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中小企業コンサルタントが作った駄菓子屋さん「三条ベース」。

三条市に「三条ベース」という名の、秘密基地みたいな駄菓子屋さんがあります。駄菓子を買い食いする他に、ゲーム台や卓球台で遊ぶこともできれば、座敷で漫画を読んだり、チョークで床に落書きしたりして自由に過ごすことができる場所なんです。「子どもたちからしたら駄菓子屋のおっちゃんですよ」と笑うオーナーの高橋さんに、「三条ベース」の目的を聞いてきました。

 

 

NANOBRAND合同会社

高橋 憲示 Kenji Takahashi

1971年三条市生まれ。東京にあるギタークラフトマンの専門学校を卒業後、アルバイトをしながらバンド活動を続ける。23歳で新潟に戻りサッシ会社、印刷会社、工具メーカーで働く。2011年に「ブランディングオフィス AND-ON(アンドオン)」を設立し、2019年には「NANOBRAND(ナノブランド)合同会社」を立ち上げ「三条ベース」をはじめる。「RtoR(アール トゥ アール)」というバンドでベースを担当している。

 

頑張っている小さな会社の「軍師」。

——事務所の壁にずいぶんたくさんのギターが掛けてありますね。

高橋さん:高校生のときからギターをやっていて、ギタリストを志したこともあるんですよ。ちなみにギターを掛けている金具は、僕が商品化に関わって大ヒットしたものなんです。

 

 

——へ〜、それはすごい! 昔はバンドを組んだりしていたんですか?

高橋さん:東京にあるギタークラフトマンの専門学校へ通いながら、バンド活動を続けました。学校を卒業してからは、68種類のアルバイトをこなしながらバンド活動を続けていましたね。でもそのうち父と約束していた“上京の期限”を迎えてしまいまして、ハイエースに乗ってやってきた父に新潟へ強制送還されてしまいました。

 

——あらら……それは残念でしたね。

高橋さん:新潟へ帰ってからは、父の経営するサッシ会社を手伝っていました。ギタリストへの未練もあって、新潟に帰っても2年間は髪を切らずに伸ばし続けていたんですよ(笑)。だから働ける職場も限られていたんですよね。ただ、父が他界してしまい、叔父の印刷会社で働くことになりまして。そのときにようやく髪を切りました。

 

——ギタリストへの夢にけじめをつけたんですね。

高橋さん:はい。その後、結婚して子どもがふたり生まれて、家族愛に目覚めて、「もっと稼がんば!」と思いはじめたんです。そこで工具メーカーに転職しました。そこの営業部で新商品や市場の開発を任せられるようになりました。それが今やっている仕事の原点になっているのかもしれません。

 

 

——例えば、どんなふうに?

高橋さん:いろいろなコンサルタントの先生と出会って、「にいがた産業創造機構」とコラボしたりする機会も多かったので、たくさんのことを学ばせてもらったんですよ。ものづくりやブランディングについての知識を吸収できたおかげで、今やっているコンサルタントの仕事に生かすことができています。

 

——今はコンサルタントとして独立を?

高橋さん:はい。2011年に「ブランディングオフィス AND-ON」を起業して、三条市の中小企業に特化したコンサルティング事業をはじめて、2019年には「NANOBRAND合同会社」を立ち上げました。社名は僕の著書「小人の国のナノブランド」という本のタイトルが由来になっていて、「スモールブランド」どころじゃない小さな会社のブランドということで「ナノブランド」とつけました。

 

——主にどんな仕事をしているんですか?

高橋さん:様々な中小企業からの相談にのる仕事です。その半分近くは「売上を上げたい」っていう販売促進の相談になります。その相談に対して現状での問題点を見つけ出し、分析してアドバイスをするんです。自分のことってなかなか見えにくいものなので、第三者が客観的な目線で見ると見つけられることが多いんですよ。

 

——なるほどー。そんなふうに小さな民間企業を助ける仕事なんですね。

高橋さん:がんばっている小さな会社の「軍師」みたいな仕事ですね(笑)。なかにはひとりで頑張っている個人事業主もいます。そうした人たちを支えながら応援していきたいと思っているんです。

 

子ども達の「居場所」は、大人の縮図。

——それにしても、コンサルタントの高橋さんがどうして駄菓子屋を?

