競技の普及と国際試合誘致を目指す「新潟県ラグビーフットボール協会」。
その他
2024.03.15
2015年にイングランドで行われたラグビーのワールドカップで、日本代表は南アフリカ代表に逆転勝利を収め、世界に衝撃を与えました。2019年、日本開催のワールドカップではベスト8に進出。2023年のフランス大会の熱戦も記憶に新しく、ここ数年でラグビーに興味を持ちはじめた方も多いのではないでしょうか。今回は「新潟県ラグビーフットボール協会」の山田さんに、ラグビーの基本や観戦のポイント、協会の活動内容など、いろいろとお話を聞いてきました。

新潟県ラグビーフットボール協会
山田 大史 Hiroshi Yamada
1980年新潟市生まれ。新潟高校ラグビー部に所属し、ラグビーをはじめる。2020年頃から「新潟県ラグビーフットボール協会」の活動に関わり、2021年より理事を務める。新潟高校ラグビー部OB会「青山ラガークラブ」幹事。好きな選手は、元スコットランド代表グレイグ・レイドロー。
身体をあててもファウルにならない球技、ラグビーの基本。
——まだまだにわかファンの域ではありますがラグビーが好きで、今日は山田さんにたくさん質問したいと意気込んできました。ラグビーって野球やサッカーと比べるとちょっと難しいというか、試合を見ていてもよくわかりませんよね。どうしてでしょう?
山田さん:ルールが複雑なんでしょうね。レフリーの笛で試合が止まっても、何が起きたのかわかりにくいですし。
——山田さんでもそう思われるんですか?
山田さん:「今のプレイは、なんだったんだろう」と思うこと、けっこうありますよ。別角度のリプレイ映像を見て、やっと状況が理解できるときもありますしね。最近は中継映像でレフリーの声をある程度拾っていますので、以前よりわかりやすくなってきましたよね。
——パワフルなのにスピード感がある。それもラグビーの面白さですよね。でも実際はかなり頭脳プレイが求められるそうですね。
山田さん:頭を使う競技だとは思います。1チーム、15人いる中で身体の大きい人、パワーのある人、足が速い人といろいろな個性のある選手がいます。全員が同じような動きができるかというとそうではなくて、それぞれに役目があります。一律の考え方ではラグビーはできないので、「このシーンではこの人を動かそう」とか「このシーンではこの展開をする」とか、同じ目標、同じ理解を共有しているチームは強いです。
——サインプレーも数多くあると聞きます。いったいどういう練習をしているのか想像できません。
山田さん:ある程度事前に決めていた動きがあったとしても、試合の動きに合わせてポイントポイントでしか判断できない要素も多いんですよ。情報の共有というところでは、トップレベルになるほどアナリストが分析をしたデータを元にミーティングを重ねますしね。分析材料のひとつとして、トップ選手は背中にGPSを付けています。

——日本代表には、海外出身の選手も大勢いますよね。
山田さん:多様性があるところもラグビーの魅力ですよね。ラグビーの特徴のひとつでもあるんですが、国籍より地域性を重んじます。イギリスだって、イングランド、ウェールズ、スコットランド、アイルランドと地域ごとにチームを組んでいますよね。「その国の出身である」ということにとらわれず、代表資格のルールを満たせば外国選手であっても日本代表としてプレイができるんです。
——「紳士のスポーツ」とも言われる、その理由も知りたいです。
山田さん:ワールドラグビーが定めているラグビー憲章「品位・情熱・結束・規律・尊重」の5つを大事にしているからでしょうか。「ノーサイド(試合終了)」という言葉の通り「試合が終わったら敵味方関係なく相手のプレイを讃える」というのがラグビーの基本の精神です。
——そういうマインドも部活などで教わるんですか?
山田さん:球技で「ぶつかってよし」とするスポーツって、きっとラグビー以外にそう多くないですよね。サッカーでもバスケでも、身体をぶつけるとファウルになります。でもラグビーはコンタクトを伴う球技ですし、激しいプレイがないと成り立ちません。きちんと身体を当ててボールをつなぐ。これをお互いに徹底しないと、ただの暴力沙汰になっちゃう。そういったところはプレイしているうちにわかってくるものなんでしょうね。

——激しく当たり合うだけに、そういった精神が徹底されているんですね。テレビで見ていてもあの迫力ですから、もし自分が選手だったらどうなっちゃうんだろうっていつも想像してしまいます。
山田さん:トップレベルだと軽自動車がぶつかってくるくらいの衝撃かもしれませんね(笑)
——2015年の日本代表の大金星から、私のラグビー熱が徐々に高まっているんですが、山田さんの周りの盛り上がりはどうですか?
山田さん:2015年の南アフリカからの大勝利、あれは衝撃でしたね。次の2019年ワールドカップは日本開催でしたし、新潟の競技人口は増加したんですよ。「ラグビーを見たことある」という方も確実に増えた印象です。ただ、直後にコロナ禍ですから。コンタクトスポーツのプレイが制限されてしまって、すごく残念でした。
——いつか生で試合を観戦してみたいです。きっとテレビ観戦とは違うんではないかと。
山田さん:迫力が違うと思いますよ。身体と身体がぶつかり合う音、それから指示を出す声も聞こえます。
——それも聞きたかったんです。試合中に選手同士は話をするのかなって。
山田さん:けっこう言葉は飛び交っていますよ。あとはレフリーと選手のコミュニケーションも盛んです。レフリーは状況の説明、ジャッジの根拠などについて丁寧に伝えますし、選手も確認のためにレフリーに声をかけます。ちなみに野球の場合、審判を「アンパイア」と言いますが、ラグビーは「レフリー」です。レフリーには試合を円滑に進めるためにその場をコントロールする役割もあるんです。

