着物を再生して、未来へつなげる。
「engimono」が作る、循環のかたち。
その他
2026.04.05
燕市でステンレス加工や製造などを手がける「株式会社 創明工芸」。こちらの会社では、「engimono(えんぎもの)」という、使われなくなった着物をもう一度使える素材に再生するプロジェクトを2024年からはじめました。金属加工を主に行う「創明工芸」がどうして着物に関わる事業をはじめたのか。社長の澁木恒利さんと、奥さまの奈美さんに、会社のことや「engimono」をはじめたきっかけなど、お話を聞いてきました。
澁木 恒利
Tsunetoshi Shibuki(株式会社 創明工芸)
1962年燕市出身。大学を卒業後「恒成株式会社」に入社。その後、同社の開発部を経て「創明工芸」を立ち上げる。2024年7月から着物を使った新規事業「engimono」をスタートさせる。バイクで全国の神社を巡るのが趣味。
澁木 奈美
Nami Shibuki(株式会社 創明工芸)
幼稚園教諭として働いた後、「創明工芸」に入社する。現在は取締役総務部長として「engimono」に寄付された着物の管理などを行う。創明工芸のオリジナルキャラクターである「そうくん」と「めいちゃん」の名付け親。
働く人が幸せになるために。
「創明工芸」ができるまで。
――今日はよろしくお願いします。まず、「創明工芸」について教えてください。
恒利さん:元々は私の父がはじめた「恒成株式会社」の開発部として、弱電用部品や建築用の外構材の加工をしていました。その後会社から独立して「創明工芸」を2003年に立ち上げました。今はテニスコートのネットをかけるポストや、審判台、食品工場向けの大型タンクなどを製造しています。
――恒利さんご自身は、大学を卒業後「恒成株式会社」に入社されました。
恒利さん:会社を継ごうとは考えていませんでした。父は常に仕事のことを考えている人で、家にいても仕事の話をしていたくらいだったんです。それだけ熱心だったんですけど、当時はそれが嫌でもありましたね。だから「恒成株式会社」にも入らない、と思っていたんですけど、いろいろ考えて最終的には会社に入ることにしました。
――「恒成株式会社」の開発部から独立して作られたのが「創明工芸」です。会社を引っ張っていく存在として、何か変えたことはあったのでしょうか。
恒利さん:開発部だったときは、売上がよくないと怒られて、プレッシャーをかけられる、みたいな昔ながらのやり方のもと働いていました。そんな環境だと、みんな萎縮しちゃって。自分が開発部を任されるようになったとき、まずはこの状況をなんとかしないといけないって思ったんです。
――まずは、働く人を幸せにすることからはじめたんですね。
恒利さん:そのためには、会社の目的と社員の目的を一致させる必要があると考えました。共通点を探すなかで、「自分にとっていちばん大切な人のために働いている」っていうことは、会社も社員も共通していると思って。「創明工芸」では社員とその家族を幸せにするっていう目標のために、いろんな取り組みをはじめました。
――具体的には、どんな取り組みを?
恒利さん:社員が主体的に動けるようにしました。「改善提案制度」っていうものをはじめて、業務の改善案や、新しくはじめたいことを社員に提案してもらうんです。その提案に応じて提案料を支払うっていうかたちをとって、社員自身が仕事や会社の仕組みを変えることができるようにしました。年間の休日をいつ、どこに当てるかも社員に決めてもらっているんですよ。
――働いている社員さん自身が、どう働きたいかを決められるようにしたんですね。
恒利さん:そうですね。私は方向性を示すくらいです。もし、上手くいかなかったとしても、怒ることはしません。ただ、失敗したら3つのことを考えてほしいと伝えていて、ひとつは原因を明らかにすること、もうひとつは改善する方法、最後はそれをみんなができるような仕組みを考えること。こうすれば、一度失敗しても次はできるようになるって考えています。


