【あの人の本棚】第2回
旅先で書店を巡るふたり。
あの人の本棚
2026.08.30
人を知るには、いくつもの方法がある。趣味を知る、休日の過ごし方を聞く、好きなYouTubeチャンネルを探ってみる。でももっとパーソナルなエッセンスが詰まっているのは、あの場所かもしれない。そんな予感がして、この連載をはじめてみました。「本棚を見せてください」はたしてどれくらいの人が、本棚を覗かせてくれるだろうか。「あの人の本棚」連載2回目は、長岡市の矢部さんご夫婦です。
本棚の主
矢部さんご夫婦
ともに30代、長岡市在住。夫は公務員で「社長の図書館」の館長。妻は団体職員。
読後、単身インドへ。
『深夜特急』に連れられて。
「長岡市にどんな会社があるのか若者に知ってほしい」と、経営者や長岡にまつわる人からメッセージを添えた本を寄贈してもらい、それを若者に貸し出していた私設図書館がある。現在は休館中の「社長の図書館」だ。
このたび本棚を見せてくれたのは、「社長の図書館」の館長を務めている矢部さんと奥さま。ふたりはこの春に結婚し、これから新居を構えるまでの少しの間、長岡市と旧小国町にある双方の実家を行き来している。
ふたりのとっておきの本が、窓辺で肩を寄せるように並べられていた。右が夫、左が妻。
夫・矢部さんの本棚には、小説、ビジネス書、雑誌がジャンルレスに並ぶ。以前は多くの本を持っていたが、転職にともなう引越しでかなり整理したのだという。この本棚には、「もう一度読み返したい本」だけを残している。いちばんのお気に入りは、20代後半、旅好きの友人から勧められて読んだ『深夜特急』(沢木耕太郎著)。若き日の著者が、乗合バスでインドからロンドンを目指す紀行小説だ。
「旅の目的地に辿り着くまでのできごとがとてもリアルで、自分もその場にいるような気持ちになります。こういう旅がしたいと思える一冊」
読み終えたあと、矢部さん自身も旅へ出た。1週間の休みを取って、ひとりインドへ。予約した列車は定刻には来ず何時間も遅れ、計画通りに乗り継ぎできない。見知らぬ駅で途方に暮れながら、現地の人に道を尋ねる。人の多さと街に満ちるエネルギーに圧倒された旅だった。
「『深夜特急』とそれに影響されたインド旅行からは、たくさんの刺激を受けました。作中には、作者自身が旅を通じて自分の人生を考える一節があります。当時の沢木さんと自分の年齢は同じくらいで、重なる部分がいくつもある。生き方を見つめ直すきっかけをくれるところも、この本の魅力です」


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他者の考え方や生き方への興味、
その好奇心が本棚にも。
NPO職員として市民活動に関わる妻の本棚には、趣味の観葉植物や子どもの頃から好きだという妖怪グッズなども並ぶ。仕事柄、地域で活動する人たちの相談に乗ることも多い。本棚には人との関わり方や働き方、生き方をテーマにした本が並んでいる。
「自分自身が内省的なタイプなので、その分、他者の考え方にも興味があるし、知りたくなります」
取材を兼ねて気になる相手には「人生の話を聞かせてください」とお願いすることもあるそう。その好奇心が、矢部さんと距離を縮めるきっかけでもあった。

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同じ本で、
一緒に笑ったり共感したり。
最近本棚に加わった本は、夫婦で前橋を訪れた際、こぢんまりした書店で見つけたこの2冊。『こじらせ男子とお茶をする』(月と文社編)と『良い子でいたら幸せになれるんじゃなかったのかよ』(白瀬世奈著)。 旅先で個人経営の書店をのぞくと、その地域の特性や店主の好みが滲んでいて、面白い。観光地を巡るのとはまた違う、「旅の楽しみがひとつ増えた」と笑うふたり。


実はこの取材のために本棚を整理してくれたという矢部さん夫婦。あーでもない、こーでもないと言いながら、この本棚は完成した。
「妻の本棚には自分も読みたいと思える本が何冊もありました。それで気づいたんですが、僕は本そのものというより、その本を選んだ人に興味があるのかもしれません。その人がどんな本を読んで、何を考えてきたのか知りたくなる。『社長の図書館』をはじめたのも、人を知りたかったからなんだ、と腑に落ちました」と矢部さん。
「社長の図書館」へ寄贈された本たちは今どうなっているのか、気になるところ。
「いずれは何かしらのかたちで再開したいと思っているので、お預かりした本とメッセージは今も保管してあります」
そのときが来るのが、楽しみだ。
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