型を破りながら、自分を表現する。
いけばな家の吉川晶さん。
その他
2026.03.09
新潟市を拠点に活動するいけばな家、吉川晶さん。晶さんの作品は植物だけではなく、紙や段ボールも使って表現しています。今回は作品制作中の晶さんの元へお邪魔して、いけばなのことを、いろいろ聞いてきました。「いけばなは、お花をいけるだけじゃないんです」という晶さんの言葉には、いけばなの新しい世界が見えた気がしました。
吉川 晶
Aki Yoshikawa
1994年聖籠町出身。高校卒業後、百貨店や花屋、コールセンターなどで働く。10年前からいけばなを習いはじめ、草月流の師範代を持つ。昨年から指導者としても活動をはじめ、自身の教室やワークショップなどでいけばなを教える。最近は着物にハマっており、YouTubeを見て着付けをマスターしたんだとか。
型を覚えて、型を破って。
「草月流」のいけばな。
――晶さんは10年前からいけばなを習いはじめました。
晶さん:百貨店で販売の仕事をしていたとき、いけばなの展覧会を見に行ったのがきっかけです。ちょうど何か習いごとをはじめようと思っていて、展示会で作品を見て、「これだ」って思いました。その場でスタッフの方に「習わせてください」ってお願いして入門することにしました。
――即決だったんですね。
晶さん:もともと好きだったお花に関わるものを習いたかったんです。作品を見たとき、「お花を使って自己表現ができるんじゃないかな」って思って。いけばなにはいろいろ流派があるのですが、展覧会をしていた「草月流」の作品は、花以外も材料として使ったり、花器に水を入れなくてもよかったり。自分の中にあった「いけばな」の常識をガラッと変えてくれたことも、習いたいと思った理由のひとつです。
――イメージしていた「いけばな」とは違う、型破りな方法です。
晶さん:とはいっても、最初は先生のお手本を真似するところからはじまるんです。はじめから自由にいけることができたら、それはいいことなのかもしれません。でも、作品の善し悪しを判断したいとき、何か目安が必要になると思うんです。例えば花器の大きさに対して、どのくらいの長さでいけるといいのか、もっというと、いける空間に対して作品の大きさは適切か、とか。
――まずは、自分の作品をつくるときの基準を先生のお手本から覚える、と。
晶さん:いけばなって、運動とすごく近いと思っていて。いいパフォーマンスをするために、走り込みをしたり筋トレをしたり、まずは身体づくりからはじまりますよね。いけばなも、自分の表現を作品というかたちにするために、基本を覚えることが必要なんです。基本をひと通り覚えてやっと、自己表現ができるんです。
――「草月流」は、その自己表現がかなり特徴的だと聞きました。
晶さん:お稽古の中に、お花と異素材を組み合わせるっていうカリキュラムがあって、作品に卵パックや空き缶を使うこともあるんです。自分の表現ができるなら、どんな組み合わせでもいいのが、「草月流」の大きな特徴ですね。


