新潟市鳥屋野、住宅街の一角にある「BOUCLE(ブクレ)」。「オーガニックコットン販売士」の資格を持つ片桐さんが営むセレクトショップで、この時期は見事な新緑がお店全体を囲っています。その外観から興味を持って、「いったい何のお店だろうか」とふらっと入店する人も多いのだとか。取材中も「ずっと気になっていたので、思い切って来てみました」というお客さんがやってきました。今回は店主の片桐さんに、オーガニックコットンのことやお店のこと、いろいろとお話を聞いてきました。
BOUCLE
片桐 陽与 Youyo Katagiri
1973年長岡市生まれ。東京都内の美容室で働いた後、イギリスにホームステイ。帰国後は雑貨を扱う企業へ転職。2011年に長岡市に戻り、2013年に新潟市鳥屋野に「BOUCLE」をオープン。
――片桐さんが、これまでどんなキャリアを積まれてきたのか、まずは教えてください。
片桐さん:実家が美容業をしていたので、私も美容師として働いたんですけど、どうも性に合わなかったんですね。仕事をやめてのんびりしていたら、たまたまイギリスに嫁いだ遠戚に会ったんです。「せっかくだから遊びにいらっしゃい」と誘ってもらって、1ヶ月間イギリスにホームステイしました。そこでのライフスタイルが、ものすごく刺激的だったんですよ。
――どんなことが特に印象に残っていますか?
片桐さん:「アフタヌーンティーに重きを置く」「ひとつひとつの食器にこだわる」といったことにすごく驚きました。週末をめいっぱい満喫したり、古き良きものを修繕して長く大切に使ったり、そういう「イギリスらしい暮らし」を経験させてもらいました。
――それが、帰国後のお仕事につながっていくんですね。
片桐さん:ホームステイをしている間に、お気に入りの食器ブランドが見つかったんです。「この食器を扱っている会社で働こう」と心に決めていました。帰国後は、東京のライフスタイルブランドに入社して、15年間、販売員から製品開発までさまざまな仕事を経験させてもらいました。
――とても忙しかったのでは?
片桐さん:はい(笑)。心が豊かになるようなライフスタイルを提案する仕事なのに、忙し過ぎて、自分の生活には余裕がなかったです。でも、それを忘れるくらい夢中になって。きっと、お客さまに大好きなスタイルを提案するだけで満足できたんですね。
――キャリアを積まれた後は、2011年に地元の長岡市に戻られます。
片桐さん:踏ん張りすぎたのか、体調を崩してしまいました。「これ以上東京で暮らすのは難しいかも」と、親元に帰ってきました。それから2年間、自分の時間をもらえたと思っています。でもやっぱり、これまで関わってきた仕事にピリオドを打ちたくなかったんですよね。「等身大の自分でできるお店を出そう」と、2013年にはじめたお店が「BOUCLE」です。
――「BOUCLE」さんは、どんなお店なんでしょう?
片桐さん:メインはオーガニックコットンを使った衣類の販売です。商品の中には、私が実際に愛用しているアイテムがいくつもあります。
――オーガニックコットンは普通のコットンと、どう違うんでしょう?
片桐さん:大きく4つの規定を満たす必要があります。ひとつ目は、コットンの種子が遺伝子組み換えでないこと。それから、農薬や化学肥料を使わない土壌で育った綿花であること。あと、土壌と同じく有害な化学合成薬剤を使わずに栽培されていること、生産者の人権を尊重したものづくりをしていること。これらを満たして、第三者認証機関によって認証されたものが「オーガニックコットン」です。
――片桐さんは、以前からオーガニックコットンを愛用されていたんですか?
片桐さん:オーガニックコットンとの最初の出会いは、布ナプキンです。東京で働いていた頃、身体が疲れきっていたせいか生理が重くて。「少しでも痛みを軽くしたい」と手当たり次第いろいろ試していた時期に布ナプキンを利用して、ものの見方がガラリと変わりました。「原因はナプキンだけじゃない」と気づいて、食事や睡眠を見直すきっかけにもなったんです。
――体調を壊されたときは、ご苦労されたと思います。
片桐さん:身体って丈夫なんですよね。おそらく、身体を壊すまでにはそうとうな時間がかかったと思います。でも、治すにはもっともっと時間を費やすんでしょうね。東京を離れて15年近く経って、ようやく最近、ちょっとずつ体調が整ってきたように思います。
――他にも、ナチュラルなものを取り入れて生活していらっしゃるんですか?
片桐さん:手に入るようであれば、無農薬のお野菜などを買います。でも「それ以外はまったく食べない」というわけじゃありません。グルテンフリー生活でもないので、パンもパスタも食べますよ。体調が良くないとき、「あれば摂らない方がいい」「これはダメ」って意見を素直に受け入れていたんですけど、それはそれで苦しいんですよ。食べたくなってストレスが溜まっちゃう。いろいろ経験して、何事もバランスが大事だとわかりました。
――片桐さんの生活や好み、お店のラインナップに変化はありませんでした?
片桐さん:コンセプトと品揃え、私のライフスタイルも以前と一緒です。ただ、「お伝えの仕方」は大きく変わりました。オープン当初は「オーガニック」という言葉がトレンドになりはじめた頃で、お店の存在がすごく目立っていたというか、関心の高さをひしひしと感じていました。でも今は、「当たり前にある選択肢のひとつがオーガニック」になったような気がします。
――意外な答えでした。外部の環境に変化があったんですね。
片桐さん:「オーガニックとは何か」という説明は、もうほとんど必要ありません。素材ではなく、洗練されたデザインに惹かれて「こういうお洋服を着たい」という方も増えてきました。オーガニックコットンのバックグラウンドにはしっかりとしたものづくり文化があることをお伝えすると、お客さまはまた少し違う視点を持たれます。そういうところは、大きな変化かなと思いますね。
――片桐さんが取得された「オーガニックコットン販売士」という資格についても知りたいです。
片桐さん:「日本オーガニックコットン協会」が主催する検定講座を受講し、試験に合格すると得られる資格です。私は2期生で、たぶん新潟には私しかいないと思います。オーガニックコットンって、同じアイテムでも値段がかなり違うことがあるんですよ。1,000円台のショーツを置いているお店もあれば、「BOUCLE」で扱っているような5,000円台、6,000円台のものもあって。品質の違いについてもしっかり説明したいと思って、「オーガニックコットン販売士」を取得したんです。
――ちなみに、その値段の違いって?
片桐さん:簡単にご紹介すると、生産過程に違いがあります。食べ物と同じですね。種を植えてから、出荷するまでの工程にどの程度の労力やコストをかけているかの違いです。「BOUCLE」では、日本のオーガニックコットンブランドをはじめ、「これ以上ない」最高品質の製品を扱っています。
――片桐さんが、お客さんに伝えたいと思っていることはなんでしょう?
片桐さん:オーガニックだなんだって、いっぱいお話しましたけど、シンプルに「『BOUCLE』のお買い物を楽しんでほしい」と思っているんですよ。お買い物をして、その後の生活に活力が湧いてくることってあると思うんです。「明日はこれを身につけて会社に行くぞ」っていう気持ちがモチベーションになったりして。お気に入りの衣類は、頑張る人を輝かせてくれるし、助けてもくれます。「BOUCLE」でのお買い物が、お客さまの元気の源になったらいいなと思っていて。そんな気持ちで、お庭も含めて、特別な空間を用意しているつもりです。
BOUCLE
新潟市中央区鳥屋野431-105
025-282-7007