「シネ・ウインド」の支配人がオススメする、クリスマス映画ベスト3。
カルチャー
2019.12.24
会員達の協力で運営している映画館「シネ・ウインド」。
新潟市中央区の万代シテイに、会員の協力によって運営されている新潟市民映画館があります。「シネ・ウインド」。クリスマスイブの今日は、シネ・ウインドの支配人・井上さんからオススメのクリスマス映画を教えてもらうとともに、シネ・ウインドがどんな映画館なのか、その歴史や誕生の背景を聞いてきました。


シネ・ウインド
井上 経久 Tunehisa Inoue
1968年東京都生まれ。有限会社 新潟市民映画館 代表。シネ・ウインド支配人。1992年ブラインド会社に就職し新潟県阿賀野市に着任。1998年に会社を退職後、バックパッカーとして1年をかけて30カ国回る。帰国後、代表に誘われシネ・ウインドで勤務することになる。映画の他、文楽、寄席などにも興味があり、以前やっていた剣道を再開したいと思っている。
新潟市民の協力で開館した映画館「シネ・ウインド」。
——今日はよろしくお願いします。表に飾ってあるタペストリーに「祝34周年」ってありましたね。もう、そんなに経つんですか!
井上さん:1985年12月7日に開館してますからね。ことの発端はその年の3月に、新潟市古町通 7番町にあった名画座ライフが閉館したことに始まるんです。名画座ライフは新潟市唯一の名画座で、旧作をメインに上映していた映画館でした。当時、新潟日報に寄稿していた映画評論家の荻昌弘さんは、このことを嘆いて「あんなに素晴らしい映画館をなくすなんて、新潟市民は何を考えているのか」という文を寄せていましたね。
——荻昌弘さんといえばテレビ番組「月曜ロードショー」の解説でもお馴染みでしたよね。その一言がシネ・ウインドの開館につながるんですか?
井上さん:その声に応えたのが、当時サラリーマンをやっていた、後のシネ・ウインド代表・齋藤正行でした。会社を辞めた齋藤は、文化的発信の場がなくなることに危機感を覚えていたミュージシャン、演劇人、文学人、画家たちと一緒に「映画館をつくる会」を立ち上げました。新潟市民に1口1万円の出資を呼びかけ、その年の12月に「シネ・ウインド」を開館することができたんです。
——運動を始めて1年もしない内に開館しちゃうなんてすごいですね。新潟市民のエネルギーを感じます。シネ・ウインドって、普通の映画館とは違うんですか?
井上さん:一番の特徴は年会費を払っている会員たちが運営している映画館ってことですね。つまり、映画ファンの人がボランティアとして映画館の運営側になれるんです。会員の仕事はいくつかあります。上映する作品を選んだり、会報「月刊ウインド」の編集や発送をしたり、ライブラリーの書籍を貸し出したり。その他にもサポーターとしてチラシの折り込み、電話番、劇場のメンテナンス、イベント企画などの仕事もあります。
——映画以外にイベントの企画もするんですか?
井上さん:やりますよ。ライブや寄席、講演会とか。以前、AV…つまりアダルトビデオ監督をお招きしてAV鑑賞会をやったこともありましたね(笑)。自由度が高いところが会員企画のメリットですよね。

