からだを温め、こころをほどく。
「カイロと珈琲のお店 accos」

食べる

2026.03.27

text by Etsuko Saito

南魚沼市にある「カイロと珈琲のお店 accos(あっこす)」。米ぬかを使ったカイロと、インドネシア直輸入のコーヒー、そして手づくりの焼き菓子が、からだを温め、ホッととひと息つける時間を届けてくれるます。このお店を営んでいるのは、双子の姉妹。それぞれ別の道を歩んできたふたりは地元で起業。家族の出来事や海外での経験をきっかけに「accos」をはじめました。米ぬかカイロが生まれた背景や店舗を構えた理由、そしてこれからの夢について聞きました。

Interview

右/永井 亜木子

Akiko Nagai(カイロと珈琲のお店 accos)

1981年南魚沼市生まれ。横浜市の製菓・製パン専門学校を卒業後、東京都内でパティシエとして働く。2004年に地元に戻り、菓子店に勤務。その後、個人事業主として布小物などの販売を開始。2023年に法人化。「株式会社accos」代表取締役。2025年には実店舗「カイロと珈琲のお店 accos」をオープン。

左/行方 理智子

Richiko Namekata(カイロと珈琲のお店 accos)

1981年南魚沼市生まれ。東京の短大を卒業後、WEBデザイナーとして働く。2007年に地元に戻り、団体職員を経て、インドネシア人のご主人と結婚。5年間インドネシアで暮らし、その間に出産と子育てを経験。帰国後、2020年から「accos」の一員となる。「株式会社accos」取締役。

やっぱり双子。
巡り合わせは、きっと運命。

――まずは、おふたりがどういう経緯で「accos」をはじめることになったのか教えてください。

亜木子さん:私は、以前は自由が丘や銀座など都内でお菓子関係の仕事をしていたんですけど、父が体調を崩したこともあって、2004年に南魚沼市に戻ってきたんです。それからは、地元の菓子店に39歳まで勤務しました。でも娘が5年生の頃、腹膜炎で半年間入院することになって。コロナ禍だったので、付き添い人であっても行動が制限されるという状況だったんですね。私自身が参ってしまったのと、娘の看病に専念したい気持ちがあったので、勤めていた菓子店は退職しました。でも、下の子はまだ保育園児だったんです。職に就いていなければ子どもを預けることができないので、先生が「亜木子さん、あなたお菓子作りも裁縫も得意なんだから、ハンドメイド雑貨でも販売すればいいじゃない。個人事業主でも就労証明は出るんだから。私が背中押しますから」と言ってくれて。それで開業を決めたんです。

 

――開業後は、何からはじめたんですか?

亜木子さん:ひとまずできることをしよう、と最初はマスクやベビー用品などの布小物を作りました。それがとても順調に売れて。制作が間に合わなくて、病院でも作業していたくらいだったんです。発送や梱包は、家族に協力してもらっていました。

 

――その頃、理智子さんは?

理智子さん:私はインドネシア人の夫と結婚して、5年ほどインドネシアで暮らしてから、2019年の秋に帰国しました。ちょうど子どもが小学校に入るタイミングだったので、夫と相談して、子どもは日本の教育の流れに任せることにしました。そして翌年から「accos」に関わるようになったんです。

 

――ふたりでビジネスをしよう、という考えは最初からあったんですか?

亜木子さん:お互いそれぞれのキャリアを積んできたわけですし、得意分野も別々です。「何か事業ができたらいいね」と話してはいましたけど、それが叶ったとしても、せいぜいデザインが得意なりっちゃん(理智子さん)が看板を作って、私がお菓子屋さんをやる程度のコラボだろうと思っていました(笑)

 

理智子さん:私が結婚してインドネシアに行くとき、あっこ(亜木子さん)は号泣していたんですよ。きっと、もう会えないからって(笑)。それが、ふたりで同じ事業をすることになるんだから、不思議なものですよね。

 

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身体を温め、癒す。
米ぬかカイロが生まれた理由。

――今の主力商品であるカイロを作る流れになったのは?

