New Eyes Niigata #02 マルコス
New Eyes Niigata
2025.11.25
目に映るもの、出会う人、そして日々の生活……海外から新潟にやってきた人たちは、今、この街でどんなことを思い、感じているのでしょう。新シリーズ『New Eyes Niigata』では、海外出身の皆さんが歩んできたこれまでの人生の物語を振り返りながら、彼らが「新潟」という新しい環境で見つけた、小さな発見や気づきをお伝えしていきます。
第2回目は、スペイン・バレンシア出身のプリンシパル3Dエンバイロメント&プロップスアーティスト、マルコスさんです。ロンドンやアムステルダム、バルセロナ、上海、東京など、いくつもの都市でゲーム制作に関わってきたマルコスさんは、今年の1月に新潟へ生活拠点を移しました。新潟で出会った発見、そしてこれからカタチにしたいこと、いろいろなお話を聞いてきました。

企画/プロデュース・北澤凌|Ryo Kitazawa
イラスト・桐生桃子|Momoko Kiryu
日本のゲーム会社からオファーを受け日本へ。
――まず、ご出身のバレンシアについて教えてください。どんな街ですか?
マルコスさん:バレンシアは地中海沿岸にある、スペインで3番目に大きな都市です。年間を通して雨が少なく、夏はとても暑いですが、冬は短くて、2月には暖かくなりはじめます。みんな外に出かけるのが大好きで、友人や家族と外で集まって、会話しながら食事する時間をとても大切にする文化があります。
――マルコスさんはどういう経緯で新潟に?
マルコスさん:最初に日本へ来たのが2013年で、東京のゲーム会社である「フロムソフトウェア」からオファーを受けて、シニア3Dエンバイロメント&プロップスアーティストとして働きはじめました。東京には約5年いて、そのときに妻と出会ったんです。それから7年ほどヨーロッパで暮らして、妻の地元でもある新潟で暮らそうと決めて、2025年の1月にやってきました。
――すみません。そもそも「3Dエンバイロメント&プロップスアーティスト」って、何をつくる職業なんでしょうか……。
マルコスさん:ゲームのなかに登場する街や建物、家具、武器、山や地形といった、小道具やステージを主にデザインしています。私は25年以上のキャリアになるのですが、現在は世界中の学生たちにオンラインで教えるメンターとしても活動しています。
――マルコスさんがアートやゲーム制作の世界に惹かれたきっかけは何だったんですか?
マルコスさん:小中学生の頃、勉強はあまり得意じゃなかったんです。でも美術だけは先生に褒められることが多かったんです。そこから少しずつ興味を持つようになって、独学でイラストやグラフィティを描きはじめたり、劇場の装飾や特殊メイクの仕事にも関わるようになったりして。ある日コンピューターを手に入れて、3D表現に出会ったことで、ゲーム開発の世界を知ってどんどんのめり込んでいきました。
――仕事を続けていくなかで、東京のゲーム会社を選んだ決め手は何だったんですか?
マルコスさん:東京へ行く前は、アートディレクターとして上海で働いていたんですが、ずっとビデオゲーム制作の最前線に身を置いてみたいと思っていたんです。当時から、日本のゲーム開発は世界トップクラスで、そこに挑戦することでもっと成長できると考えていました。
――実際に現場で働いてみて、どうでしたか?
マルコスさん:『ブラッドボーン』や『エルデンリング』『ダークソウルズ3』『アーマード・コア6』といった有名なタイトルに関わることができて、とても運が良かったです。時間との戦いが多かったり、プレッシャーも強かったりしましたが、あの環境で積み重ねてきた経験がいまの自分をつくっていると思います。
――日本で暮らすなかで、ゲーム以外に影響を受けたカルチャーってありますか?
マルコスさん:アニメや漫画から受けた影響は本当に大きいです。なかでも『マジンガーZ』や、『AKIRA』の作者である大友克洋さんのアート作品は、わたしのモノづくりの核をつくった作品です。『マジンガーZ』はスペインでも放送されていて、幼い頃に見て以来、わたしにとってヒーローであり特別な存在です。『AKIRA』の世界観は創作の指針になっていて、いまでも読み返すたびに新しいインスピレーションをもらっています。


マルコスさん:あと、ここにあるのはコレクションのごく一部ですが、ソフビはかなり集めています。つくりの精巧さや細部へのこだわりが魅力的で、見ているだけでも刺激になります。普段はモニターに向き合う時間が長いので、コレクションを眺める時間がいい息抜きになりますし、新しいアイディアのきっかけになることもあります。