Advertisement
異素材を使って、自分を表現する。
いけばなは、花をいけるだけじゃない。
――晶さんの作品にも、異素材を使ったものが多くあります。
晶さん:それこそ、今日作った作品にはクラフトバンドを使っています。最初は植物に絡めて使おうと思ったんですけど、花器と植物の統一感が欲しくて、花器にもクラフトバンドを絡めてみました。自分の表現ができればそれでOKだと思うので、常識にとらわれず、いろいろ試しながら作品をつくるんですよ。
――自分の表現をかたちにできるのには、どれくらいかかるものなのでしょう。
晶さん:私自身、自分の表現ができるようになったな、と思ったのは2年前くらいからですね。そのときから紙や段ボールを使って作品を作りはじめたんです。もっと自分の表現を作品にぶつけられるものを探していたとき、いちばん手に入りやすいものとして、段ボールを使ってみたのがきっかけです。
――植物と段ボール、全然違う素材なのに見るとしっくりきます。
晶さん:段ボールも紙も元は植物からできているから、つながりがないわけではないと思うんです。以前「砂丘館」で展示した作品では、美術展のフライヤーを使ったこともあります。異素材を使って、いかに造形的に自分の表現ができるかは、まだまだ研究中なんですけどね。
――晶さんご自身の表現、といいますと?
晶さん:美しさや可愛さを表現するというよりは、湿度のあるものというか、心のどこかにあるネガティブなものを表現することが多いです。お花をいけることで、不安やざわつきみたいなものが放出されて、作品としてコミカルに昇華されていくのが楽しいんです。
――作品づくりのなかで、大切にしていることを教えてください。
晶さん:たくさんあるんですけど……、まずは植物の特徴を活かすことですね。そのために植物はもちろん、使う花器の色やかたちを観察します。花器は本来は水を入れて植物の状態を保つものですが、作品の一部だと思いますし。それから作品を置く空間も意識しています。その空間に合わせて、作品の大きさや、光と視線の入り方を考えて、どうしたら作品がいちばん良く見えるかは大事にしていますね。
――空間も含めて作品を見てもらいたい、という意図を感じます。
晶さん:あとは、いけている最中に発見したことは取り入れるようにもしています。段ボールを使ったこの作品は、最初は植物をまっすぐの状態のままいけていたんですけど、空間が微妙に空いていて、物足りなさがあったんです。だから、植物をちょっと折ってバランスが良くなるように収めてみました。空間を使っていけることも、いけばなの特徴のひとつだと思います。


Advertisement
センスは、みんな持っている。
ためらわず、やってみてほしい。
――晶さんは昨年から、いけばなの先生としても活動をはじめられました。
晶さん:師範代はけっこう前にもう取っていたので教えることはできたのですが、自信がなくて。昨年の9月に、私の師匠が「出張教室を見学してみない? 」って誘ってくれて、少しだけ教えてみたんです。やってみたら楽しさを感じましたし、自分の勉強になることもあって。そこから、教室やワークショップをはじめました。
――今、教室にはどんな方が通われているんでしょう。
晶さん:20代から40代前半の方に来ていただけていますね。年代も離れていないので、「あきちゃん先生」って呼んでくれるんです。それがすごく嬉しいし、感度も近いので同じ視点で作品を観てもらえるのがすごくいいなと思っています。
――一度は習ってみたいと思うのですが……、なかなかハードルが高いと感じてしまいます。
晶さん:そういった方の中には、「センスがないからできない」って思っている方もいるかもしれません。でも、そんなことはなくて。むしろ皆さんセンスを持っていて、それを磨いて、どう引き出すかが大事だと思うんです。センスを持っていても、かたちにしなければないものと同じですし、いけばなにハードルを感じている人も、まずはやってみてほしいんです。教室では、そのセンスを引き出すお手伝いができればいいなと思っています。
――誰しもセンスを持っている。なんだかできる気がしてきました。
晶さん:「草月流」には、「花はいけたら人になる」っていう言葉があります。それくらい、いけた花はその人が現れるんですよ。教室で生徒さんが私と同じようにいけたとしても、絶対に違う作品になるんです。その人の性格が作品を通して知れたり、自分の今の気持ちが分かったりするんですよ。私にとって、いけばなは心のデトックスになっています。
――デトックス、ですか。
晶さん:恋人と別れたとか、親と喧嘩したとか、いろんなことがあっても、お花をいけている時間は、目の前のお花をどう活かすかしか考えないので、いけ終わった後は自分を出し切った満足感で、欲がいっさいなくなるんです。とはいえ、「作品をもっとうまくつくりたい」っていう欲はあるんですが(笑)。とにかく自分の表現に集中して作品をつくることができるんです。
――いけばな、やってみたくなりました。最後に晶さんの目標を教えてください。
晶さん:パリコレのランウェイを装花するのが、今の私の夢です。それから、紅白歌合戦の装花もやってみたいですね。お声がけいただけるように、チャンスがあれば展示会にも出したいですし、個展もやってみたいなと思っています。
――これからが楽しみです。応援しています!


Advertisement


