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若い世代に金属工芸の魅力を伝えたい。金工作家「三上 洸希」。

以前取材をした「喫茶デンデン」さんで、かわいらしい金属製のお皿とスプーンを見かけました。作り手は、金工作家の「三上洸希」さん。大学を卒業してから金属製品づくりを学び、作家としてスタートを切った三上さんは現在26歳。工房を設け、やる気に満ちあふれているものの、作家としての難しさも感じているそう。きっと5年後、10年後に取材をしたらまったく違う内容になるんだろうなと想像しながら、今だから聞ける三上さんの本音をいろいろと聞いてきました。

 

金工作家

三上 洸希 Koki Mikami

1997年新発田市生まれ。長岡造形大学を卒業後、アルバイトをしながら三条市の金工作家に師事。2022年夏に新発田市内に工房を設ける。趣味は魚釣り。

 

大学の授業で体験した、ものづくりのおもしろさ。

——三上さんは、大学時代から金属工芸について学んでいたんですか?

三上さん:ものづくりに興味があったので長岡造形大学に入学しました。プロダクトデザインを専攻していたんですけど、別の学科の授業で金属加工を体験する機会があって。それがおもしろくて、「手づくり品を自分でも作りたい」と思うようになりました。

 

——企業などへ就職する道を選ばなかったのはどうして?

三上さん:まだ失敗できる年齢だし、やりたいことをやってみようと思ったんです。祖父母の家が空き家になっていたから作業場所はあるし、作家の勉強とアルバイトを両立すれば、なんとか生活できるんじゃないかなって。

 

 

——金工技術はどうやって習得したんですか?

三上さん:三条市の先生に教えてもらいました。今もすごくお世話になっています。

 

——その先生との出会いを知りたいです。

三上さん:最初は、先生の個展にお邪魔して「工房を見せてください」ってお願いしました。すごく良くしてくださる先生なんですよ。先生の工房で、イチから金工について教えてくださいました。

 

——本格的に金工をやってみてどうでした?

三上さん:おもしろかったですね。実際に金工作品を仕事にしてきた方から直接教えてもらえるってことがすごくリアルっていうか、学校の授業とは違って、ひとつひとつが身になるんですよね。ありがたいなって思う気持ちと、よしやるぞっていう気持ちが湧いてきて。いよいよ自分で作ったものを展示会に出せるとなったときは、すごく嬉しかったです。

 

「手づくりが商売になる」作家の姿に魅了される。

——アルバイトをしながらの作家生活、大変だったと思います。どんなふうに過ごしていましたか?

三上さん:自宅でスケッチを描いたり、自分がどういった作品を作りたいのかじっくり考えてみたりしました。お金がないから、道具も自分で作るんです。だからそれにも時間がかかっちゃうんですよね(苦笑)。作品づくりへの熱量はずっと持っています。

 

——その熱量はどこからくるんでしょう?

三上さん:作家さんがすごくカッコよく見えるんです。生み出す作品も、作業する様子もカッコいい。世の中には便利なものも大量生産できるものも溢れているのに、そんな中で「手づくりが商売になっている」って、本当にすごいですよね。

 

 

——三上さんの作品について教えてください。どんなものを作っているんですか?

三上さん:お皿、フォーク、スプーンなどのカトラリーだとか、花瓶や酒器も作ります。最近はドリップポットも作りました。オーダーメイドも承っているので、ご相談に応じていろいろ対応しています。

 

——素材の金属というのは?

三上さん:主に使うのは銅と真鍮(しんちゅう)です。アルミと銀も使いますね。一枚の鉄板から形にするんですよ。金属に道具をあてて、コツコツ打っていく作り方です。

 

——金属製品の特長はありますか?

三上さん:熱伝導率が高いので、冷たいものをより美味しく感じられると思いますよ。コップだったら、口当たりが良いと感じてもらえると思います。

 

自分と同じ若い世代に響く作品づくりをしたい。

——作品はどこで販売しているんですか?

三上さん:展示会やマルシェ、新発田市の「喫茶デンデン」さんなどいくつかのお店で委託販売をしています。

 

——作品づくりにはどんな思いを込めているんでしょう?

三上さん:金属工芸に関心がないであろう、自分と同じ年齢層に響く作品を生み出したいなと思っています。若い世代で美術に興味がある方って少ないじゃないですか。だから価格的にも手に取りやすい作品を増やしていけたらいいなと思っているんです。デザインもキャッチーさを意識していて、若い人にも伝わりやすいようにドット柄を取り入れたりしています。

 

 

——三上さんならではのアイディアですね。

三上さん:そう思っていても売るノウハウがまだまだ未熟で、正直どうしたらいいんだろうと悩んでいます。作ることはできても、どうやって販売したらいいのか手探り状態。去年、自分の工房を設けて、最初の頃は「やるぞ、やるぞ」ってめちゃくちゃ気合いが入っていたのに、いざ作品の販売をはじめたら、その難しさが分かってきて。いつ心が折れちゃうのか分からないくらいです。同級生と話していると「就職しちゃった方が楽なのかな」って迷う気持ちもあるんです。

 

——他の作家さんの取材でも、「軌道に乗るまでは試行錯誤した」というお話をよく聞きましたよ。

三上さん:僕の先生はキャリアも実績もあるから、作品をデパートで扱ってもらっているし、値段が高くてもちゃんと評価されています。僕みたいな若手はまだまだ知名度も技量も足りなくて。作るのに手間がかかるから、「手に取ってもらいやすくしたい」と思っていても、作品はどうしてもそれなりの金額になっちゃいます。作品を買っていただくためにどうしたらいいのかを考えるのが今のいちばんの課題です。

 

——この記事が三上さんの力になったら嬉しいですね。

三上さん:ありがとうございます(笑)。目下、これでちゃんと生活ができるようになるのが目標です。若い世代が金属工芸を知るきっかけとなるような作品が作れるようになりたいな。

 

 

 

金工作家 三上洸希

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