高橋さん:以前事務所があったビルの老朽化が著しかったので、この建物に引っ越してきたんです。ここは元はタンス金具の工場だったらしいんですけど、僕が買ったときは貸倉庫として使われていました。2階を事務所にしたものの、広すぎてやたらとスペースが余るんですよ(笑)。僕は前々から駄菓子屋をやってみたいと思っていたので、このスペースを使って駄菓子屋というか……子どもの集まれる秘密基地を作ろうと思ったんです。

 

 

——それが「三条ベース」……。でも、子どもの集まれる場所を作ろうと思ったのはどうしてなんですか?

高橋さん:昔の子どもって、毎日遊びに行く場所があったじゃないですか。でも、今の子どもってそういう場所がないんですよ。だから子どもはもちろん、大人も集まれる「居場所」を作って、街の活性化につなげたいと思ったんです。

 

——なるほど。オープンしてみて子どもたちの反応は?

高橋さん:オープンした日に3人の小学生が覗きに来たんですよ。「ここは何のお店なんですか?」っていうから「駄菓子屋だよ」って教えたら、翌日に30人の小学生がやってきました(笑)。まるでミツバチみたいだなと思いましたけど、どうやら学校のLINEで情報が回ったみたいなんですね。

 

——たしかにミツバチっぽい(笑)。今では子どもたちの「居場所」として賑わっているようですね。

高橋さん:おかげさまで。ときどき行政の方が視察に来て「どうしてこんなに子どもが集まるんですか?」って聞かれることがあるんです。そりゃあコミュニティセンターでは、子どもは来ないだろうなって思うんですよ。大人って自分たちの思い込みだけで、子ども達が喜ぶものを与えているつもりなんですけど、じつは子ども達のニーズをまったく把握していないことが多いんじゃないでしょうか。

 

 

——じゃあ、子ども達はどんな場所を求めていると思いますか?

高橋さん:大人が考えるみたいに、綺麗な場所じゃなくっていいんですよ。自分たちがわくわくできて、いきいきと自由に過ごせる場所を求めているんだと思います。僕たちが子どもだった頃も、そうだったじゃないですか。

 

——時代が変わっても、子どもの本質は変わらないと?

高橋さん:変わらないですね。遊びのツールが変わっても、根本は全く変わってないと思います。あと子どもたちを見ていると、社会のことがよくわかるんです。

 

——それはどういうことですか?

高橋さん:例えば、子どもを通して貧富格差を感じることもあるし、トレンドの移り変わりを知ることができます。現代はトレンドの移り変わりがとても早いんですよ。あと駄菓子屋のカウンターに並んでいる椅子は、権力を持った常連達の定位置なんです(笑)。小学6年生の歴代番長クラスが陣取りますね。スナックでもママの前って常連の定位置じゃないですか。まるで大人の縮図を見ているみたいですよ(笑)

 

地域問題にも目を向けた取り組み。

——2階に古着ショップみたいなスペースがありますよね?

高橋さん:あれは「ZUPPE(ズッペ)」という物々交換スペースです。使わないものを持ってきてもらう代わりに、欲しいものを持っていってもらうシステムになっています。これをはじめたことで地域の大人たちも集まってくれるようになったし、少しでも貧富格差が埋まってくれたらと思っています。「ずっぺ」っていうのは三条の方言で「おたがいさま」や「差し引きゼロ」といった意味があるんです。

 

 

——駄菓子屋だけじゃなくて、いろんなことをやっているんですね。今後も新しいことに挑戦しようと思っているんでしょうか?

高橋さん:これからは福祉作業所の応援をしていこうと思っていて、7月から福祉作業所の商品を集めた「福祉の百貨店」をはじめようと思っています。あと三条ベースや西堀ローサのチャレンジショップで、無人販売の服屋さんを同時オープンする予定です。こちらは服の仕分けを福祉作業所に依頼して、就労支援のお手伝いができたらいいなと思っています。

 

 

地元の中小企業が抱える問題はもちろん、地域問題にも目を向ける高橋さん。「三条ベース」が地元の人たちにとって「心の秘密基地」になったらいいですね。

 

 

三条ベース

三条市田島1-17-9

0256-64-8279

11:00-18:00

無休(ZUPPEは火水曜休)

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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