寒い冬は家にこもって、ぬくぬくまったりと過ごしたいものです。部屋にふかふかの絨毯が敷いてあるとずーっとその上でゴロゴロしていたくなります。今回はデザイナーが運営するオーダーメイド絨毯ショップ「tricollage」にお邪魔して、オーナーの小林さんにオーダーメイド絨毯の魅力やこだわりについて聞いてきました。
BRIDGE
小林 あかね Akane Kobayashi
1978年新潟市東区生まれ。滋賀県の造形大学で住環境デザインを学び、金沢の劇団で舞台美術の仕事をはじめる。その頃から福祉施設で障がい者アートに関わるようになり、2010年に新潟に戻ってから「KORO(コロ)」というユニットで障がい者の創作活動支援や商品プロデュースを続ける。「KORO」解散後も「BRIDGE」としてイベントや商品のプランニングに携わり、「三方舍」のオーダーメイド絨毯「GOSHIMA」ではデザインも手がける。福島の「Roots猪苗代」のブランディングに関わった後、2021年10月に「tricollage」をオープンする。
——「tricollage」って小林さんのアトリエ兼ショップになっているんですよね。小林さんは新潟でただひとりの絨毯デザイナーだとお聞きしました。
小林さん:「手織絨毯デザイナー」という肩書きで、専門に仕事をしている人は日本国内にほぼいないと思います。デザイナー自らが店舗経営するのも珍しくて、同じ形態の店舗はほとんどないんじゃないでしょうか。
——今まではどんなお仕事をされてきたんですか?
小林さん:今はオーダーメイド絨毯をメインにしていますが、障がい者福祉施設で絵を教えたり、イベントや商品のプランニングに携わったりもしてきました。私の今までの人生を振り返ってみると、転機には必ず人との出会いがあったんです。出会った人から影響を受けて自分の進む方向が決まるっていうか……。
——例えば、どういう出会いがあったんでしょうか?
小林さん:私は昔から絵を描いたり鑑賞したりすることが好きだったので、滋賀にある造形大学に入って住環境デザインの勉強をしたんです。そのときの講師が舞台演出家をやっていた影響で、舞台に興味を持つようになりました。卒業してからは金沢の劇団でセットや小道具を作る舞台美術の仕事をはじめたんですね。金沢は伝統文化が数多く残っている街で、芸術家もたくさん住んでいるんです。私の知り合いにも芸術家が多くて、その中に障がい者福祉施設で絵を教えている方もいたので、私も舞台美術の仕事をしながら障がい者アートに携わるようになりました。最初は絵を教えたり作品展を開催したりしていましたが、そのうち、障がいを持つ方の思いが込められた作品を商品化して、世の中の人々に伝える仕事をしたいと思うようになっていきました。
——福祉施設での活動が、新しい道を切り開いたんですね。
小林さん:福祉施設での仕事というのは、人間的愛情につながっていると思うんです。ビジネスであっても愛情が大切だということを学んだし、それを世の中に伝えていきたいと思いましたね。新潟に帰ってからも、福祉プロダクトの企画販売や美術教室の講師を続けてきました。
——金沢から新潟へ。活動は順調に進みましたか?
小林さん:最初はほとんど反響がなかったんですが、私と同じ考えの女性と「KORO(コロ)」というユニットを組んで、障がい者の創作支援や商品プロデュースをはじめたんです。そのうち反響も出はじめて、新潟県障害福祉課から業務委託を受けたり、いろいろな企業から仕事を受注できるようになりました。でも、自分自身の収入はなかったので、アルバイトで生計を立てている状態だったんです。
——それなりの収入がないと続けていくのも大変ですよね……。
小林さん:そうなんです。それで悩んでいたときに出会ったのが「三方舍」の今井さんだったんです。私のやっていることに共感してくれて、いろいろと協力していただきました。でも「KORO」は解散することになり、お互いにそれぞれの道を進むことになったんです。
——それから現在に至るまでは、どんな活動をされてきたのでしょうか。
小林さん:以前から続けてきた「BRIDE」という個人事務所で、出張絵画教室、イベントや商品のプランニングをする企画制作をやってきました。「BRIDE」というのは「橋」じゃなくって「船の操舵室」という意味です。関わる企業やプロジェクトの行く先を決める、舵取りのような仕事ができればいいなと思って名付けたんです。
——さて、絨毯の話をお聞きしたいと思います。小林さんは絨毯のデザインにはどのように関わりはじめたんですか?
