質実剛健(しつじつごうけん)なイメージの職人たち。彼らの纏っている作業着に、新たな風を吹き込む新潟発のワークウエアブランド<Focus&Pocus(フォーカス&ポーカス)>。業界で引き継がれてきたこれまでのデザインを改良し、これでもかと独自のこだわりを詰め込む服作り。その完成にいたるまでの道のりについて、発起人であるプロデューサーの小島さんにお話をうかがいました。
Focus&Pocus
小島健一郎 Kenichiro Kojima
1983年北海道生まれ。幼い頃に千葉県へと移り住み、小学校入学と同時に新潟県に。デザイナーである父の影響もあり、映画などのカルチャーを好む。現在はFocus&Pocusのプロデューサーとして、自慢の観察眼を生かした服作りを行っている。二児の父。
―Focus&Pocusとは、どのようなブランドですか?
小島さん:仕事の特色に合わせた機能美を、実際に着用する職人さんと一緒に作り上げることをコンセプトとした「ワークウエアブランド」です。ちょっと野暮ったさのある作業服を、いかにカッコイイと思ってもらい、「この一着と道具だけあれば仕事ができる」と感じてもらえるか。そんな服作りを目指しています。
―職人さんと一緒に作り上げるとは、どういうことですか?
小島さん:職人のパフォーマンスを最大限に引き出すために、動作の分析やヒアリングを繰り返して、デザイン、機能性、素材を検討して専門服(作業着)を作っています。職種ごとに異なる作業着を、職人さんの動きから得たヒントと、意見を加えて作っている感じですね。市販されている作業着とは違って、職人の動きをどれだけ考えて盛り込めるかが、私たちの仕事でもあります。
―職人(職種)ごとに考えられたデザインになるんですね。動作の分析などは、どうされているんですか?
小島さん:第1弾としてリリースした商品は、理容師が着用するバーバージャケットなのですが、正直、髪は切ってもらう側の立場なので知識もなくゼロからのスタートでした。そこで友人の理容師に協力してもらって、作業を観察させてもらいました。この作業をするなら何が必要か、逆に何が邪魔をしているのかなど、現場目線での率直な意見ももらいましたね。ようやく行き着いた商品デザインをベースとして、現在はセミオーダーが主体で製造販売をしています。
―実際に観察されて、どんなポイントに気づきがありましたか?
小島さん:まず前提となるのが、「職人が使ってはじめて機能する」ということです。職人しか着られない、袖を通した瞬間に仕事のスイッチが入るようなもの。そういうことを意識して観察した結果、胸ポケットにコーム(くし)を入れると頭髪が入り込んでしまうこと、施術道具の収納を考えること、髪を切っているときのバランス調整は必ず鏡と対峙することなどがわかり、それをデザインとして具体化していきました。実際に胸ポケットは筒型にして下部をマグネットで止め、頭髪を簡単に取り除けるようにしました。
―これがあったら嬉しい。そんなかゆい所に手の届く感じですね。
小島さん:そうですね。今では理容師の方に説明すると、「これはまさに床屋のための作業着だね」と言ってもらえるので本当に嬉しいです。協力してくれた友人のおかげですよ。
Focus&Pocusの第1弾ワークウエア「バーバージャケット」の開発に大きなヒントを与えたのは、新潟市中央区の理髪店「gentleman barber(ジェントルマンバーバー)」で代表を務める東城さん。現在100年に1度といわれるバーバーブームが訪れているが、もう何年も前から独自のスタイルを確立している理容師だ。そんな彼がFocus&Pocusに肩入れする理由とは何だろう?
―小島さんと友人関係にあるとうかがいました。作業服の開発に協力しようと思った理由を教えてください。
東城さん:昔からお金やブランドなどをステータスとして考えるのが好きではなかったんだよね。服もそうだけど、「誰が作っているのか」「どんなこだわりやストーリーがあるのか」が重要だとずっと思っていて。結局はヒトなんだ。彼からこの話をもらったときもそうで、彼が「どれだけ着たいと思わせてくれるか」を考えたんだ。こだわるってヒトコトで言うのは簡単だけど、彼はトライ&エラーをとにかくずっと繰り返していた。本気でやっているって熱意を感じたんだよね。
―作ることに対しての想いをくみ取ったんですね。
東城さん:想いをカタチにするのって、めちゃくちゃパワーがいると思うんだ。自分もそうだけど、理容師としての技術はもちろんだけど「カッコイイ人に切られたい」って感覚もすごい重要だと思っていて。そんな憧れてもらえるような理容師でいたいし、この店を楽しい床屋さんがいる社交場にしたいんだよね。人と人がつながる場所として。だから、目指す場所が違っても、彼の気持ちがズシっときたんだよね。
―実際にバーバージャケットを着てみていかがですか?
