関川村の女川沿いに小さな神社があります。よく見ると鳥居の横には大きなうさぎ形の植木。お社の柱の下にはうさぎのマスコット。屋根の上にはうさぎの紋章。賽銭箱の奥には金に輝くうさぎの石像…。うさぎだらけのこの神社、その名も「光兎神社(こうさぎじんじゃ)」といって、うさぎが描かれた御朱印で人気のある神社なのです。なぜ、こんなにうさぎだらけなのか。そのわけを宮司の長さんにお聞きしました。
光兎神社
長眞砂人 Masahito Chou
1956年岩船郡関川村生まれ。22歳から58歳まで新潟縣護国神社に勤務。父が亡くなったのを機に実家である光兎神社の宮司を継ぐ。若い頃はスキー、スキューバダイビング、ジェットスキーなどをアクティブに楽しんでいた。最近は神社の職務で多忙な日々を過ごしている。
——今日はよろしくお願いします。いろんな所にうさぎがいるんですが、光兎神社と何か関係があるんでしょうか?
長さん:この神社には「光兎大神(こうさぎおおかみ)」と「月読尊(つきよみのみこと)」をお祀りしています。昔の人たちは1日の前半は太陽神「天照大神(あまてらすおおみかみ)」が治め、後半は月神「月読尊」が治めると信じていたんですね。「月にはうさぎが住んでいる」などといわれていたように、うさぎは月の使者として考えられていたんです。だから「光兎大神」と「月読尊」をお祭りしている光兎神社では、うさぎを神の使いとしているんですよ。
——ちょっとめずらしいですよね。うさぎを目当てに訪れる観光客も多いんじゃないですか?
長さん:御朱印は年間3,000枚くらい書いてるから、それ以上の人が訪れているんじゃないでしょうかねぇ。そのうちの900人くらいは県外の人。それこそ、北海道から沖縄まで全国から来てますし、台湾や上海など海外の人も来ました。
——関川村の観光にも大きく貢献していることになりそうですね。
長さん:遠くから光兎神社に来た参拝者が、関川村で食事したり、温泉につかったり、お土産を買って帰ってくれたらいいですよね。そのためにも、遠くから来た参拝者と話す際には関川村にあるお店や宿などを紹介させてもらってるんです。最近では神社とのコラボメニューを提供してくれるお店もあります。たとえば「古民家カフェ 元麹屋(もとこうじや)」では、うさぎをかたどったライスにカレーがかかっている「光兎カレー」を提供しています。地元あってこその神社ですから、関川村を盛り上げるお手伝いができるのはうれしいですね。
——神社のあちこちにうさぎの姿を見ることができますね。
長さん:そうですね。屋根の唐破風(からはぶ)、梁、灯篭、賽銭箱…いろいろ探してみるのも楽しいんじゃないでしょうか。鳥居の横にある、うさぎの形をした植木は私が作ったんですよ。玉椿の枝葉が伸びきってボサボサになったので、何年もかけてうさぎの形に整えたんです。今では撮影スポットになっています(笑)。
——あの植木は目立ちますよね(笑)。目立つといえば、お社の中のうさぎの石像もかなりのインパクトですが。
長さん:あれは「金箔兎神像(きんぱくうさぎしんぞう)」といいます。平成23年に卯年を記念して光兎神社のシンボル・うさぎの石像を建立することになったんです。その際、「光兎神社」という名前でもあるし、兎を光り輝かせるような方法はないものかと考えました。それで思いついたのが、参拝者に金箔を貼ってお参りしていただくことでした。令和5年の卯年までには金色に光り輝く兎になっていてほしいですね。
——金箔兎神像には、どんな方法で金箔を貼るんですか?
長さん:石像の金箔を貼りたい部分に霧吹きで水を吹きかけ、軽く押しつけながら貼った後に紙をはがすんです。ただ、きれいに貼るためにはちょっとしたコツがあります。金箔を石像に貼った後2〜3分待ち、馴染んでからゆっくりはがすんです。そうしないと金箔がしっかり石像に貼りつかず、はがした紙に金箔が残っちゃうんですよ。そんなときは「神様から幸せのおすそ分け」ということで、残った金箔をお持ち帰りいただいてます。
——あわてちゃダメなんですね。うさぎのお守りもたくさんありますね。
長さん:光兎神社はうさぎ目当ての参拝者が多いですからね。ちょっと変わったものでは、暗いところで光る蓄光性のお守りがあります。前回の卯年に業者さんからご提案いただきまして、かわいいので採用させてもらいました。お守りだけじゃなくて、うさぎのおみくじもありますよ。うさぎの人形の中におみくじが入っていて、人形はそのまま縁起物として飾ることができます。
——そもそも光兎神社はどんな神社なんでしょうか?
