新潟県内の人気紅葉スポットのひとつに三条市の下田郷があります。200メートルもの高さのある岸壁が紅葉に染まる「八木ヶ鼻」、山々の紅葉が鏡のような湖面に美しく映る「笠堀(かさぼり)ダム」など、里の豊かな自然が赤や黄色に彩られます。今回はそんな下田郷にある「道の駅 漢学の里しただ」を訪ね、駅長の中野さんに道の駅を運営するご苦労や喜びを聞いてきました。
道の駅 漢学の里しただ
中野 貴史 Takashi Nakano
1986年三条市生まれ。農家に生まれ、三条市内の自動車部品製造会社に勤める。2013年のリニューアルオープンより「道の駅 漢学の里しただ」のスタッフとして働き、昨年駅長に就任。趣味は登山やキャンプで、狩猟免許を持つハンターでもある。
——「道の駅 漢学の里しただ」というのは、どういう施設なんですか?
中野さん:「諸橋轍治(もろはしてつじ)記念館」をはじめ「農家レストラン 庭月庵悟空(ていげつあんごくう)」「農産物直売所 彩遊記(さいゆうき)」などが集まった、下田エリアの文化観光拠点です。
——「漢学の里」という名前には、どういう意味があるんでしょうか。
中野さん:「大漢和辞典」を編集した、漢学者で文学博士の諸橋轍治先生の生家があったことから記念館が建てられて、このあたりを「漢学の里」と呼ぶようになったんです。
——じゃあ、農家レストランの「悟空」とか農産物直販所の「彩遊記」というネーミングにも、何か意味があるんですか?
中野さん:諸橋先生が漢学に興味を持つきっかけになったのが、幼い頃に読み聞かせられていた「西遊記」だったことからつけられた名前です。「農産物直販所 彩遊記」は一般公募で寄せられた候補のなかから選ばれたものなんです。「諸橋轍治記念館」に訪れた方や働いている人たちが食事できる施設として「農家レストラン 庭月庵悟空」ができて、その後に観光情報館として「道の駅 漢学の里しただ」ができました。「農産物直販所 彩遊記」ができたのは2013年4月のリニューアルオープンのときで、僕もその準備期間から働きはじめたんです。
——中野さんはそれまでどんな仕事をされていたんですか?
中野さん:僕は米農家の生まれなんですけど、三条市内でホンダ車のシートを作っている会社に勤めていたんです。
——サラリーマンをやりながら兼業農家をやっていたんですね。
中野さん:というよりは、仕事が休みの日に田んぼをちょっと手伝っているくらいでした。冬の間は米を作ることができないし、農業だけで生活していくのは難しいだろうと思っていたんです。でも、その考えが大きく変わった出来事があったんですよ。
——それはどんな出来事だったんですか?
中野さん:転勤で訪れていた群馬で、12月なのにトラクターを使って農作業をしている光景を見たんです。群馬では1年中農業ができることを知って、やり方次第では農業だけでも生活することができるんじゃないかと思いました。
——やり方、というと?
中野さん:いろいろ調べてみて、農産物を加工することで付加価値を生み出す「6次化産業」のことを知ったんです。そこで新潟に帰ってからすぐ、実家の田んぼで採れた米を使った米粉と、仲間から仕入れた桃を使ったジャムでワッフルを作って「第1回 三条マルシェ」で販売してみました。そうしたら40人も行列ができて大繁盛したんです。
——じゃあ、大成功ですね。
中野さん:そこでもっと地元と関わりたいと思うようになって、三条市役所へ相談に行ったんです。そしたら、農産物加工場を併設した道の駅をリニューアルオープンする予定があることを教えていただいて、事務局員として準備に関わらせていただくことになりました。
——「農産物直売所 彩遊記」をはじめるにあたって、大変だったことはありましたか?
中野さん:商品がまったくないところからはじめたので、まずは地元の農家さんに呼びかけて農産物を集めました。10年かけてようやく商品が安定するようになりましたね。
——今日もぎっしりと農産物が並んでいますもんね。オススメを教えてもらえますか?
中野さん:春はなんといっても山菜ですね。コシアブラやタラノメといった人気山菜を求めるお客様で、オープン前から長い行列ができます。どこよりも低価格で提供しているせいか、飲食店の料理人も買いに来るんです。夏は桃がオススメなんですけど、いちばん人気があるのは盆花なんです。ボリュームがある割に低価格なので予約が殺到します。
——意外なものが人気商品なんですね(笑)。今の時期はどんな農産物が人気ですか?
