童話で伝えたいメッセージ。作家・笹川永礼のこれまでとこれから。
カルチャー
2020.02.22
2作目『ヒボンとヘボン』出版。挫折を経て再起動した「表現」へかける思い。
村上市出身・在住の若手作家、笹川永礼(ささがわながれ)さんがこの冬、2作目となる童話作品『ヒボンとヘボン』を出版しました。互いに羨み相手になりたいと願う対照的なキャラクターの双子のもとに、ある日その願いを叶えてくれる神様が現れて…という物語。前作『きちきちだらり』に続いてシンプルで簡潔な構成ながら、深く考えさせられるお伽話になっています。笹川さんに、作家になるまでの経緯や物語に込めているメッセージ、作家としての思いなどについて聞きました。

笹川 永礼 Nagare Sasagawa
1991年村上市・山北地区生まれ。作家。本名・加茂優也。ペンネームは地元の名勝から拝借。著書に『きちきちだらり』(文芸社・2015)、『ヒボンとヘボン』(風詠社・2020)。地元の高校を卒業後、役者を志して上京するも断念。帰郷後、アルバイトをしながら執筆活動に取り組む。2017年には新潟アルビレックスBCの公式応援ソング「「飛翔~Wining~」」の作詞も手掛けた。愛犬あずき(柴・メス7歳)との散歩が日課。

大ヒットアニメとモロ被り!? でも、執筆を続行。
――2作目『ヒボンとヘボン』の出版、おめでとうございます。今回は対照的なキャラクターの双子が入れ替わる、というお話ですね。
笹川さん:ありがとうございます。…実は何を隠そう、例の男女が入れ替わる某アニメ映画が大ヒットしたのが、ちょうど今作執筆の真っ最中でして(苦笑)。ヤバい、被っちゃった、安易に乗っかったと思われたらイヤだな、とはちょっと考えましたけど、入れ替わり自体は特段珍しいモチーフでもないし、何より物語の根幹を成す、今作のメッセージを伝える上ではゼッタイに外せない設定だったので、そのまま執筆を続行しました。
――あ、そういえば…(笑)。今回の物語を思いついたキッカケはあるんですか?
笹川さん:タイトルから分かる通り、今作はズバリ「才能」がテーマなんですけど、人が生きていく上で、周りの人たちと才能を比較したりされたりすることは避けて通れないと思うんですね。もちろん自分もそうで、これまで「才能」について自分が考えたり体験したりしてきたことをもとに作りました。2作目にふさわしい作品ができたと思っています。
――前作、今作と2作連続で童話ですが、創作するのは童話が中心なのでしょうか?
笹川さん:そこは正直、まだ迷ってます。ただ創作にあたっては、できるだけ簡潔に、余計なものは削いで、伝えたいメッセージを立たせることを心がけていますが、そんな自分にとって、らしさを一番出せるのが童話というフォーマットではないかなと思っています。もともと自分が読み手として、分厚い、長い本は避けがちなこともあるのかもしれませんが(笑)。誰にとっても読みやすく、シンプルにメッセージを伝えられるものとして、今のところ童話がしっくりきています。
――今作も、時代や地域が特定されない世界で、抽象度の高い寓話ですね。
笹川さん:明確な情報を入れないのは、意識してやっています。読者を限定せず、読者の想像に任せて、より思い入れやすいように物語の間口を広げているつもりです。抽象化って普遍化でもあると思うので。おこがましい話ですが、願わくば自分の作った物語が、例えば桃太郎のようなお伽話みたいに、時代を超えてずっと語り継がれていけば、作家としてこれ以上の喜びはないですね。

役者を志して上京も、「才能」の理不尽さに挫折。それが今作のテーマにも。
――作家として憧れの人や目標の人はどなたになるんでしょう?
笹川さん:実は憧れの人や作品があって作家を志したわけではないんです。高校2年の秋、卒業後の進路希望を提出する段階になって初めて、将来なにがしたいか真剣に考えました。「人間らしいこと、人間にしかできないことがしたい」と考え、それは「表現することだ」という思うに至り、卒業後は上京して役者を養成する専門学校に入ることに決めました。それまで演劇なんてやったこともなかったんですけどね。突然そんなことを言いはじめて、家族もビックリしたと思います。
――それは驚くでしょうね(笑)。その専門学校ではどんなことを?
笹川さん:入ったのはワタナベエンターテイメントカレッジのアクターコースというところで、演技や発声、ダンス、アクションなどのレッスンに励んでいたんですけど、表現って、当たり前かもしれませんがいくら努力を積み重ねたからといって上手くできるとは限らないんですよね。もちろん稽古を積むことによって、ある程度基礎的な演技力や表現力は身につくと思うんですけど、なんていうか、それは表面的で教科書通りの表現でしかないんですよ。そこから先のより奥深い表現をするためにはありとあらゆる色んな意味での人間力が必要なんだなぁと感じました。でも人間力って正直、捉え方も人それぞれだし、ある意味磨きようがないじゃないですか?だからすごく真面目にがんばっている人間よりも、素行も態度もよくなく、ぶっちゃけ人としてどうかと思うような人間の演技の方が、ステージ上では光り輝いてたりして…。表現という「正解の無い世界」の難しさとともに、今作のテーマでもある「才能」について、まざまざと目の当たりにさせられた2年間でした。端的に言ってしまえば、才能のある人とない自分との差をハッキリと見せつけられて、挫折したということです。
――それで卒業後は?
笹川さん:卒業後はオーディションを受けてどこかの芸能事務所に所属するという選択もあったのですが、すでに自信をなくしていたため、帰郷しました。しばらくは夢破れた失望感で何も手につきませんでしたが、このままじゃいけないと思ってアルバイトを始め、しばらくは表現の世界と無縁の生活を送っていました。でもやっぱりどこかこう得体の知れない物足りなさみたいなのは感じていました。そんなある日、専門学校時代に自主制作した短編映画が出てきたんです。観直してみると、出来は確かにつたないですが、表現することのワクワク感というか、原始的な喜びに溢れていて。それがキッカケで「もう一回表現をやってみよう」と、物語を書くようになりました。