理智子さん:それは私のインドネシアでの経験が大きいんです。インドネシアは医療費がとても高くて、ほとんどの人は病院ではなく国が運営するクリニックを受診します。クリニックの診察料は安価ではあるんですが、あまり衛生的ではない上に、処方される薬は同じものばかりで。医療の質に課題があるから、地元の人は「病気にならない身体作り」を普段から心がけているんです。まずは身体を冷やさない、温める工夫をするのが習慣化していて。

 

――体調管理への意識が高いんですね。

理智子さん:インドネシアで、自分の身体や家族のことをとても大事にする文化に触れていたんですね。でも帰国後、日本では女性たちが大きなストレスを抱えて働いている様子を目の当たりにしました。同時期に、あっこは子どもの看病をしながら、倒れそうになりながら布小物を作っていて。それでみんなを少しでも癒せるもの、身体を温められるものを、と米ぬかを材料にしたカイロを作ったんです。

 

――新商品としてどうだろう、という考えもあったんですか?

理智子さん:それは、あまり頭にはなかったですね。とにかくあっこが大変そうだから「よかったら使ってみて」という気持ちでした。夕飯前の忙しい時間にあっこに渡したから、けっこうそっけなかったんですよ(笑)。でも次の日「すごくよかった」って言ってくれて。

 

亜木子さん:米ぬかが入っているカイロなんて、と恐る恐る試してみたら、とっても気持ち良かったんです。「これを商品化したらどうなるんだろう」と思いました。ちゃんとした製品としてお客さまの手元に届けられるものに仕上げるのは私の役目だな、とも。

 

――米ぬかのカイロの反響はどうだったんでしょう?

理智子さん:すぐに完売して、その翌日に購入者さんから「追加で作ってもらえませんか」とリクエストをいただきました。鍼灸院を経営されている方で「こういうものを待っていました」と。それからだんだんと布小物からカイロにウエイトがシフトしていったんです。

 

――それが主力商品になるという手応えはありました?

亜木子さん:まったくないですよ。とりあえず作って、売ってと、お小遣い稼ぎみたいな感じでした。

 

――今では県内各地のイベントなどに声がかかるほどの人気です。いったい何があったんでしょう?

理智子さん:「米ぬかでカイロを作っている」と商工会に伝えたところ、行政に共有してくれたんですね。担当者の方が「原材料のほぼすべてが南魚沼産なのだから、ふるさと納税の返礼品にぴったりです」と言ってくださって。返礼品に選んでいただいた後に、販路拡大のための相談会に参加をしたところ、相談員の方が元三越伊勢丹のバイヤーさんだったんです。

 

亜木子さん:「ミニ商談会があるから、ぜひ参加してください」と、どんどん話が大きくなって。あらゆる場面で「商品は返礼品に採用されていますか」と聞かれたんですよね。南魚沼市の返礼品に選んでもらったことは、とても大きな後ろ盾でした。それから、新潟の優れた商品や技術を紹介する新潟三越伊勢丹のブランド企画「NIIGATA 越品」にも選んでいただきました。

 

――それだけ商品に地域性とドラマがあるってことですね。

理智子さん:おかげさまで「次は違うイベントに出てみませんか」とお誘いいただいたり、「越品」ブランドの他の事業者さんとコラボする機会もいただくようになりました。

 

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ほぼすべて南魚沼産。
地域性と機能性を兼ね備える。

――カイロには、米ぬか以外にどんな材料を使っているんですか?

理智子さん:基本の材料は南魚沼産の米ぬか、玄米、ヨモギ、ローリエ、唐辛子、兵庫県産の粗塩です。商品によっては、そこにレモングラスやラベンダー、ペパーミントなどのハーブを加えます。

 

――使い方や他のカイロとの違いも知りたいです。

理智子さん:「accos」のカイロを500Wの電子レンジで1分間温めると、40℃前後になります。すると粗塩によって集められた空気中の水分が蒸気となって放出され、じんわりと身体を温めてくれるという仕組みです。こういった「湿熱カイロ」は保温性が高く乾燥しにくい特性があるので、南魚沼市のような寒い地域でも30~40分温かさが保たれるんです。

 

亜木子さん:米ぬかのカイロは油分が絶妙で、身体の熱と反応して時間が経っても温度に下がりにくいんです。カイロ自体が冷えることによって、身体も冷えるということがないのも「accos」の米ぬかカイロの特徴です。使い捨てカイロは「乾熱」といって乾いた熱で温める仕組みなので、身体が乾燥していたり、巡りが悪いところに当てると水分が不足していて十分に温まらない場合があります。一方、米ぬかカイロは蒸気が血管を開いてくれて、長時間温かいまま。繰り返し使うことができるメリットもありますよ。

 

――おふたりで相談して、今のような米ぬかカイロにたどり着いたんですか?

