犬と人が豊かに暮らすまちを目指す
ドッグトレーナー、佐藤ヒロキさん。
その他
2026.04.03
新潟市を拠点にドッグトレーナーとして活動する、佐藤ヒロキさん。飼い主さんと犬の「ストーリー」に耳を傾け、家庭ごとに適したトレーニング方法を提案してくれます。独立したばかりの頃の忘れられない思い出や、オリジナルブランド「with leather works」設立の理由など、いろいろとお話を聞いてきました。
佐藤ヒロキ
Hiroki Sato(wan on one)
1983年新潟市生まれ。専門学校でドッグトレーニングを専攻。卒業後はドッグラン施設に5年間勤務。2007年に独立し「wan on one」を開業。2024年にはドッグレザーブランド「with leather works」を立ち上げる。愛犬はケアーン・テリア。
経験を積むほどに芽生える自分の考え。
いざ、独立へ。
――佐藤さんは、専門学校でドッグトレーニングを学ばれました。卒業後は、どんな道へ進んだんですか?
佐藤さん:旧笹神村にあった「わんわんぱーく」(現在は閉園)に5年間勤務しました。学生時代に、社長の人柄に惚れ込んだんです。「この人、すげぇかっこいい。こんな考え方ができる人になりたい」って。でもだんだん視野が広がるにつれて、「社長と自分の価値観は違うかも」と思うようになってきて。
――それは具体的にはどんなふうに?
佐藤さん:社長は、犬が健康で幸せに暮らすための「環境を整えよう」という考えを持っていました。でも当時の僕は「これがやりたい」という明確なものはなかったんですけど、「違う世界を見てもいいのかな」とドッグトレーニングの様子とかドッグショーとかを見にいくようになって。「人と犬の関係を豊かにすることも大事だよな」と思いはじめるようになったんです。
――人間同士だって、関係性を築くのにはそれなりに苦労するものですもんね。
佐藤さん:そう、まさに人間と同じで、飼い主が犬のことを理解していない限り、良好な関係性は築けません。愛犬を理解した上で、「してほしいこと」をどう伝え、実践してもらうかを考えたとき、今までとは違うアプローチができると思ったんです。それから2年間ほどいろいろな大会などで学ばせてもらって、必要な資格が取れたので独立をしました。

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領収書に食事マナー、
恩師が教えてくれたこと。
――独立されたのは、20代半ばだったそうですね。大きな決断だったのでは、と思います。
佐藤さん:独立に向けて用意周到だったわけじゃなく、ただ「やってやるぞ」という気持ちにあふれていたんですよ(笑)。まずは独立することが最優先。それから「どうすっかな」と考えるつもりでいました。
――どんなふうにお仕事を増やしていったんですか?
佐藤さん:「独立しましたんで」で、お仕事がもらえるほど世の中は甘くないですよね(苦笑)。まったく仕事がないから、配達、警備員、いろいろなアルバイトをしました。でもひとつも無駄ではなかったです。車を誘導する警備員でも、所作ひとつで相手の反応が変わることを実感しましたし。「警備ご苦労さま、頑張れよ」と思われるのか、「なんだよ、めんどくさいな」と邪険に思われるのか、こちらの姿勢で相手の向き合い方が変わるものだよな、ってすごく勉強になりました。
――何事も無駄ではないのに、若いときって焦ってしまうものですよね。
佐藤さん:学びはあると思っているものの、時間を持て余すくらい暇でしたね。「俺はいったい何しているんだ」って気持ちが拭えずにいて。そんなとき、トレーナーとしての最初の仕事をいただいたんです。今でも頭が上がらない先生がお客さまを紹介してくださって。お客さまは車の運転ができず、先生のところでは出張トレーニングに行くこともできない、という事情でした。トレーニングを開始してから、その先生は「紹介した手前もあるから、私もついていく」と、毎回一緒に来てくれたんです。そこで、領収書の書き方から、コーヒーを飲んだ後はテーブルをきれいにすること、何から何まで教えていただきました。
――じゃあ先生との関係は、まるで親子のような、会社の上司と部下のような。
佐藤さん:教育係を担ってくださったんですね。自分が先生の立場だったら、できないと思うんですよ。独立したばかりの若者を、自分の時間を削って、しかも一銭ももらわずに育てるなんて。先生は私にとっては、絶対に裏切れない人。母のような、師匠のような存在です。
――お仕事が軌道に乗ったターニングポイントはあったんでしょうか?
佐藤さん:対個人ではなく、ビジネス規模の大きいところと連携する必要があるのでは、と考えて、現在は「宮川動物病院」さんをはじめ、動物病院さんとペットショップさんと連携して、診察の合間などにしつけ指導を行っています。
――佐藤さんが行っているトレーニングについて、もう少し詳しく教えてください。
佐藤さん:家庭犬(一般家庭で暮らす犬)のためのトレーナーと思ってください。対象が家庭犬なので、家族の数だけ、教え方やルールがあります。まずは飼い主さんが何を求めているのかをしっかり聞いて、世間一般のマナーやルールを踏まえて指導を行います。私の教室では、動物の行動分析学をベースにしたトレーニングを行っていて、犬が行動を起こす前の「きっかけ」とその後の行動パターンを分析して、別の望ましいパターンに置き換える練習をします。1日10分でできるトレーニングです。
――もしかして、飼い主側にも工夫が必要な場合も多いのでは?
佐藤さん:おっしゃる通りです。レッスンの初めの数回は、犬のためではなく、飼い主さんの姿勢を考える内容になっています。「私が変わったら、犬にも変化が起きた」という方はとても多いです。たぶん9割以上ではないかと。「これをしてはダメ」ではなく、「頑張ったね」と褒めてあげる。それだけで犬が興奮しなくなることだってあります。家族構成や一日のうちどのくらい犬と過ごせるかなどを踏まえて、最適解を導けたらいいな、と思っています。

