
新潟県出身のゲームクリエイター「橙々(だいだい)」さん。水族館と謎解きをテーマにしたホラーアドベンチャーゲーム「アクアリウムは踊らない」を2024年に公開すると、個人制作のゲームにも関わらず、2日で10万ダウンロードされるという大記録を達成しました。ゲームを作りはじめた頃のことや完成までの道のり、専業クリエイターに転身した今の気持ちなど、橙々さんにいろいろとお話を聞きました。

橙々 Daidai
新潟県生まれ。大学在学中にゲーム制作を開始し、卒業後は一般企業へ就職。2024年に公開した「アクアリウムは踊らない」のヒットを機に、フリーのゲームクリエイターとして活動を開始。水族館巡りが好き。

――YouTubeやXのフォロワー数から、橙々さんが人気なのは間違いないと思っています。
橙々さん:そんな、そんな(笑)。正直、キャリアも何もないんです。趣味で作ったゲーム「アクアリウムは踊らない」を公開したら、たまたまヒットして。それでゲーム制作を本職にできたという感じなんです。
――大学時代から約8年かけて、しかもおひとりで「アクアリウムは踊らない」を完成させたそうですね。
橙々さん:もともとは、大学の友人数名と「一緒にゲームを作ろう」という話だったんです。私はイラスト担当として参加していたんですけど、やる気が強すぎたせいか、いつの間にか他のメンバーがいなくなってしまって……。残されたキャラクター原案をどうしてもかたちにしたくて、最終的にひとりで「アク踊」を完成させました。
――ゲームを作るにはたくさんの要素が必要ですよね。キャラクターのデザインだけでなく、シナリオやストーリー制作、プログラミング的な技術も要るのでは?
橙々さん:おっしゃる通りです。ぜんぶ、やりました。
――えぇぇ?!
橙々さん:一部音楽や背景絵などは有料のものを買ったり、フリー素材をお借りしたりしていますが、それ以外のキャラクターデザイン、ドットアニメーションの制作、シナリオ作り、演出もぜんぶです(笑)。プログラミングはできないんですけど、「ゲームを作るゲーム」みたいなソフトがあるので、それを使ってリリースまでたどり着きました。

――すごくシンプルな質問なんですけど、こういうケースってよくあるんですか?
橙々さん:ひとりでゲームを完成させる人は、まずいないです(笑)。しかも、皆さんと同レベルの知識から、ゲームの作り方を学びました。最初は、Googleでわからないことを検索してってそういうレベルです。
――いくらなんでも、そこまではできないような気が……。
橙々さん:よくそう驚かれます(笑)。自分でも「努力した」と思っていますが、ゲーム制作自体は楽しかったので、めちゃくちゃ根性が必要だったわけじゃないんです。働きはじめてからは、ゲーム制作がストレスの解消法でした。心のよりどころだったんですね。
――とはいえ、いろいろな壁があったと思うんです。
橙々さん:それは、もちろんです(笑)。「プログラミングができない」とはいえ、その分野の知識がないと解決できないことが多かったです。だから、とにかく調べる。調べてわからなかったら、トライアンドエラーを何百回、何千回繰り返して解決に導くしかなかったです。

――2024年2月にリリースしたゲーム「アクアリウムは踊らない」は、2日で10万ダウンロードを記録しました。
橙々さん:XやYouTubeでの情報発信には、力を入れていました。体験版のしばらく後に前編をリリースしてから、2024年に「完全版」というかたちで公開したので、たくさんの人にダウンロードしていただけたのかなと思っています。それでもゲーム作家「橙々」はまったくの無名だったので、反響の大きさには、私がいちばんびっくりしました。
――どれくらいの反響を予想していたんですか?
橙々さん:毎日100ダウンロードを着実に積み重ねていけたらなという程度に考えていました。「10万ダウンロード」と聞いたとき、「桁を間違えていると思うんですが」と答えたくらいです。

――「予想をはるかに上回る」というような表現じゃ足りないくらいの大ヒットです。
橙々さん:8年間ほぼ毎日SNSを動かして、ゲーム制作の進捗や告知をし続けました。「その効果があったんだな」って、「アクアリウムは踊らない」の完全版が公開されて初めて実感しました。
――どんな気持ちでした?
橙々さん:嬉しいより、驚きが大きくて。でもそれ以上に安心したというか、「今までしてきたことは無駄じゃなかったんだ」「ちゃんとファン層を広げられていたんだ」って気持ちでした。

――「アクアリウムは踊らない」のリリース後に、橙々さんにも大きな変化があったようですね。
橙々さん:「アクアリウムは踊らない」の公開後から企業さんとのコラボなどが続々と決まって、専業ゲームクリエイターとしての道を歩みはじめることができました。会社員時代、仕事が辛すぎて「もう嫌だ」って口にしてばかりいたんですけど、今は逆に「仕事しすぎ」と怒られています(笑)
――今は何をモチベーションにしていますか?
橙々さん:いちばんの目標にしているのは、「アクアリウムは踊らない」のアニメ化です。当初から「アニメ化をする」と宣言して作ってきたゲームですので。それともうひとつは、次の作品をリリースすること。ゲーム制作自体は楽しめていたんですが、あまりに時間がかかる上に、会社勤めの身だったので、これまでは「寂しいけど、これが最初で最後」と思っていました。でもありがたいことに専業作家になったので、次の作品も作れそうです(笑)
――大反響に甘えず、変わらない熱量を持っている姿が素敵です。
橙々さん:一瞬、燃え尽き症候群っていうか「終わっちゃった。寂しい」って瞬間はありました。でもお仕事のご依頼、コラボのご相談をたくさん頂けて、「これで終わりにしなくていいんだ」って思わせてもらえたんです。

――このヒットをどう分析されているんですか?
橙々さん:個人的にはファンの方との距離感を近くしたことと、毎日こまめな情報発信を諦めずに続けてきた成果なのかなと思っています。
――意外な答えでした。
橙々さん:ゲームが面白いのは大前提として、それ以上に「どう世に出すか」に力を入れていました。インディーゲームは、大企業と違って宣伝費がありません。「アクアリウムは踊らない」の場合も、ほんの数万円程度の予算で発信をしていました。そういう状況でインディーゲームが勝るとすると、ファンとの距離感と毎日攻めた告知をすることだと思ったんです。
――ゲームそのものだけじゃなくて、橙々さん自身がファンの皆さんに応援されているんだろうなって感じたんですけど、同じようなやり方でゲームのPRにつなげている人っているんですか?
橙々さん:いないと思います。「いないからやろう」と思いました(笑)
――ということは、今度橙々さんの動きを真似する人がいるかもしれませんよ。
橙々さん:そうなることを、私、すごく楽しみにしています(笑)
