、多いときで20種類くらいの花が家にあります」

 

――ずっと夢だったお家が建ったわけですが、なにか心境の変化ってありましたか?

「自分が好きだと思える空間で過ごせているので、やっぱり日々のモチベーションは高くなりました。新しい家具も取り入れつつ、自分の好きな空間を更新していきたいなと思っています。15坪という大きさで家を建てたので、建てた当初は『もしかすると子供たちが大きさを気にするかな』と思ったこともあったんですけど、あまり気にしていないみたいで、そういうのは結局大人のエゴなんだなと思いました(笑)」

 

――最後に、いま気になっている場所があれば教えてください。

「ここ数年で韓国インテリアというワードを耳にすることが増えたので、一度韓国のインテリアショップとか、建築物とかを見に行ってみたいなと思っています。淡い色使いと小物を引き立たせるような空間作りが特徴みたいで、実際に見に行って人気の理由を探ってみたいですね。それと向こうのお花屋さんを巡ってみながら、現地でしか得られない感覚を吸収したいなと思っています」

 

今回、この企画内ではじめて「家事」について触れたことに気がつきました。僕はとくに掃除が苦手で、モノを動かす手間をつい面倒くさがってしまうのですが、「家事がしやすい空間作り」という観点もインテリアづくりには欠かせない要素だと学びました。影絵の発想もこれまでの部屋にはなかったアートの楽しみ方で、第5回のお茶室とはまた違った「時間の移り変わり」を感じる部屋でした。(byキタザワリョウ)

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