——最近では著名な海外選手が日本のプロチームに所属しています。日本ラグビーはどんなポジションにあるんでしょうか?
山田さん:日本は世界のトップカテゴリー「HPU」(ハイパフォーマンスユニオン)に認定されましたし、他国のシーズンと日本のシーズンが異なるので、自国でのシーズンを終えてから日本でもプレイできるという、選手側のメリットもあります。
——日本が強くなったってことですね!
山田さん:そういうことですね! さらなる底上げだって期待できますよ。世界のトッププレイヤーと一緒に戦える、トップクラスのプレイを間近で見られるわけですから。
——大学生の試合もかなりレベルが高くて驚きました。
山田さん:日本代表ヘッドコーチ「エディー・ジョーンズ」さんは、大学生でも日本代表合宿に招集をかけています。トップクラスの大学プレイヤーは、練習だけでなくトレーニングや栄養面の知識を得るといった身体づくりのところもしっかり強化されていますよね。
——今年、新潟で大学トップレベルの試合が開催されるそうですね。
山田さん:大学ラグビー伝統の一戦「早明戦(早稲田大学VS明治大学)」の試合が、デンカビッグスワンで6月2日に開催されます。新潟では初開催の注目カードです。

高校3年生の春に部活を引退した後悔。
——山田さんは、ラグビーのどんなところを魅力に思いますか?
山田さん:私の言葉ではないんですが、スポーツライターの藤島大さんが、とあるコラムで「ラグビーはどのみち利他的なスポーツ」と書かれていて、その言葉が自分の中にスッと入ってきたんですよね。自分が倒れてもボールがつながって、味方が点を取ってくれればいいわけで。自分が役割をしっかり果たしてボールをつなぎさえすれば、点をとるのは誰でもよい。それがラグビーです。
——それはまさに「One for All, All for One」の精神ですよね。
山田さん:なぜ鍛えるか。それは当たり負けをしないため。なぜパスの練習をするか。早く、遠くにボールを放れば味方が動けるから。上手くなるのは、自分のためでもあり他人のためでもあるんですよね。トライを奪うまでには身体を当てて相手を止める味方がいます。言葉で教えられるようなことではないかもしれませんが、みんながそれをわかっているんだと思います。足が早い方が圧倒的にトライを取りやすいですけど、早く走れなくてもボールに志をつなげば得点が生まれるんです。

——山田さんがラグビーをはじめたきっかけも知りたいです。
山田さん:高校にラグビー部があって、体験をしているうちにそのまま入部していました。ラグビーはなかなか番狂わせが起こりにくいと言われていて、それは体格だったり越えられない壁があるからですけど、「身体の小さい人間でも大きい人間に勝てる」と先生に言われたことを覚えています。
——ラクビーは社会人でも続けていらしたそうですね。
山田さん:大学はラグビー同好会でしたし、今はプレイしていないんですけどね。でも自分の中にはっきりとした後悔があるから、今もラグビーに携わっているんだろうと思います。高校3年生のとき、冬に花園で開催される全国大会の県予選まで部活を続けませんでした。春の大会で思うような結果が出ずに、そこで引退したんです。「なんで続けなかったのかな」って思いがいまだにあるんですね。
——ラグビー経験が社会で生きたなって思うこと、ありますか?
山田さん:いろいろな選手がいる団体競技に関われた経験は今に生きているかもしれません。社会にはもっといろいろな人がいますから、組織の中で自分がどんな役割で、どう立ち回るかを考えるのは、ラグビーに似ているかなと思いますね。

近い未来、新潟でラグビーの国際試合が実現する?!
——「新潟県ラグビーフットボール協会」についても教えてください。主にどんな活動をされているんでしょう?
山田さん:いちばん大きな役割は「ラグビー競技の普及」です。スクール、高校、大学、社会人といったカテゴリーごとに各部会が取り組みを行っていますし、試合の誘致や「ニイガタラグビーマガジン」の発行なども担っています。それぞれの役目は違っても、目的は変わりません。

——新潟はラグビーが盛んな地域ですか?
山田さん:スクールから中学、高校と組織化できている大阪などに比べると、そこまで盛んとは言えないかもしれません。でも創部まもない「新潟食料農業大学」が大学リーグで年々ステップアップしているのはすごいことですし、花園ラグビー場で行われる全国高校ラグビーに出場した北越高校や開志国際高校にも注目しています。
——これから新潟でラグビーの国際試合が観られるかもしれないと聞きました。
山田さん:「新潟県ラグビーフットボール協会」が力を入れようとしているのは国際試合の誘致です。日本が「HPU」になり、2024年以降、日本で代表クラスの試合が行われるときに開催地を公募するようになりました。2024年度は、新潟も手を挙げたんですが残念ながら落選してしまいました。ですが2025年、2026年と引き続き候補地として立候補を続けます。なぜかというと、ラグビーワールドカップは2027年にオーストラリア、2031年にアメリカでの開催が決定していて、その次、2035年に日本が再び開催地として手をあげる動きがあるんです。そうなったとき、新潟でも試合が開催できるように国際試合の運営実績を重ねていきたいと思っています。
——最後に、ラグビーの試合をもっとおもしろく観戦するヒントを教えてください。
山田さん:試合中に何が起こったかわからなくても、その疑問は引きずらず、ボールが動く様や展開全体を見てもらうとおもしろいと思いますよ。ラグビーって前にパスできないのに、なぜ前に進めるんだろうってところからでもいいですし。難しく考えずに、試合全体を眺めてみると「お〜」と興奮する瞬間がありますよ。

新潟県ラグビーフットボール協会
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