映画館はタイムカプセルのようなもの?
——会員になると自分の好きな映画作品を上映することもできるんですか?
井上さん:はい。映画会社からの売り込み作品を上映する他、会員からの持ち込み企画もやってるんです。先日上映した「青の帰り道」もそのひとつ。会員の中に横浜流星の熱烈なファンがいて、SNSでファンを募って上映の実現に行き着いたんです。
——会員の持ち込み企画はどんな作品でも上映してるんでしょうか?
井上さん:どんな作品でもとはいきませんね。世間に需要があるかどうかは検討しています。会員スタッフによく話しているのは、自分のオススメする作品にまったく興味がない人に対して、どうアプローチするのか考えてほしいということ。上映作品をプロモーションすることも楽しみのひとつなんですよ。
——今までシネ・ウインドで上映した作品の中で、印象に残っている作品を教えてください。
井上さん: 2002年のシネ・ウインド10周年記念上映作品「阿賀に生きる」ですね。阿賀野川流域にスタッフが住み込んで撮影したドキュメンタリー作品です。私が東京から阿賀野市に赴任してきた時、初めてシネ・ウインドと関わった作品なんです。当時はボランティアスタッフとしてPR活動なんかをしてました。想定外の観客動員がありまして、新しい作品じゃなくても、新しい観客を作ることはできるんだと知ることができた作品でした。
——他にも印象に残っている作品はありますか?
井上さん: 1999年に公開された「白痴」ですね。当時、新潟市中央区の美咲町で大きなロケセットを組んで撮影された作品です。「白痴」撮影中に主演の浅野忠信さんの出演作品「Helpless」「パンツの穴 キラキラ星みつけた!」をシネ・ウインドで特別上映したんです。「パンツの穴」に出演していたことはあまり世間に知られていなかったので、ご本人がとても喜んでくれたんですよ。
——映画館を運営していて大変なことってありますか?
井上さん:大変なのはお客さんを集めることですね。いい作品なのに集客が少なかったときは辛いです。でも、ミニシアターならではのきめ細かな宣伝や、大きなシネコンにはできない地域に密着した広報はできると思っています。
——では、うれしいのはどんなときですしょうか?
井上さん:映画を観終わって出て来る人の表情がよかったらうれしいですね。泣いていたり、笑顔だったりするっていうことは、作品を観たことでなんらかの影響を受けているわけですから。そういう意味では、映画館ってタイムカプセルみたいなものじゃないかって思ったりします。暗闇に2時間近く閉じ込められて、入る前と出て来る時では自分の中で何かが変わっていることがあるんですから。

クリスマスにオススメする映画ベスト3
——それではここで、せっかくのクリスマスシーズンなので、クリスマスイブにオススメの作品を教えてもらえませんか?
井上さん:1990年のアメリカ映画「ダイ・ハード2」はどうでしょうか。クリスマスの空港を舞台に、主人公の刑事ジョン・マクレーンがテロリストとの戦いに巻き込まれるアクション映画です。毎回主人公がクリスマスに事件に巻き込まれるおかしさがありますよね。特に好きなのはラストシーン。逃亡するジェット機のエンジンから燃料が漏れていて、その燃料にマクレーンがライターで火をつけるんです。すると炎が導火線みたいに燃料を伝ってジェット機に引火し爆発しちゃいます。その後、燃えている燃料の跡が誘導灯代わりになって、着陸することができず上空で待機させられていた航空機が次々と着陸していくのが面白かったですね。
——「ダイ・ハード」は人々が幸せに過ごしているクリスマスに、主人公が大変な目にあうっていうのが面白いですよね。他にもオススメ作品ありますか?
井上さん:2005年の日本映画「交渉人 真下正義」でしょうかね。人気ドラマ「踊る大捜査線」の登場人物を主人公にしたスピンオフ作品です。クリスマスイブに地下鉄ジャックが発生し、日本初の交渉人・真下正義が犯人たちとの交渉にあたるというスリリングな作品です。クリスマス映画なのに上映は5月だったんですよね(笑)。この作品は出演している役者で観に行きました。刑事役の寺島進や地下鉄司令長役の國村隼がいい演技をしてましたね。この作品が遺作になってしまった金田龍之介はシネウインドの会報に連載をしてくれていた時期もあったんです。
——「交渉人 真下正義」には私の好きな松重豊も出てました。まだオススメの作品がありそうですね?
井上さん:最後にオススメしたいのは1996年の日本映画「大統領のクリスマスツリー」。ホワイトハウスに飾られたクリスマスツリーの前で出会った二人は永遠に結ばれるっていう伝説を基に、ニューヨークに渡った女性の恋と自立を描いた作品です。ガラガラの映画館で観客が私一人だったことから印象深い作品ですね。ほろ苦いバッドエンドの作品ですが、そんな気分に浸りたい方にはオススメしたい作品ですね。
——ありがとうございました。最後に、今後シネ・ウインドとしてやってみたいことってあります?
井上さん:いろいろあるんですよ。シネウインドとしての単館上映もやってみたいし、監督にコメントをしてもらいながら映画鑑賞するライブコメンタリー上映もやってみたいです。会員のつながりも強化していきたいのでイベントなんかもいろいろ開催したいです。映画の上映だけじゃなくて、シネ・ウインドが新潟市民の集いの場になってくれたらと思いますね。

「ゴジラ対メカゴジラ」で映画デビューして以来の映画ファンで、「直撃!地獄拳」「てなもんやコネクション」などの個性的な作品が好きというシネ・ウインド支配人の井上さん。今回はそんな井上さんオススメのクリスマス映画を教えてもらいました。クリスマスだけどなんかヒマだな…という方、まったり映画を観ながら過ごしてみるのもいいのではないでしょうか?
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