新津屋小路と東堀通の交差点に古くから建っている「株式会社篠原商店」。美味しいダシの取れる乾物から、ご飯のお供や酒の肴まで、様々な海産物の加工品を揃えた創業150年の老舗です。2年前のリニューアルに伴い店舗内にカフェがオープンし、海産物でダシを取ったスープや、ちりめんじゃこの乗ったチーズトーストなどを提供しています。今回は「株式会社篠原商店」の女将さんに海産加工品のこだわりや、なぜカフェを始めたのかお話を聞いてきました。
株式会社篠原商店
篠原 麻恵 Asae Shinohara
1957年新潟市中央区生まれ。父の転勤で、四国をはじめ、兵庫、岡山を転々とし、23歳の時に新潟に帰ってきた。1985年に株式会社篠原商店に嫁入りし女将となる。趣味はゴルフと魚介系の美味しい店を食べ歩きすること。
——今日はお忙しいところすみません。よろしくお願いします。こちらのお店はいつ頃から営業してるんですか?
篠原さん:創業150年位経つんでしょうかね。旧斎藤家別邸に江戸末期の新潟市の古い地図が展示されていて、そこに「四十物屋 篠原」という名前で載ってるんです。その地図を見ると、当時は今の場所ではなく、東堀を挟んで向かい側にお店があったようです。
——「四十物屋」って何のことですか?
篠原さん:「四十物屋」っていうのは「あいものや」と読むんです。調べるてみると、塩で処理した干物とか海産物の商売らしいので、だいたい今と同じような商売だったんじゃないかと思います。昭和の初め頃は、リアカーを引っ張って松波町あたりまで御用聞きに行っていたようです。あのあたりは昔から高級住宅地だったんですね。
——江戸時代から海産加工品のお店をやっていたんですね。材料になる海産物はどんな基準で選んでいるんですか?
篠原さん:産地や旬を目安に選んでいます。とにかくいい素材を使って製品づくりをしているので、「篠原商店の品物は値段が高いけど、その分品質は確か」って言われるよう心がけてるんですよ。例えば昆布にも1等〜3等まで等級があって、うちは1等の昆布だけを使ってるんです。でも、人気の高い羅臼昆布は最近品薄になっていて、2等品しか手に入らないんです。イカも小さなものしか手に入らなくなってしまいました。だからスルメの一夜干しも今は作れないんですよ。自然相手の商売なので、漁の豊作不作に左右されますね。
——どんなお客さんが買いに来るんですか?
篠原さん:私が嫁に来たばかりの頃は古町にも活気があって、料理店も元気だったんです。だからお客さんも料理店が多かったんですよ。でも最近は一般のお客さんが多いですね。お中元、お歳暮の季節には贈り物用に買っていく人が多いし、お正月が近づくとおせち料理とかの材料を買っていく人が多くなります。
——てっきり料理店のお客さんが多いと思ってました。どんな品物が人気なんでしょうか。
篠原さん:焼漬が人気ですね。以前は夏場に売れていたんです。暑いから火を使わずに食べれるところが人気だったんでしょうね。でも、今では季節を問わずに年中売れている人気商品です。新潟の郷土料理でもありますし、買って帰ってすぐに食べれるっていうお手軽感が人気の秘密なんじゃないでしょうか。
——ちなみに女将さんのオススメはどの商品ですか?
篠原さん:一夜干しには特に自信がありますね。現在はカレイ、アジ、小鯛の3種類あって、どれも旬の時期に獲れたものを独自の味付けで作ってるんです。以前はスルメとか他にもいろいろな種類がありましたが、近頃は海がちょっとおかしくなっていて、魚が獲れなくなってるんですよ。スルメも小さいものばかりで使えないんですよね。
——自然環境に異変が起こってるんでしょうか。ちょっと怖いですね…。さて、気を取り直して、お店の商品についてオススメの使い方があったら教えてください。
篠原さん:うちの店の貝柱はとっても品質がいいんです。ダシを取るときは、前の晩から一晩水につけておくだけで、とってもいいダシが出ます。味付けなんてほとんどいらないくらいなんですよ。それから、お正月料理とかによく使う黒豆は、本場の丹波産を扱っています。黒豆は圧力釜を使って炊くとすごく美味しくなるんです。ぜひ試してみてほしいですね。その他にも、商品のレシピをお教えしてますので、お気軽に相談ください。
——ところでお店の中にカフェがありますよね、いつからやってるんですか?
篠原さん:お店も古くなってきたので、2年前にリニューアルしたんです。もともと横に長いお店だったので、右側に空きスペースができてしまって、ずっと倉庫になっていたんです。それではもったいないと思い有効な活用法を検討したんです。うちの店に来る年配のお客さんには、買い物ついでに世間話をしていく人が多かったんです。だったら、寛いでおしゃべりできるスペースを作ったらいいんじゃないかって思って、「篠原カフェ」を作ったんですよ。あと、古町がどんどん寂しくなっていくので、うちの店でも何かできることはないかって考えて、少しでも人の集まる場所を作りたかったんです。カフェを作ったことで年配のお客さんだけじゃなく、若いお客さんも増えましたね。
——お客さんの層が広がったんですね。「篠原カフェ」ではどんなメニューを提供してるんですか?
篠原さん:一押しはランチですね。さっくりしたトーストの上にとろっとしたチーズが乗り、その上に当店自慢のちりめんじゃこがたっぷり掛かっています。しそ、昆布、野沢菜の3種類から日替わりでお出ししています。スープは店で売っている日高昆布、かつお節、煮干し、干ししいたけを水出ししたダシで作る無添加スープで、野菜もたっぷり入ってます。店で売っている商品を材料に使っているので、食べて美味しいと思ってくれた人が買って帰ってくれるんですよ。
——店で売っている商品の良さをお客さんに伝えることもできて一石二鳥ですね。でも、ちりめんじゃこっていうとおにぎりのイメージですよね(笑)
篠原さん: そうですよね。お客さんにもおにぎりはやらないのかとよく聞かれるんです(笑)。ゆくゆくはやってみたいと思ってるんですけど、今はまだなかなか余裕がないんですよね。でも、チーズトーストの上にちりめんじゃこっていうのが話題になってるみたいで、取材とかよく受けるんですよ。
——「Things」もそのひとつですね(笑)
——古町が寂しくなってきているっていうお話しがありましたね。だいぶ変わってきたんでしょうか?
篠原さん:そうですね。私が嫁入りした34年前なんて、人通りも多くてお客さんもひっきりなしでした。次から次へとお客さんが来て、座る暇もないくらい忙しかったんですよ。それから比べれば、今は全く変わってしまいましたね。
——今後、カフェでやってみたいことってありますか?
篠原さん:今まで「篠原カフェ」を使ったミニコンサートやワークショップをやって来たんです。今後もそういった催しをやって、人が集まる場所にしていきたいですね。それから、レンタルスペースとしても気軽に利用してもらいたいと思ってます。そうして古町が活性化することに少しでも協力できたらと思っています。
お客さん達がおしゃべりできる場を作りたいという理由で誕生した「篠原カフェ」。その裏には、さみしくなってきた古町に少しでも人が集まり、活性化につなげたいという思いがありました。今後もいろんなシーンで「篠原カフェ」が利用され、人の集まる場所になってくれたらいいですね。おにぎりメニューの登場も楽しみにしています。