――学生の指導にも携わっているとのことですが、ご自身の経験から、若いアーティストたちにいちばん伝えたいことは何ですか。
マルコスさん:自分のなかの「やってみたい」という好奇心に、素直でいてほしいということです。わたしは特別な才能があったわけではなく、興味のあることをとことん突き詰めてきただけです。失敗したとしても、何度も挑戦してきました。すぐに成果につながらないことも多いですが、続けていくうちに、自分のなかで眠っていた才能が見えてくることもあります。情熱を持てるものに出会えるチャンスはけして多くないからこそ、「やりたい」と感じたのなら、その方向へ進んでいってほしいと思っています。
新潟からはじまる、新たな創作。
――新潟に拠点を移してから、働き方に変化はありましたか?
マルコスさん:今は、アムステルダムにオフィスがあるKRAFTON PUBG(ゲーム開発のスタジオ)の仕事を、新潟からリモートで続けています。それと並行して、ゲーム業界を目指す学生たちにオンラインで指導もしています。ポートフォリオのまとめ方や、最終のプレゼンテーションの内容を一緒にブラッシュアップして、サポートをするような役割ですね。
――実際に暮らしてみて、街の雰囲気や、過ごしやすさについてどう感じていますか?
マルコスさん:都内での生活に比べて落ち着いて過ごせていますし、とても快適です。ただ、新潟は若い人が遊べる場所が少ないように感じています。古町はすごく雰囲気がいいのに、シャッターが閉まっているお店も多くて、もったいないな、寂しいなと感じることがありますね。
――バレンシアと新潟との間に、似ているなと感じた部分はありますか?
マルコスさん:バレンシアにも新潟のように広い田んぼがあって、スペインの米の多くは、バレンシアでつくられています。世界的に知られているパエリアも、実はバレンシアの料理なんですよ。
――パエリアはバレンシア発祥の料理だったんですね。田んぼがあるところも親近感が湧きます。ほかに、食についての発見はありましたか?
マルコスさん:海鮮はとても美味しいですね。魚介の種類も豊富ですし、日本酒の銘柄もたくさんあって、まだまだ知らないものばかりです。お店に入るたびに、新しい日本酒や料理に出会えるので、毎日ちょっとした発見があります。
――バレンシアではどんなお酒が親しまれていますか?
マルコスさん:よく飲まれているのは、ビールとスペイン産のベルモットですね。そのなかでも、わたしが好きなベルモットブランドのひとつが、「イサギレ」というスペイン産のものです。ハーブやスパイスを浸してつくられていて、苦みが少なく、甘みのある味わいが特徴です。スライスしたオレンジを入れて飲むのが一般的で、オレンジの香りが加わることで、より爽やかになります。食前酒として飲まれることもありますね。

マルコスさん:これは「トゥロン」という、スペインのクリスマスシーズンによく食べられている伝統的なお菓子です。今回は、アーモンドと蜂蜜を使ったものですが、他にも100種類以上のいろんなレパートリーがあります。コーヒーやお酒との相性もいいんですよ。

――新潟へやってきて、まだ間もないと思いますが、この街でこれから挑戦してみたいことはありますか?
マルコスさん:インディーのゲーム会社を新潟で立ち上げたいと思っています。新潟には、ゲームやプログラミング、グラフィックを学べる大学や専門学校がありますよね。でも、多くの学生は卒業すると、都市へ就職して新潟を離れてしまいます。もし新潟に選択肢が増えれば、この街を離れず働く人も増えるんじゃないかと思うんです。

――そのプロジェクトを進めるうえで、いま思い描いている展望があれば教えてください。
マルコスさん:まず、新潟の若いクリエイターたちとチームを組みたいですね。そしていつか、スペインのアーティストたちも加えて、コラボレーションしてみたいと思っています。新潟から新しい表現を、県外や国外に発信していきたいです。
――その思いが広がっていけば、新しい出会いも生まれていきそうですね。
マルコスさん:新潟にはいいものがたくさんあります。ただ、それを県のなかだけで共有するのはもったいないと思います。音楽やアート、いろいろな表現と組み合わせて、もっと外へ発信していくことが必要です。もしこうしたことに興味を持ってくれて、一緒に何かやってみたいと思ってくれる人がいれば、ぜひ会って話してみたいですね。
ドメネク マルコス

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