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苦しくも、楽しい。それが青春。アパレルブランド「NEOTENY」。

燕市出身の堀さんが手がけるストリートファッションブランド「NEOTENY(ネオテニー)」。新卒で地元企業に就職するもしっくりこず、楽器職人を目指した経験を持つ堀さん。人生うまくいくときもあれば、そうでないときもある。そんな思いを自身のブランドに反映させています。「NEOTENY」立ち上げのきっかけや創設当初から今までの気持ちの変化など、いろいろとお話を聞いてきました。

 

NEOTENY

堀 興介 Kousuke Hori

1986年燕市生まれ。大学卒業後、燕市の企業へ就職。その後楽器職人になるため愛知県の専門学校で学び、卒業後は長野県の楽器工房で働く。2017年に地元に戻り会社勤めをしながら、2021年にストリートブランド「NEOTENY」を立ち上げる。

 

「やりたいこと」を追い求め、たどり着いたブランド創設。

――まずは、堀さんのことを教えてください。これまで、どんなことをされていたんでしょう?

堀さん:大学を卒業して、地元の会社に就職しました。でも「自分のやりたいことって何なのかな」と考えるようになって。「社会人生活って難しい……」と悩んでいました。

 

――若い頃って、そういうジレンマがあるものですよね。

堀さん:その頃は「仕事選びに失敗したな」としか思えなかったです。会社を1年半で退職して、「根性がない」「このままじゃダメだ」と自分を責めてばかりでした。でも「やりたいことを仕事にしよう」とお金を貯めて、楽器職人になるために音楽系の専門学校に入り直したんです。

 

――ほぉ、そういう学校があるんですか。

堀さん:でも卒業してからが大変でした。働き口がほとんどなくて。やっと見つけた長野のギター工房で働いたんですが、正直、待遇面とか職場環境とかはかなり厳しかったです。職人が作ったギターって、けっこうな値段がするんですよね。到底、自分たちのような若い世代が買えるものではなくて。いろんな現実を知って「これじゃ、やっていけない」と思っていた頃、母が他界したんです。寂しい気持ちと「親のそばにいたい」って気持ちが強くなって、地元に戻ることを決めました。

 

――久しぶりの燕市暮らしは、どうでしたか?

堀さん:安心しました。やっぱり僕は、地元が好きなんだなって改めて感じました。

 

 

――アパレルブランドを立ち上げたのには、何かきっかけがあったんでしょうか?

堀さん:働きながら、タブレットで絵を描くようになって。ストリートファッションが好きだったので、自然と「自分の服をデザインしてみたい」と思うようになったんです。「着たいと思う服を作って、それが売れればいいな」って、ちょっと浅はかですけど、最初はそんな気持ちでスタートしました。

 

――実際ブランドを運営するとなると、大変なこともあったのでは?

堀さん:アパレルの仕事はしたことないですし、すべてが未経験だったので、「どうするんだ」ってことばかりでした。価格も梱包の仕方もぜんぶ自分で決めなくちゃいけないですからね。

 

――もちろん、デザインも堀さんがされているんですよね。

堀さん:僕がすべてデザインしています。でも、「よし、今だ」ってときじゃないと作業が進まないんですよ。インスピレーションが湧いても、できあがりがピンとこないこともあるし。デザインを生む苦しみというか、辛さというか、とにかく難しいなって感じています。

 

子どもの気持ちを持ち続け、青春を生きる。

――アパレル名「NEOTENY」には、どんなメッセージが込められているんでしょう?

堀さん:「NEOTENY」は、幼形成熟という意味の言葉です。生物学の専門用語だと思うんですが、解釈としては「幼い部分を持ったまま大人になる現象」のことです。この言葉を本で知って、「すごくいいな」「僕もそういうふう大人になりたい」と思いました。「子どもの頃の気持ちをずっと持っていたいね」ってメッセージを込めています。

 

――「do it youth」のロゴが映えています。

堀さん:ものづくりの町らしく、「DIY」とかけています(笑)

 

 

――あら、ほんとうだ。

堀さん:シンプルな意味では「青春しよう」。若い人だけじゃなくて、僕らみたいな年代でも「青春できる」って、僕自身、そんなふうに生きたくて。一生懸命やっていても、うまくいくこと、いかないことがある。僕は、それが青春なんじゃないかなって思うんです。なんていうか、すぐに「バズる」とかって考えちゃうんだけど、必死に向き合うほどに難しさを知る毎日で。それでも、情熱を持ち続けていたいんです。

 

――なんだか、ここまで話を聞いて堀さんのこれまでとつながった気がします。社会に出て「失敗しちゃった」と感じたり、期待を膨らませて就いた仕事が思い通りにいかなかったりということでしたから。

堀さん:もう、そればっかり(苦笑)。でも今思うと、あの頃が間違いなく青春でした。失敗と思っていたけど、そうではなくて。いろんな気持ちになったから「わかる」し、ブランドとして表現できている部分もあるんです。だからやっぱり意味のあることだったと、今、ものすごくそう思えます。

 

ブランドの成長は、自身の成長にあり。

――ブランドの立ち上げ当初と今とで、気持ちの変化はありますか?