小林さん:「三方舍」の今井さんが「GOSHIMA(ゴシマ)」というオーダーメイド絨毯をはじめて、第2弾の「Almond(アーモンド)」シリーズから、私がデザインに関わることになりました。絨毯のデザインの経験はありませんでしたけど面白そうだったし、出張の多かった父の影響で海外への興味もあったので、海外の職人が作る「GOSHIMA」の絨毯に魅力を感じたんです。
——小林さんが手がける「Almond」というシリーズは?
小林さん:真ん中に「記念樹」や「家」をイメージした1本の樹がベースとしてあって、「家族」に見立てた鳥が飛んでいる絵柄なんです。そのデザインをもとに、お客さんが花びらの色や鳥の数をカスタマイズすることができる絨毯なんですよ。家族それぞれの思いをかたちにできる絨毯になっています。
——小林さんが絨毯をデザインするときにこだわっていることを教えてください。
小林さん:今まではデザインだけ売って終わりということではなくて、自分のデザインした絨毯が売れるまで責任を持ちたいと思ってやってきました。そのためにも「どうしたら売れるのか」を常に考えて、販売の現場にも足を運ぶようにしてきたんです。作るだけのデザイナーじゃなくて、商品を売ることまで一緒にやるデザイナーを目指したかったんですよね。そのこだわりをより実現するために「tricollage」をオープンしました。
——「tricollage」はどういう経緯でオープンすることになったんですか?
小林さん:いろいろな仕事を経験させてもらってきて、ようやく自立できる下地ができたので、これからは企業やプロジェクトの仕事だけじゃなくて、自分自身のブランドを立ち上げたいと思ったんです。「tricollage」というのは「3色」を表す「トリコロール」と「切り貼り」を意味する「コラージュ」を合わせた造語です。「作る人、使う人、売る人」の思いが重なり合わさることで、新しい世界観が生まれることをイメージしました。
——オーダーメイドの絨毯なんですよね?
小林さん:例えば、子どもと一緒に作った原画をもとにしたデザインした絨毯のオーダーがありました。その絨毯には家族と一緒に原画を作ったことも、思い出として刻まれるわけです。そんなふうに他では手に入らない唯一無二の絨毯を、きめ細やかに作ることができるのが「tricollage」のオーダーメイドなんですよ。
——思い入れの込められた特別な絨毯になるわけですね。
小林さん:お客様の人生やご家族のお話を聞きながら、一緒に絨毯を作っていきたいんですよ。そうやって作り上げる喜びや感動を味わってほしいんです。同じ品質の絨毯は他でも手に入りますけど、作り上げる過程というのは他では味わえないと思います。
——「tricollage」をオープンしてみていかがですか?
小林さん:ご来店くださったお客様が、あるとき展示してある絨毯を見ておっしゃったんです。「この絨毯をInstagramでひと目見たときに、今まで抱えていた悩みがパーッと消えたんです。だから、どうしても欲しくて買いにきました」って。自分のデザインした絨毯が、生活の相棒として人を癒したり励ましたりしてくれたらいいなと思ってきたので、その思いが届いたことがわかって嬉しかったですね。それだけでも、ショップをオープンしてよかったと思いました。
tricollage
新潟市中央区東中通1番町86-21
090-4286-2946
11:00-18:00
水曜休