中野さん:なめこやさつまいもですね。特に下田産のさつまいもは「越の紅(こしのくれない)」というブランドになっているほど品質が良くて美味しいんです。
——「彩遊記」の名前が入った加工品も並んでいますね。もしかして、これはオリジナル商品ですか?
中野さん:併設された加工所で作っているオリジナル商品です。最初は地元名物「ごんぼっぱ笹だんご」の製造からはじめました。
——「ごんぼっぱ笹だんご」って、一般的な笹だんごとはどこか違うんですか?
中野さん:笹だんごにはヨモギの葉を使うのが一般的なんですけど、下田地域では「ごんぼっぱ」と呼ばれる山菜を使うんです。クセがないので、ヨモギの香りが苦手な人でも食べやすい笹だんごなんですよ。
——まさにソウルフードですね。
中野さん:でも最初の数年はうまくいかず大赤字が続いたんです。いろいろな問題点を改善して、ようやく黒字に転換することができました。笹だんごの他にも、地元で飼育された鶏の卵で作るプリンとか、地元の野菜や山菜を使った漬物とか、作れるものがどんどん増えていったんです。
——農産物だけじゃなく、加工品もどんどん充実していったわけですね。
中野さん:しかも笹だんごを製造するために導入した機械で、いろいろなお菓子を作れることがわかったんですよ。
——どんなお菓子が作れるんですか?
中野さん:饅頭を作ることができるので、地元名産品のさつまいもを餡に使った「さつまいもまんじゅう」を作ったところ、人気が出てベストセラー商品になったんです。加工所を持っていない道の駅も多いので、そうしたところからも依頼を受けて、いろいろな饅頭を作って納めているんですよ。
——よその道の駅の商品まで作っているんですね(笑)。話を少し戻しますけど、他にもオススメのオリジナル商品があったら教えてください。
中野さん:「さつまいもまんじゅう」が人気だったので、さつまいもを使ったソフトクリームも作ってみたんですけど、さつまいもの味が主張しすぎて上手くいかなかったんですよ。そこで下田産のブルーベリーで作ってみたら美味しくできたので、ソフトクリームのなかではイチオシ商品になっています。
——オリジナル商品は人を呼ぶきっかけになるんじゃないですか?
中野さん:そうですね。国道や大きな街道沿いにある道の駅とは違って、ここは立地があんまり良くないんですよ。だから通りがかりに立ち寄るというよりも、ここを目指して来ていただかなければならないんです。そのためにも、ここでしか買えないような商品を用意する必要があるんですよね。
——大通りからもちょっと入った場所ですもんね。
中野さん:多くの方から足を運んでもらうために、イベントもいろいろと企画しています。4月の「周年祭」にはじまって、6月に「ごんぼっぱ笹だんごまつり」、11月には「米フェス」「鮭まつり」「新そばまつり」があります。今年の8月には初めて「夏まつり」を開催して、メダカすくいや盆踊りをやりました。明後日は「米フェス」があるので、今はその準備に追われているところなんです(笑)
——そんな忙しい時期に取材を受けていただいて、すみませんでした(笑)
中野さん:全然大丈夫です(笑)。商品開発にしてもイベントにしても、とりあえず思いついたら何でもやってみるようにしています。それでお客様の反応を確かめてみてダメならやめるし、いけそうなら改善して続けるんです。苦労した分、お客様の反応が良かったときは嬉しいですね。
——では、最後に中野さんの夢を教えてください。
中野さん:いつか実家の農業を受け継いで、ここでの経験を生かした6次化産業をはじめてみたいんです。自分で栽培したさつまいもを使ったスイーツを作るとか、自家栽培した蕎麦で手打ち蕎麦屋をはじめるとか、自家栽培米を使ったおにぎり屋を開くとか……。自分で作った農産物を加工することで付加価値をつけて、エンドユーザーまでお届けしていきたいと思っています。
農産物直売所 彩遊記
三条市庭月451-1
0256-47-2230
4月-11月9:00-16:00/12月-3月10:00-15:00
1月-2月の毎週月曜(祝日の場合は翌日)