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きっかけは、とある製品の開発。
着物を再生させる、「engimono」。
――「創明工芸」が開発した「はごろも」という機械も、誰でもクリーニングできる仕組みを作りました。
恒利さん:クリーニング屋さんに向けて、シミ取りやクリーニングのことを教えている先生のノウハウを誰でも再現できるように製品化したのが、このウェットクリーニングのための機械なんです。主に油汚れが落ちるドライクリーニングに対して、ウェットクリーニングは汗や水溶性の汚れも落とすことができます。「はごろも」なら、剣道の防具やランドセルなんかも洗濯ができるんですよ。「はごろも」が完成した後、ドライクリーニングをしているクリーニング屋さん向けに販売していたんですけど、ただ、それがなかなか思うようにいかなかったんです。だったら、「はごろも」を使った事業を自分たちではじめようと思って、それで古い着物を生地として再生させる「engimono」をスタートさせました。
――「はごろも」は他にも洗えるものがある中で、どうして着物を選んだのでしょう。
恒利さん:最初は古着を回収している方の支援として、「はごろも」で古着を洗っていたんです。その中で着物を洗うこともあって。今では着物を買取業者の方に売る方も多いですが、大切な人の着物を売るのに抵抗を感じている方もいたんです。かといって、それを捨てるわけにもいかないし、でもどう活用したらいいかわからないっていう課題があることを知りました。それで、着物を通して何か社会貢献ができないかと考えたときに、福祉作業所に着物の洗浄と、糸をほどく作業をお願いして着物の生地を再生してもらおうと思ったんです。
――なるほど。それなら大切な着物を捨てずに、また着物の生地を使ってもらうことができますね。
恒利さん:着物の生地って、今はもう作られていないものもあるんです。まだ使える生地を廃棄することは環境にもよくないですし、貴重な着物の生地をまた使ってもらうこともできます。それに、福祉作業所に着物の生地の再生をお願いすれば、作業所の収入も上がるし、社会貢献に少しでもつながるかなと。
――再生された着物の生地は、リメイク素材としてイベントなどで販売されています。
奈美さん:着物の生地で洋服をつくったり、バッグや巾着をつくったり、いろんなものをつくって楽しんでもらっています。シルクで作られた着物の生地を使って、お坊さんが身につけている「絡子」やネクタイを作られた方もいらっしゃいました。着物生地って扱いづらいイメージがありますけど、お家の洗濯機で洗濯しても少し縮むくらいですし、縮んだとしてもアイロンで伸ばしてあげれば大丈夫なので、案外扱いやすいと思いますよ。
――販売されている生地のパッケージにQRコードがついていますが、これはいったい…?
奈美さん:これは私が提案したんです。自分が生地を買うときに、元の着物はどんなものだったのか、シミや汚れはどれくらいあるのかを知りたいと思うんです。商品を全部広げて見るのも難しいと思うから、QRコードを読み取って着物の状態を見れるようにしました。


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着物を地域で循環させる。
「engimono」が描く、人と地球に優しい未来。
――これから「engimono」は、どんな姿を目指していくのでしょうか。
恒利さん:この事業のかたちを全国に広げていきたいです。「はごろも」さえあれば、着物を回収して、洗って、ほどいて、販売するっていう仕組みづくりはできているので、全国の福祉作業所さんにこのかたちが広がっていけばいいなと思っています。あとは、着物を再生する場所を増やすだけじゃなくて、需要も増やしていきたいんです。そのためには、より多くの方に「engimono」を知ってもらえたら嬉しいです。
――先月「無印良品 燕店」で行われたイベントは大盛況だったと聞きました。
恒利さん:ありがたいことに、たくさんの方に生地を買っていただけました。使われなくなってしまったものを、もう一度使えるかたちに変える「engimono」のコンセプトが、「無印良品 燕店」さんのお客さまとすごくマッチしたのかなと思っています。「engimono」が全国に広げられるかもしれない、と可能性を感じましたね。来月は5日と6日の2日間、同じ場所にまた出店するので、気になる方はぜひお越しいただけたら嬉しいです。
――お家で眠っている着物がある、という方もいると思います。「engimono」に着物を寄付したいとき、どうしたらいいのでしょうか。
奈美さん:「創明工芸」に郵送していただくか、直接お持ちいただいています。大切なものだから捨てられないけど、行き場がなくて困っていたら、ぜひお持ちください。きれいに洗って、もう一度使ってもらえるようなかたちにしますよ。
――家に帰ったら、着物がないか探してみます。「engimono」って着物にまつわるお悩みが、みんなにとっていいかたちで解決できる事業だと、改めて感じました。
恒利さん:この事業で、社会が少しでも良くなっていくと嬉しいですね。今、世界がどう変わるかわからない時代ですから。着物を回収して、再生させて、また販売してっていう仕組みが、地域の中だけでできますし、着物の新しい市場もつくれるんじゃないかな、なんて思っています。そういうふうな未来になるように、これからも頑張っていこうと思います。


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