澄み切った秋空に向かってそそり立つ、下田地区の名勝・八木ヶ鼻。その姿を映しながら穏やかに流れる五十嵐川には、のんびりとアユ釣りを楽しむ人の姿がありました。そんな自然豊かな下田郷で陶芸教室を開いている女性に会うため、今回は旧三条市立荒沢小学校へと足をのばしてみました。迎えてくれたのは「NPO法人 ソーシャルファームさんじょう」で地域おこし協力隊として「図工室窯」を主宰する南山陽子さん。陶芸の楽しさについて、下田の魅力について、いろいろと語っていただきました。
図工室窯
南山 陽子 Yoko Minamiyama
1992年神奈川県生まれ。京都精華大学造形学部を卒業後、燕市のステンレス加工会社に就職。2019年11月に三条市下田へ移住し「NPO法人 ソーシャルファームさんじょう」に参加。地域おこし協力隊として「図工室窯」「ロクロカー」で陶芸体験教室を開催している。散歩やアイロンがけが趣味で、最近スチームアイロンを購入したばかり。
——思っていたよりも新しい校舎なんですね。もっと古い木造校舎なのかと思っていました。
南山さん:そうなんですよ。まだきれいな校舎だから、もったいないですよね。
——いつ頃閉校になった小学校なんですか?
南山さん:過疎化による人口減少が原因で2014年に閉校したんですが、今は「NPO法人ソーシャルファームさんじょう」の拠点として活用されています。カフェになっている図書館や体育館は一般の方にも開放しているんですよ。
——そうなんですね。「NPO法人ソーシャルファームさんじょう」って、どんな団体なんですか?
南山さん:三条市と連携しながら、地域おこし協力隊としての活動をしている団体です。農業を軸に下田で暮らす人たちを支えたり、移住する人を増やしたりしています。自分のやりたいことがあるメンバーが自分の特技を生かしながら、下田を魅力的なまちにする活動に参加しているんです。
——南山さんもそのひとりというわけですね。他にはどんなメンバーがいるんですか?
南山さん:3on3のプロバスケットチーム「三条ビーターズ」として活動している人だったり、昆虫を使った加工食品を作っている人だったり、下田産のさつまいもで芋焼酎を作っている人だったり……いろいろなメンバーがいますよ。その中で私は陶芸体験教室を開催しています。
——南山さんは以前から陶芸をやっていたんですか?
南山さん:私は高校生のときに美術の授業でやった、粘土を彫る感触が大好きだったんですよね。高校を卒業してリラクゼーションサロンに就職したものの、粘土に触れたいという思いが強かったので、それから京都精華大学の造形学部に入学して器の勉強をはじめたんです。ところがやってみると、器を作ることにはあんまり興味が持てなかったんですよ(笑)
——あらら……。自分のやりたい陶芸とは違ったんでしょうか。それで、大学を卒業した後はどうしたんですか?
南山さん:両親が福島に引っ越したので、近県の求人情報を探していて「ものづくりが得意な方」「器の知識のある方」という募集内容の会社を見つけたんです。それが燕にあるステンレス製品の加工会社でした。それでその会社に就職して、印刷物やホームページを作成する業務に関わっていたんですけど、その一方では陶芸や創作活動をしたいという思いが、どんどん強くなっていったんです。
——やはり陶芸をやりたかったんですね。
南山さん:そうなんです。それで、ある日、人生を変える出来事があったんです。
——おっ!それはどんな?
南山さん:東京の製品展示イベントに出張した帰りの新幹線で、おなかが空いた私はサラミを食べていたんです。そのとき隣の席に座っていた女性がビールを飲んでいたので、おつまみとしてサラミをおすそ分けしたら意気投合しちゃったんですよ(笑)。お互いの身の上話をするうちに、陶芸や創作活動をやりたいとその女性に打ち明けたんです。それを聞いた女性から紹介されたのが「NPO法人 ソーシャルファームさんじょう」だったんです。
——たまたま出会った人から、人生を変える話が聞けたんですね。
南山さん:そうなんです。私はその活動に惹かれて、それまで働いていた会社を退職して、地域おこし協力隊に参加するために下田に移り住んだんです。
——下田で暮らしてみて、どんな印象を持ちましたか?