長さん:貞観3年、天台宗の慈覚大師によって光兎山が開峰され、光兎山の頂上に奥宮を祭って「光兎大権現」として長く信仰されてきました。こちらの里宮がいつ頃からあったのか、明治にあった火災ですべて消失してしまったので定かではありません。おそらく奈良時代後期から平安時代初期に掛けて女川地域にはあったのではないかと思われます。明治になって神仏分離令が施行され、「光兎神社」に名を改めて現在に至ります。御神徳としては、家内安全、安産、良縁、商売繁盛、学業成就などがあります。
——古くから信仰されてきた神社なんですね。光兎神社特有の祭事はありますか?
長さん:「月読尊」と「光兎大神」をお祭りしている、月と兎に縁がある神社ですので、毎年十五夜の「十五夜祭」にはいろいろな催事を行います。巫女が福餅をついて、光兎山の霊水を「月読尊」に捧げるほか、「観月の宴」として、ピアノ曲「光兎山賛歌」演奏をはじめとした奉納行事があります。
——光兎神社の御朱印は人気がありますが、いつ頃から始まったんでしょうか?
長さん:平成26年頃、参拝に来た人から「御朱印をいただけませんか?」と頼まれて書いたのが最初でした。「光」っていう字が神社の名前に入っているので、輝く文字で書こうと思い金色を使って「光兎神社」と書きました。当初は神社の名前だけを書いていたんです。そんなある日、御朱印を頼みに来た人から「ここは、うさぎの神社なんですよね。」と聞かれたので、「それじゃあ、うさぎの絵も描いてあげましょうか?」と御朱印の中に金色のうさぎを描いたんです。それ以来、御朱印に金色のうさぎを描き入れるようになり、評判になっていきました。
——御朱印にまつわるご苦労などはありますか?
長さん:たくさん神職のいる大きな神社とちがって、この神社には私一人しかいないものですから、御朱印を書くにも1人あたり10〜15分ほど時間をいただいているんです。混んでいるときには、それなりに時間がかかってしまいます。でも、頼めばすぐに書いてくれると思ってる人もいて、ときどき困ってしまうこともありますね。令和元年が始まった5月1日は朝から本当に大変で、最後の御朱印を書き終えたのが夜の8時頃でした(笑)。中にはあきらめてお帰りになった人もいましたよ。私が不在にしていることもありますので、御朱印希望の場合は事前に電話確認してから来ていただけると助かります。
——御朱印だけじゃなく、オリジナル御朱印帳もかわいいですよね?
長さん:3年前でしたかねぇ。御朱印を頼みに来た人から「御朱印帳はありませんか?」と聞かれたことがあり、オリジナル御朱印帳を作ることになったんです。表紙には光兎神社のイメージである「月とうさぎ」を使い、月の上にいる、神のお使いのうさぎが地球を見ているデザインになっています。おかげさまで御朱印ともども好評ですね。
——今後、神社にうさぎが増える予定はありますか?
長さん:今、神社のとなりにある蔵の修繕をしているんです。参拝者に楽しんでもらえたらいいなと思い、蔵の白壁にはうさぎをあしらってみました。屋根の梁に親うさぎがいて、白壁で遊んでいる3羽の子うさぎを見守っている図になっています。これには子孫繁栄の願いが込められているんですよ。それから次の卯年に向けて、新しいお守りなども用意する予定でいます。ぜひ楽しみにしていてほしいですね。
金色のうさぎが描かれた御朱印をはじめ、金箔を貼って願い事をする「金箔兎神像」など、いたるところにうさぎの姿を見ることができる光兎神社。うさぎ好きにはぜひとも立寄ってほしい神社です。周辺の「古民家カフェ 元麹屋」「光兎の宿 あらかわ荘」など、神社とコラボしているお店や宿もチェック。神社を中心にますます盛り上がる関川村から目が離せません。