静かな高まりを、新潟の素材で。
「TULIP EN MENSEN」の服づくり。

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2025.11.19

text by Ayaka Honma

亀田縞をはじめ、新潟には伝統的な技術で作られた「生地」がたくさんあります。「TULIP EN MENSEN(チューリップ エン メンセン)」は、新潟の生地を使った洋服やバッグを手掛けるブランド。アイテムひとつひとつのデザインにもこだわっています。今回は万代にある「TULIP EN MENSEN」の旗艦店にお邪魔して、デザイナーの横山さんに、ご自身のことやブランドのこと、いろいろ聞いてきました。

Interview

横山 英也

Yokoyama Hideya(TULIP EN MENSEN)

1991年新潟市生まれ。高校卒業後、文化服装学院に進学しバッグのデザインや制作を学ぶ。卒業後は熱海のアトリエで働き、その後新潟に戻り「TULIP EN MENSEN」を立ち上げる。デザイナーとして活動するかたわら、華道家「横山英洲」としても活動。

お店のショッパーに惹かれて、
ファッションの道へ。

――まずは、横山さんがファッションを好きになったきっかけを教えてください。

横山さん:小学生6年くらいから映画を観たり買い物に行ったりするのに、古町や万代によく行くようになったんです。そのときに古着屋さんやアパレルショップで服を買うこともあって、当時はショッパーを持ち歩く文化みたいなのがあったんです。

 

――ショッパーが欲しくて、そのお店で買い物をする、みたいな。懐かしいです。

横山さん:自分のセンスを伝えられるものとして、ショッパーにすごく魅力を感じて。雑誌よりもショッパーを見て服を買いに行くこともありましたし。そこから、いろんなショップに行くようになって、ファッションというものに興味を持つようになりました。

 

――高校卒業後、文化服装学院に進学したのは?

横山さん:新潟だけでファッションって完結できない気がして。「学ぶなら東京に行くのがいいんだろうな」と思って上京しました。最初はスタイリスト科にいたんですけど、途中でバッグデザイン科に転科して、鞄や帽子、アクセサリーのつくり方を学びました。卒業後は、熱海のファッションブランドでアシスタントとして働きました。

 

――就職先も、結構迷われたんだとか。

横山さん:とにかく、面白い場所で働きたくて。東京で就職先を探したんですけど、自分が「働きたい」と思う場所が全然見つからなかったんです。いろいろ探していく中で、唯一フィットしたのが「Eatable of Many Orders」というブランドでした。実はここ、募集を出してなかったんです。だけど就活の時期に「働きたいです」ってメールして、夏休みにちょっと働かせてもらって、卒業後そのまま潜り込みました(笑)

 

――すごい行動力(笑)。ここで洋服づくりも学んだんですか?

横山さん:ここではバッグの制作のアシスタントをしていて、洋服には関わっていなかったんです。2年目になって、アシスタントの仕事をしながら、社会人向けの服飾の学校に通って、洋服のパターンづくりなどを学びました。その後新潟に帰ってきて、自分のブランドを立ち上げることにしたんです。

 

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新潟の伝統的な素材を使った、
「TULIP EN MENSEN」。

――新潟に戻ってきて、ご自身のブランドである「TULIP EN MENSEN」を立ち上げました。

横山さん:僕の中で、独立するっていうのはすごく自然な流れだったんです。専門学校のときに原宿のギャラリーでインターンをしていて、そこでは20代の新進気鋭のデザイナーさんやアーティストさんがバンバン個展を開いていて。僕の実家も自営業をやっていたし、まずは自分でやってみようかなって思ったんです。

 

――「TULIP EN MENSEN」という名前の由来を教えてください。

横山さん:生花をやっているのもあって、チューリップっていう花がすごくキャッチーなものだったんです。最初は「TULIP」だけでいこうと思ったんですけど、名前で検索したときに見つかりにくいって言われて。チューリップってオランダ原産の花だから、オランダ語でブランド名をつくろうと思ったんです。

 

――「MENSEN」は「人」という意味の言葉なんですね。

横山さん:チューリップの花言葉は「思いやり」、接続詞の「EN」には「縁」という言葉をあてて、最後に「人」っていう意味を持つ「MENSEN」を並べました。この3つの言葉を大切にしたブランドにしたいという思いを込めました。このブランドは、自分だけの力でできていないってことが伝わればいいなと思っています。

 

――その「人」の中には、生地を作られている方も入っていると思います。亀田縞や五泉のニットなど、新潟の伝統的な生地を使っているのには、どんな意図が?

