懐かしさと新しさが同居する沼垂エリアに、また新しいお店が登場しました。沼垂四ツ角のすぐそばの「Boulangerie Octave(ブーランジェリー オクターヴ)」です。今までは取材を断ってきたというオーナーの小松原さんにお会いして、オープンに至るまでのいきさつやこれからの抱負を聞いてきました。
Boulangerie Octave
小松原 尚樹 Naoki Komatsubara
1975年新潟市東区生まれ。大手ベーカリーチェーンで30年間修業を積み、最終的には店長を任されていた。2025年より独立して「Boulangerie Octave」をオープンする。幅広く色々な音楽を聴くことが趣味。
——今日はよろしくお願いします。
小松原さん:こちらこそ、よろしくお願いします。妻とふたりでやっている小さな店なので、今まで取材は極力お断りしてきたんですよ(笑)
——そうだったんですね。 では、どうして今回の取材を受けていただけたんでしょう?
小松原さん:どこの誰だかわからない者がやっているパン屋だと、お客様も不安なんじゃないかと思いはじめたんです(笑)。周辺にあるお店の方々ですら「何者なんだろう」と思っているんじゃないでしょうか。しっかりと修業を積んできた職人がやっている店というのを、そろそろ知っていただいた方がいいのかなと思いまして……。
——なるほど。それでは、そのあたりもしっかりと紹介していきたいと思います(笑)。まずは小松原さんがパン職人になったいきさつを教えてください。
小松原さん:僕は学生時代にずっと柔道をやっていて、大学へも柔道がやりたくて行ったような感じだったんです。ところが肩を怪我して引退することになってしまって、それからはやりたいことが何も見つからなかったんですよ。そんなとき、パン屋さんにミニクロワッサンを買い求める行列ができているのを見て、「あんなに人気があるなら自分もつくってみたい」と思うようになったんです。
——それで、そのパン屋さんで働くことに?
小松原さん:はい、アルバイトとして入社して、その後正社員になりました。ただ、朝早くから夜遅くまで働いて、休みも少ない環境がきつくて、一週間で辞めようとしたんです。そのとき、店長から「きついのはみんな同じなんだから我慢してくれ」と説得されて、結局そのまま30年勤め続けました(笑)
——どうして30年も続けることができたんでしょうか?
小松原さん:先輩たちが優しく接してくれたのと、居心地が良かったおかげかもしれませんね。ただ関東圏の忙しい店で働いていたときは、めちゃめちゃ厳しかったです。でもそのおかげで、パン職人として覚醒することができたのかもしれません。
——覚醒というのは、何かきっかけがあったんでしょうか?
小松原さん:日本橋の店に勤めていたとき、チーフが日本代表として「クープ・デュ・モンド・ドゥ・ラ・ブーランジェリー」っていうベーカリーのワールドカップに出場することになったんです。大会に向けて準備をするチーフの姿を毎日間近で見て、真剣にパンづくりを突き詰める姿に影響を受けました。
——なるほど。
小松原さん:それまでは「たかがパンづくり」と思っていたところがあったんです。でもそのときに「パンづくりも捨てたもんじゃない」と思いはじめて、やがては「自分の個性を表現したい」「もっと自分の腕を磨きたい」と思うようになって、それからは見よう見まねでパンの試作研究を続けました。
——眠っていた職人魂に、火がついたような感じですね。
小松原さん:そうかもしれませんね。それもあって、もっと自分の思うようにパンづくりをしたいと思いはじめて、独立して「Boulangerie Octave」をオープンすることにしたんです。常に現役のパン職人であり続けたいという気持ちも強かったですね。店名は「もうワンオクターヴ上を目指したい」という思いからつけました。
——お店をオープンするにあたって、苦労したこともあったんじゃないですか?
小松原さん:前に勤めていたベーカリーチェーンの同僚のなかには、新潟市で独立してパン屋を経営しているオーナーも何人かいたので、いろいろとアドバイスしてもらったんですよ。そのおかげで何の苦労も心配もなくオープンすることができました。本当に感謝しています。
——それは心強いですね。ところで、この場所って以前中華料理店でしたよね。
小松原さん:そうです。だからほとんど改装しましたね。入ってきたらすぐ沢山のパンを見渡せるようにしたかったので、あちこちに分散して置くのではなくて1カ所に集めて並べるようにしました。パンが並んでいる棚はオーケストラのひな壇みたいに、これから演奏がはじまるようなイメージにしてあるんです。
——確かにまっすぐたくさんのパンが並んでいる様子は圧巻です。他にはどんなことをイメージしました?
小松原さん:フランスにあるような小さなパン屋さんを目指しました。パンだけで勝負したいと思ったので、バゲットをはじめとしたフランスパンをメインにして、ドーナツやミニクロワッサンといったおやつ系や、サンドイッチなんかの惣菜系はやっていないんです。
——他にもこだわりはありますか?
小松原さん:地域の方々に親しまれるお店にしたかったので、食パンやバターロールといった主食にできるようなパンや、子どもに喜んでもらえるようなメロンパン、クリームパン、カレーパンをやっています。近所の子どもがお小遣いを握りしめてパンを買いに来てくれるのは、何より嬉しいですね。
——でも、やっぱりおすすめはフランスパンなんですね。
小松原さん:そうですね。フランス産の粉をベースにブレンドしたものを使って、低温で長時間じっくり発酵させてから焼き上げています。クロワッサンやブリオッシュのバリエーションで展開していますが、やっぱりバゲットを食べてほしいですね。フランスパンを日本に広めた二瓶利夫(にへいとしお)さんの著書が、僕にとってのバイブルです(笑)
——さて、フランスパンの評判はいかがですか?
小松原さん:Googleの口コミでオランダ人のお客様から「本場のフランスパンと同じ」と投稿していただけて嬉しかったですね。おかげさまで常連のお客様もできました。近所に住んでいるお客様が多いせいか、1日に2回も来店してくださる方もいるんですよ。
——それはすごい(笑)。これからは、どんなふうに営業していこうと思っていますか?
小松原さん:お客様ひとりひとりへの感謝を、つくり手はパンで、売り手は接客で表現していけたらと思っています。あんまりこだわりが強過ぎると自己満足になってしまうので、お客様の声に耳を傾けながら、できることには対応していきたいです。そして敷居が高くならないように気をつけていきたいですね。
Boulangerie Octave
新潟市中央区沼垂東3-1-18
025-367-1812
9:00-17:00
月火水曜他不定休