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「こと」と「モノ」が大事。
革製品ブランドを立ち上げた理由。
――2024年には、犬専用革製品ブランド「with leather works」を立ち上げました。
佐藤さん:15年以上ドッグトレーナーを続けてきて、その理論を理解したり、お客さまの要望に寄り添ったりできるようになったと思っています。その上で「こと」に加えて「モノ」もあったらいいよな、と思ったんですよ。将来的に、誰かが自分の技術を受け継いでくれることを見据えると「モノ」があることが安定した収入につながるかもしれないですし。
――どうして「革製品」だったんでしょう?
佐藤さん:僕は、昔から革製品が大好きなんです。調べたところ、日本では牛の骨や皮など、食用にならない部分の多くが廃棄されてしまうようなんですよ。革製品は素材を無駄にしないし、飼い主と犬の両方をかっこよくしてくれるアイテムです。そんなことを思って、革職人の友人に協力してもらって、「国産牛革の活用」という新しい取り組みをはじめました。
――どんなアイテムがあるんですか?
佐藤さん:定番のアイテムは、トリーツポーチ、AirTagと鑑札を収納できる首輪、散歩用のマナー袋入れ。どれもニッチな商品です。高くて売れない可能性があるから、真似する業者さんはいないと思います(笑)。それだから、自分たちでブランド展開する価値があるんです。「卒業証書みたいにかたちに残るものがあるといいな」と思って、トレーニング終了の記念に首輪を作るプランも作りました。

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犬と暮らしやすいまちへ。
ドッグトレーナーとしての使命。
――佐藤さんはこれまでどんな思いを持って、仕事に向き合ってきたんでしょうか?
佐藤さん:犬を飼っていると、時間もお金もかかります。だけど「犬がいることで人生が豊かになっている」と感じることもあります。それには「ただ犬がいればいい」わけじゃないんですよね。マナーを身につけた犬がいることが大事なポイント。私の理想は、新潟市が犬がいても歓迎されるまちになること。そのために、人と犬の関係を作り上げることが自分の使命だ、と思っています。
――この仕事をはじめた頃と今とで、いちばん変わったと思うのはどんなことですか?
佐藤さん:キャリアを積むほどに、飼い主さんそれぞれの物語に寄り添うことの大切さを感じるようになりました。そのためには、自分の中の「引き出し」がたくさんないといけません。必要な知識や飼い主さんへのアプローチの仕方などを身につけて、「引き出し」を増やしてきたつもりです。これまで500組以上の犬と飼い主さんを見てきた経験が、今の自分の武器になっています。

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