横山さん:僕自身、アーティストとして自分がつくりたいものだけをつくる、っていうスタイルが向いていなくて。しっくりきたのが、伝統的な素材を使って服をつくるっていうことだったんです。伝統的な素材は以前から好きだったし、誰かのためになるっていう感覚が原動力になると思って、地元である新潟の素材を使っています。こう思うようになったのには、きっかけがあって。

 

――どんなきっかけだったんでしょう。

横山さん:新潟に戻ってきたとき、「五泉平」っていう伝統的な素材を使って服をつくりたいと思っていたんですけど、そのときにはもう誰も「五泉平」をつくっていなかったんですよ。無形文化財にもなっていたものが、なくなってしまったのがショックで。そういう伝統的な素材を違う視点から見てもらえるような、取り組みをしていこうと思ったんです。

 

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大切にしているのは、
静かな高揚と、少しの違和感。

――洋服をつくる中で、大事にしていることはありますか?

横山さん:まず、人が見たときに「着てみたい」と思ってもらえるデザインにすることを心がけています。そうじゃないと、実際に新潟の素材の居心地の良さを知ってもらえないですから。「着てみたい」デザインってなんだろうって考えたときに、自分が着たときに気分が上がるものかなって思ったんです。

 

――なるほど。横山さんの着たい服、とは?

横山さん:派手すぎず、世の中にあるスタンダードなものには触れているものがいいな、と。見た目はシンプルなんだけど、僕の気分が静かに高揚するような、形や装飾のある服が理想です。派手じゃないけど、普通とは少し違う、どこか違和感を感じるようなデザインを大事にしています。

 

――「静かに高揚する」という言葉、気になりました。

横山さん:僕の中では、盆踊りをしているときの感覚に近くて。盆踊りって、サンバみたいに激しくないけど、同じ動きをしていくうちに身体に馴染んできて、ずっと踊り続けられますよね。終わり頃になると、「もう終わりか」ってちょっと寂しくなって。その感覚がすごく日本らしくて好きで、これを洋服で表現したいんです。

 

――そう聞くと、洋服の見方が変わります。

横山さん:亀田縞みたいな日本の伝統的な工芸や素材は、以前は生活に深く関わっている感覚があまりなかったんです。でも実際に着てみると、生活に馴染むし、良さも分かってきて。実際に着て「いいな」って思ってもらうための入口として、洋服の細かいデザインはとても大事にしています。

 

アイテムそれぞれに、個性を引き立たせてくれる「違和感」が。その詳細はぜひ、お店で聞いてみてください。

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ずっと続けられるように。
ブランドが目指す、これから。

――「TULIP EN MENSEN」のこれからを教えてください。

横山さん:何か明確なゴールを決めて到達したい、っていうよりも、ずっと続けていける状態を維持していきたいですね。これから先、伝統的な素材をつくってくれる職人さんがいて、素材がつくり続けられていること自体が価値のあることになると思うんです。

 

――続けていけば、伝統的な素材がなくなることを防ぐことができます。

横山さん:新潟の繊維産業は全体的に落ち込んでいて、現に亀田縞もつくり手の方が減ってきているんです。僕らが洋服をちゃんと売ることが、繊維業を支えることにもつながると思っています。

 

――そんなブランドの旗艦店が今年、万代にオープンしました。

横山さん:今までは新津でセレクトショップをやっていたんですけど、「TULIP EN MENSEN」をいろんな人に知ってもらえるようになってきて。次は洋服以外でも、ブランドを伝えられるようにしていきたいと思ったんです。建物の雰囲気やお店レイアウトから、お店の世界観を感じてもらえたら嬉しいです。

 

――最後に、読者の方にひとこと、お願いします。

横山さん:このお店は入りづらい人が多いだろうなって、僕自身も思うんです。アイテムの値段もそこまで安いわけではないので。ただ、ここはアイテムを販売するだけではなく、新潟の素材を伝えられる場所でありたいと思っています。ちょっとでも気になってくだた方には、眺めるだけでもいいので、お店に来てもらえたら嬉しいですね。

 

TULIP EN MENSEN

新潟市中央区南万代町3-1

10:00-19:00(日曜日は18:00まで)

定休日 火曜日から木曜日

※最新の情報や正確な位置情報等は公式のHPやSNS等からご確認ください。なお掲載から期間が空いた店舗等は移転・閉店の場合があります。また記事は諸事情により予告なく掲載を終了する場合もございます。予めご了承ください。

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