堀さん:最初は軽い気持ちでしたけど、今となっては自分のライフワークというか、「NEOTENY」に携わっていないと自分を保てないかもしれないと思うくらいです。買ってくださる方には大きな感謝がありますし、自分の成長を感じることもできます。おもしろいんですけど、やっぱり難しくて、辛い。それを踏まえて、続けていきたいなって思います。

 

――その辛さっていうのは、生みの苦しみ?

堀さん:それもありますし、頑張ってリリースしても世の中で評価されるわけじゃないじゃないですか。スルーされることもあるわけで。それは覚悟の上なんですけど、どうしても「自分の実力がないからだ」とか「見せ方が良くないんだ」とかって思うわけです。

 

――つまり、労力=反響とはならないときもあるんですね。

堀さん:リアルなところは、そうです。ブランドが大きくなるためには、僕自身が成長しなくちゃいけないんですよね。デザインの力もそうだし、人間として成長しないと、魅力的なブランドには絶対ならないと思っています。

 

 

――「NEOTENY」には、いろんなアイテムがあると思うんですが、主力はなんでしょうか?

堀さん:メインはTシャツです。最近、燕市のものづくりをモチーフに、大きなネジをデザインしたスウェットを作りました。けっこう評判が良いんですよ。

 

――デザインに地元の要素を入れるのも、堀さん流?

堀さん:「アイディアがあれば」っていうくらいです。。燕市のグッズみたいな受け取り方は、されたくないです。ちなみに「ANTI LOCAL LOCAL CLUB」ってロゴがあるんですけどね。これは地元アンチとか、地方アンチって意味じゃないです。それを言い訳にしたり、マイナスに捉えたりすることへの「アンチ」です。

 

――大事なことを聞けてよかったです。あと気になるのは、どこで販売しているのかなってことなんですが。

堀さん:オンラインショップが主体ではありますが、不定期でイベントに出店したり、ポップアップストアを主催したりしているので、そこで実物を見ていただくことができます。

 

地元とストリートカルチャーが、つながる。

――お洋服を購入された方とのつながりは、あるものですか?

堀さん:ブランドを立ち上げた翌年に、東京のイベントに出たことがあって。初日、まったく売れなかったんです。帰り道に「もう、やめちゃおうかな」ってくらいへこみました。でも翌日、商品を目に留めてくれた人が「一度通り過ぎたんだけど、どうしても気になって寄ってみた」と言ってくれたんです。ものすごく嬉しくて、今でもよく覚えています。その方は、それからずっと応援してくれています。

 

――折れそうな心を救ってくれた人ですね。

堀さん:あれは大きかったですね。もし、素通りされたままだったら、「NEOTENY」を続けていなかったと思います。

 

――さて、今後はどんな展開を目指していますか?

堀さん:地元での認知度をもっと高めたいですね。今までは、「東京でやってやるぞ」って気持ちもあったんです。「それでないと認められたことにならない」みたいな。でもやっぱり燕市って、ものづくりが栄えていたり独自のラーメン文化があったりとすごく魅力的な町だから、まずは燕市の皆さんに自分のブランドを知ってもらいたいって気持ちに変わりました。

 

 

――どうして考えに変化があったんでしょう?

堀さん:今年の年初に、特別価格でスウェットパンツを販売したんです。でも、恥ずかしながら1本も売れなくて。何か根本的に考えを変えないといけないと痛感しました。それにストリートカルチャーって「地元を大切にする文化」があるものなので。まずは地元。そこからブランドが大きくなっていけばいいなと思っています。

 

――お勤めもされているから、ブランドが成り立たないと生活できないっていう状況ではないと思うんです。それでも、そこまで力を注げるのはなぜでしょう?

堀さん:将来、独立したいって目標があるので。一度きりの人生、自分のホームとなる仕事を持って、そこに仲間が集まってくれたら楽しいでしょうね。自分が経験してきたことをもっとたくさんの人に共有して、もっともっとおもしろい展開を作りたいです。

 

 

 

NEOTENY

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