南山さん:アメとムチを感じました(笑)
——あ、アメとムチ……?
南山さん:「ムチ」の部分でいえば「どこへ行くにも遠い」っていう生活する上での不便さがありますよね(笑)。あと夏は蚊やブヨ、アブといった害虫に刺されたり、冬は雪が多くて雪かきばっかりしたりの苦労があるんです。おかげで雪かきもすっかり上達しました(笑)
——なるほど。生活する上で不便なところが「ムチ」なんですね(笑)。じゃあ「アメ」はどんなところですか?
南山さん:厳しい環境の中に、圧倒されるような自然の美しさがあるんです。夜は明かりが少ないから星がきれいに見えるし、四季折々の田園風景も絵になります。私は田植えしたばかりの田んぼが、お気に入りの風景なんです。
——自然が豊かな土地ですよね。地元の人たちは歓迎してくれたんですか?
南山さん:はい。いつも心配して声を掛けてくれたり、困ったことがあれば手伝ってくれます。
——温かい目で見守ってもらっているわけですね。
南山さん:いろいろと応援していただけて、ありがたいですね。
——そんな下田の地で、陶芸教室をはじめたのはどうしてなんですか?
南山さん:もちろん私自身が陶芸をやりたかったというのもあるんですけど、コロナ禍でも楽しめるものを皆さんに提案したかったんです。家の中にただ籠っているだけじゃなくて、楽しいことに夢中になれる時間や、素敵な思い出を作ってほしかったんですよ。だから技術的なことを教えるというよりも、楽しさを伝えるために体験教室を開催しています。
——なるほど。「ロクロカー」というのもやっていますよね?
南山さん:今年の4月からはじめました。旧校舎で陶芸体験教室をやってきて、発信不足を感じることも多かったんです。だから自分が人のいるところに出かけていって、もっとたくさんの人に陶芸の楽しさを伝えたいと思ったんです。それでロクロや器材、材料を積んだへんてこな車で、道の駅、キャンプ場、マルシェに出かけて出張陶芸体験をはじめました。
——体験する人たちの反応はどうですか?
南山さん:楽しんでいただけてるんじゃないかな。最初おとなしかった方も、終わる頃にはよくしゃべってくれるんです。楽しくてテンションが上がっているんだと思っています(笑)。あと自分が教える立場なのに、逆に体験者から教わることも多いんです。子どもたちから思いがけない発想をもらったり、年上の方に人生相談したりしていますね(笑)
——楽しさを伝えようとしている南山さんも、一緒に楽しんでいる感じですね。
南山さん:そうですね(笑)。教室をやっていなければ話す機会がないような人と、お話しているのって不思議ですよね。それも「粘土を彫りたい」っていう高校時代の私の願望からはじまって、いつの間にか下田という場所で陶芸教室を開いているんですからね。いろんな人たちからつないでもらっているっていう、奇跡を感じます。
——今後はどんな活動していきたいですか?
南山さん:私たちの活動や下田の魅力を発信していきたいですね。それから、はじめて何かをする時の高揚感とか、土に触って無になる瞬間とか、ワクワクしたりドキドキする時間をもっとたくさんの方にお届けしたいです。日常を離れて何かに没頭するのってすごいリフレッシュにもなるので、カフェに行くようなノリで来てほしいな(笑)土をこねてお待ちしております。
運命に導かれるように下田にやってきて、陶芸体験教室を始めることになった南山さん。陶芸と同じくらい、下田が好きだということが伝わってくる取材でした。これからもロクロカーでいろんな場所に出かけて、たくさんの人たちに陶芸の楽しさや下田の魅力を伝えてください。
図工室窯
三条市荒沢1198-3 旧荒沢小学校内
0256-64-8116
9:00-17:00
土日曜休