――それから、処女作『きちきちだらり』の出版に至るまでは。
笹川さん:現在もそうですが、いくつかの物語を同時並行で書いていて、その中で『きちきちだらり』は伝えたいことと、それを伝えるための物語が、こうパチパチッとハマりきった初めての作品でした。完成後の出来にも相応の自信や手応えがあったので、初めて出版社に投稿してみたんです。すると、あれよあれよという間に書籍化まで決まり、デビューすることができました。
――周囲の反応はいかがでしたか。
笹川さん:いっしょに住んでいる家族が喜んでくれたのはもちろんですけど、出身高校からオファーがあり、教育フォーラムでパネラーのひとりとして出演できたのは嬉しかったですね。あとはもちろん、読んでいただいた方々からの感想や意見も、とても勉強になりました。中には、こちらが思いもつかない捉え方をしてくれる方もいて。物語は「キマジメ」と「フマジメ」の国を対比する内容なんですけど、「これはEUのメタファーですね」っていう感想をくれた方もいたり。
――なるほど。そういう捉え方もできますね(笑)。
笹川さん:あとは地元村上市の地域おこし協力隊をしていたミュージシャンのタカハシナオトさんとコラボしてアルビBCの公式応援ソングを作詞できたり、学童保育で演劇の講師をさせてもらったり、出版時には思ってもみなかった様々な経験をさせてもらいました。
――それから今回の2作目まで数年かかりましたが、その間はどうでしたか?
笹川さん:執筆は続けていましたが、1作目を超える確信を持てるものがなかなか書けませんでした。自分にはやっぱり作家としての才能はないのかな…という葛藤もあったのですが、ならばその才能というものに対してしっかり向き合ってみようと、「才能」をテーマに決めました。すると1作目と同じように構想がパッとまとまりましたね。「これだ」という確信も1作目に近いものがありました。何社かに投稿し、お声をかけていただいた中から最も条件の良いところを選んで出版させていただきました。

自宅の居間で執筆に没頭。次作は数年がかりの長編童話に。
――本日は自宅におじゃましてお話をお伺いしていますが、ひょっとして執筆は自室ではなく居間なんですか?
笹川さん:そうです。言われてみれば、ずっとそうですね。執筆の際、家にはこもりますが、部屋にはこもりません(笑)。
――気が散ったりはしないのですか?
笹川さん:不思議と散りませんね。母が料理をしている横で、平気で物語の世界に没頭していますよ(笑)。家族によれば、集中しているときは生返事らしいです。書いている内容も、途中段階のものも含め家族には包み隠さず公開していて、感想や意見をもらいます。自分にとっては、母が最初の読者であり意見者であり校正係ですね(笑)。
――今はどんなものを書いているのでしょう? 次作の構想は?
笹川さん:今は以前からずっと構想している、自分の中で今までにない大がかりな長編童話を本格的にやっています。音楽に例えるなら、これまでに出した2作がシングルだとしたら、今はアルバムを作っているような感じかもしれません。様々なエピソードを入れ込んでいますが、起承転結でいう承がまだ上手くハマッっていません。無事完成した暁には、オリジナルの人類誕生譚を基軸にした、人間の自己探求がテーマの大作になりそうです。
――それはスゴそうですね。
笹川さん:人って正論を直接ぶつけられるよりも、物語として提供された方がスッと受け入れてくれると思うんですよ。そういう意味で自分にとって物語というのは、人に何かを伝える上で最も有効な手段のひとつだと思っています。ですから次作に限らず、これからも世の中にあってほしい、ありつづけてほしい物語を作り続けていきたいですね。
――なるほど。本日はありがとうございました。

本日2/22(土)笹川永礼新作出版記念イベント『夢と才能』@農家民宿ひどこ
■笹川永礼
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