東城さん:やっぱり着た瞬間、彼がどれだけやってきたのか、どれだけの苦労をしてきたのかを鮮明に思い出すよね。「想いを着ている」というか。だって、15年前は「床屋なんてダサい」って世間では言われていて、それが今ではちょっとしたブームになっているんだ。マイナスからのスタートでしょ?このバーバーシャツに使われている生地だって、一度は絶えて復活した歴史があるんだよ。結局それも、カッコイイと思う人がでてきたからでしょ?そんな生地との出会いも、結局はヒト。物はヒトなんだよね。
バーバーシャツの構想が固まって、最終段階で迎えた生地選び。当初、小島さんが探していたのは汚れない白い生地でした。しかしそんな魔法のような“汚れない”生地なんてそう簡単に見つかるわけもありません。ある日、関東で開催された生地の展示会へ行ったときのこと、小島さんは珍しくその会場で地元新潟の生地を取り扱っている業者さんと出会います。「新潟で作られる生地」に強い興味を抱いた小島さんは、詳しい話を聞くために生地会社へと向かいました。そこである男性に声を掛けられ、身振り手振りで商品サンプルを説明します。そのときの相手から発せられた「まさに作業服だね」のヒトコトは、小島さんにとって生涯忘れられない言葉になったそうです。その相手こそが、「亀田縞」を作っている中営機業有限会社(新潟市江南区)の社長さんでした。
「亀田縞」とは、現在の亀田地域で生活していたかつての農民たちが、水と泥に強い綿織物を求めて自作した生地。その優れた機能と独自の縞模様が評判となり、戦前「亀田縞」は全国的に拡大します。ところが、戦後になって織物業者の廃業が相次ぎ、機械化の時代が到来するとともに「亀田縞」も姿を消していきました。現在では中営機業をはじめ、亀田縞を扱っているのはわずか2軒のみ。2002年、三代目の中林さんが「これまで築いてきた伝統を簡単に捨てるわけにはいかない」との想いから、亀田縞の復活を試みます。まずは亀田郷土資料館に保存されいた現物や見本帳を参考にして復元。「中途半端なものは作らない」との思いで、三色のタテ糸を一定間隔で配し、さらに40本に1本の割合で紬風の糸を割り込ませる(ヨコ糸は黒1本)という難技術に挑戦しました。
その話を聞いた小島さん。一度は消えかけたものをどうにか残したいという想いや産みの苦しみに共感すると同時に、理容業界の置かれている状況とも頭の中でリンクしました。今でこそバーバーブームとなり、理容師は世間に一目置かれる存在となりましたが、長い苦難の時代もありました。ずっと前から友人の東城さんが語っていた「床屋のカッコイイ文化を残したい」という気持ちが思い出され、東城さん、中林さんそれぞれの「残したい」の想いをひとつにするように、バーバーシャツの生地を亀田縞に決定したのです。
今までは理容師の服といえば白でした。でも「亀田縞」の縦にすっとのびるストライプとの出会いで考えは180度変わります。この生地を使うことで汚れは目立たなくなり、また白と黒の縞によって(定規をあてるように)水平・垂直のバランスをとる機能まで加えることになったのです。
Artesano
茨木政人さん
パッと見た瞬間、単純にカッコイイと思った。亀田縞の話を聞いて、古き良き物の歴史や残したいと思う想いを感じた。なによりも小島さんの熱い想いを聞いて、着たいと思ってその日に決めたよね。
Barber kariudo
柳澤俊介さん
働く場所はあるけど、着る物がなかった。自分で仕事着を作ろうかとも考えていたときに出会った。床屋専門の作業服ってのが嬉しいし、理容師のために考えてくれた気持ちが有難かった。
DUMP★CUT
伊藤正幸さん
生地がしっかりとしているから、ジーンズのようにガシガシ使い込める。いい意味で雑に着れるし、自分のコーデを考える時間があるならお客さんのことを考えたいから、これ一枚あれば集中できる。
The Barber 37
真田輝さん
今まで普通の服を着て仕事をしていたけど、バーバージャケットを着だしたら、着た瞬間に仕事モードになる。その切り替えが気持ちいい。お客さんからも、なんかビシッとしているねって言われるし。
―現在はバーバージャケットのみの取り扱いですが、今後どのような作業着がリリース予定ですか?
小島さん:理容師に向けたバーバージャケットも袖丈の異なるタイプを追加し、現在3種類をラインナップしています。バーバージャケットのさらなる改良もそうですが、工場などで働く職人に向けたワークウエアも現在開発中です。ヒザが擦れても大丈夫な生地を使ったり、強度と機能性を合わせたものを目指しています。
―今後のブランド展開について教えてください。
小島さん:まだまだ出会ったことのない職人の方がたくさんいらっしゃるので、とにかく出会いを大切に、多くの方のプロの作業を見て、話を聞いていきたいです。もちろん進化させるだけでなく、しっかりと引き継がれてきたことも残さなければなりません。「仕事に欠かせない」と思われるようなワークウエアを作って魅了していきたいですね。あとは、職人に向けた作業服だけでなく、技術を生かしてカジュアルに一般の方にも着てもらえるようなアパレルラインも考えています。「本物が作る偽物。つまりは本物」というコンセプトで、何かを真似た偽物ではない本物のアパレルを目指して、このブランドラインは現在進行中です。Pocusの「P」の職人(Professional)に向けたラインと、Focusの「F」から偽物(Fake)を意味するラインの二本立てに注目してください。
Focus&Pocus(株式会社ユニバーサルジャパントレーディング)