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「日本で最後の下駄屋」を目指す鯛車商店街の「小林履物店」。

現代では珍しい、下駄を専門に製作販売しているお店が、巻の鯛車商店街にある「小林履物店」です。店内には色とりどりの鼻緒をすげた下駄や草履がずらりと並んでいます。今回は4代目店主の小林さんから、なぜ今の時代に下駄の専門店をやっているのか、どんなことにこだわって作っているのか、下駄についてのいろいろなお話を聞いてきました。

 

 

小林履物店

小林 正輝 Masaaki Kobayashi

新潟市西蒲区生まれ。関西の美術大学を卒業後、東京の住宅メーカーに勤務する。28歳で新潟に戻り家業の「小林履物店」で働き始め、4代目店主として下駄作りに精を出している。地元「鯛車商店街」の活性化に取り組む他、ホームページ制作やグラフィックデザインの仕事なども請け負いマルチに活躍している。

 

日本で最後の下駄屋になってやろう!

——「小林履物店」はいつ頃から営業しているんですか?

小林さん:大正8年に紺屋(染め物・和装業)として創業しました。下駄、草履も扱っており、2代目になると和装履物を中心にした店へと変わっていったんです。昭和30年代に入って3代目の父の時代になると、下駄の需要がだんだん少なくなっていったので、店舗では靴屋として革靴やサンダルを売りながら、工場では下駄作りを続けていたんです。作った下駄は浅草とかの和装店に卸していました。

 

——ずっと下駄屋だったわけじゃなくて靴屋だったこともあるんですね。

小林さん:よくある商店街の靴屋でしたね。でも約20年前に両親が出張でいない隙を見計らって、私が靴を片付けて下駄屋として模様替えしてしまったんです。帰ってきた両親がびっくりしてましたね(笑)

 

 

——小林さんは最初から下駄屋を継ごうと思っていたんですか?

小林さん:いえ、私は県外の住宅メーカーで営業企画や設計なんかをやっていたんです。でも両親が出展していた物産展の手伝いが忙しくなってきて、おまけに父が体調を崩してしまったので、新潟に戻って「小林履物店」を手伝うことにしたんですよ。でも下駄作りを続けるつもりはなかったんですよね。

 

——それがどうして下駄屋を続けていこうと思うようになったんですか?

小林さん:元々ものを作ることが好きだったから、下駄を作る面白さがわかってハマってしまったんです。商店街の靴屋のままでは生き残れないと思っていたので、むしろ他がやっていない下駄の専門店をやってみようと思ったんです。やるからには日本で最後の下駄屋になってやろう、どこまでやれるかやってみよう、って思いましたね。

 

——下駄を専門にしてからの反響はいかがですか?

小林さん:まわりの下駄屋がどんどん廃業してなくなっていくので、下駄を探している人たちからの注文がうちに集中するようになりましたね。物産展に出店しても下駄を探していた人から喜ばれることが多いです。

 

履き心地の良さと和の世界観を守った下駄作り。

——「小林履物店」ではどんな履物を作っているんですか?

小林さん:下駄、草履、雪駄を作っています。下駄はカジュアル、草履や雪駄はフォーマルなイメージの履物ですね。草履は女性が履くもの、雪駄は男性が履くものとして分けられます。下駄には新潟県産の桐材を使っています。

 

——へえ〜、新潟県産の桐を?

小林さん:新潟から福島にかけての桐は良質で、木目も綺麗だし繊維も細かいんですよ。県産の材料として誇りを持って使っています。

 

——下駄ってどのくらいで作れるようになるものなんですか?

小林さん:私は10年経った頃にやっと道具を使いこなせるようになりました。未だに父からは「下手くそ」って言われてますね(笑)。私は下書きしてからじゃないと下駄のカーブに沿って削ることはできないんですけど、父は下書きなしで削れるんですよ。そこが熟練の腕の差なんでしょうね。

 

 

——作るときに難しいのはどんなところなんですか?

小林さん:美大にいたときに木彫なんかもやっていたから、彫刻には慣れているんですけど、下駄の曲線を作るのはとても難しいですね。シンプルなものほど難しいんです。

 

——シンプルな形ほどごまかしが効かないっていうことですよね。作るときのこだわりがあれば教えてください。

小林さん:まずは履き心地がいいことですね。あとは和の世界を守って、洋の世界にぶれたりしないように気をつけています。

 

物産展では下駄の実演販売が大好評。

——県外の物産展にもたくさん出展しているんですよね?

小林さん:海外も含めて年に20回以上は出展しています。行った先々でお客様がついてくれるのがありがたいですね。さすがに昨年は新型ウィルスの影響で、物産展がほとんど開催されませんでしたけど……。

 

——物産展ではどんなふうに下駄の販売をしているんですか?

小林さん:下駄の実演販売をしているんですよ。お客様ひとりひとりの顔を見ながら作るのが楽しいんですよね。お話ししているうちに、そのお客様の普段の生活が見えてくるので、そういう部分も参考にしながら下駄を作ってきます。

 

 

——下駄を作るのにひとり当たりどれくらいの時間がかかるんですか?

小林さん:10分くらいですね。店頭に並べてあるものを買っていく人はほとんどいないんです。中には店頭に並べてあるものと、まったく同じ下駄を作ってくれというお客様もいます。その陳列された下駄を買ってくれるわけじゃないんです。自分のために作ってもらうことに付加価値があるんでしょうね。

 

——オリジナル感がほしいんでしょうね。物産展に出展してきた中で印象に残っている出来事はありますか?

小林さん:数年前に作務衣(さむえ)や浴衣が流行ったときはものすごく下駄が売れて、いろんな人が買いにきてくれました。中には有名タレントもいらっしゃったんです。あと30万円もする下駄をオーダーで作った人もいましたね。

 

下駄の魅力と粋な履きこなし方を教えてもらう。

——小林さんは下駄のどんなところが魅力的だと思いますか?

小林さん:湿度の高い日本の気候風土に合った履物ですよね。通気性もいいし、桐を使っている下駄はカラッとしてますから。とくに夏は涼しくて気持がいいですよ。あと鼻緒の部分で指を開きながら履くことで、血行も良くなるし頭もスッキリするんです。指の間に大脳につながるツボがあるそうなんですよね。

 

 

——頭がスッキリするというのは知りませんでした。下駄って履き方のコツはあるんですか?

小林さん:鼻緒に対して浅めに履いて、かかとを下駄から少しだけはみ出させるのが粋な履き方なんですよ。

 

——いろいろ教えていただいて、ありがとうございました。最後に今後やってみたいことってありますか?

小林さん:角田山の麓にうちの工場があるんですよ。ゆくゆくはそこに併設するお店を作れたらいいなと思っています。下駄を作っているところを見学してもらったり、カフェでゆっくりくつろいでもらったり、そんなことができるお店を作ってみたいですね。

 

 

 

 

小林履物店

〒953-0041 新潟県新潟市西蒲区巻2219

0256-72-3334

10:00-18:30

 

※掲載から期間が空いた店舗は移転、閉店している場合があります。ご了承ください。
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