亜木子さん:材料や配合はふたりで決めました。米ぬかはお米と同じで、生産時期によって水分量が変わります。水分の割合を考慮しながら玄米や米の量を調整しています。いずれ熟練のパティシエさんみたいに「この天候だから、こうしよう」という具合に、作り手の勘が身についてくるのかな、と思っています(笑)

 

理智子さん:「自分自身を労われるものを」と思って考えた商品なので、大切な人へのプレゼントにもぜひ使っていただきたいと思っています。ギフト箱やラッピングにも、できるだけ対応しています。

 

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ふたりが揃えば、
「2」以上のパワーが全開に。

――この度、「カイロと珈琲のお店 accos」として店舗をオープンされたのにはどんな理由があるんですか?

亜木子さん:店舗がないまま米ぬかカイロを販売していたので、ご近所さんがドアを叩いてやってくることもあって。それで販売できる店舗を構えることにしたんですが、はたしてこのまちにどれくらい「購入したい」という人がいらっしゃるのかという不安もありました。

 

理智子さん:私はインドネシアにルーツがあるので、この数年、知人からコーヒーのレシーバー(買い付け役)になってくれと頼まれていたんです。依頼主は社会貢献活動もしている信頼できる人なので、この際だからコーヒーの輸入にチャレンジしてみようと思いまして。手続きはとっても大変で途中で諦めかけたんですけど、実現できたら「accos」の武器にもなるんじゃないか、とも思いました。「accos」のコンセプトは「やさしい時間」。コーヒーとカイロでホッと心を温めて、リラックスできる時間を提供できたらいいな、と思っています。店舗では、インドネシア直輸入のコーヒーや「珈琲豆山倉」のブレンドコーヒーなどを扱っています。

 

――亜木子さんの焼き菓子もあるそうですね。

亜木子さん:自分のお店を持つことが夢でした。でも専門学校の同級生で菓子店を経営している人は、ほんのひと握り。お店を構えてコーヒーを出そうと決めたとき、どこかからお菓子を卸してもらおうとも考えたんですけど、なかなか金額が合わなくて。それであれば自分で作ればいいんじゃないか、とハッとしました。自分の中で答えが出たっていうか。お店を持つなんて私なんかには無理だと思っていたので、夢を叶えてくれたりっちゃんには、ほんとうに感謝しています(笑)

 

――今後はどんなことを実現したいですか?

理智子さん:いずれはインドネシアのスペシャリティーコーヒーの専門店にしたい、と思っています。日本人の口に合う、あまりこだわりすぎないコーヒー店が目標です。今はコーヒースタンドとして営業しているんですが、近い将来、スペースを確保してイートインもできるようにしたいですね。飲食店だけの機能じゃなくて、いろいろな商品を販売してもいい。このまちにあるお店はどんどん減っているから、生活に役立つものを扱う身近なお店にしたい、という考えもあります。

 

亜木子さん:りっちゃんはよくトイレットペーパーとか洗剤とかを置きたい、って言っているよね(笑)

 

理智子さん:そう。ひとつの案だけど、おいおい商社としてこの地域で役立てたらいいな、と思っていて。そういう仕組みを作ることも企業の責任だと思っているから。

 

――亜木子さんはどうですか?

亜木子さん:マルシェで一緒になる農家さんから野菜やお米が余っているから使ってくれないか、と相談されることがあるんですよね。そういうものを上手に使って、ジャムでもなんでも作れたらいいな、と思っています。

 

――最後に、お互いがどういう存在なのか聞いてもいいですか?

亜木子さん:大変なときにそばにいてくれてよかった、っていつも思っています。よく「自分がもうひとりいたら」と言うけど、私たちの場合はほんとうにもうひとりいるみたい。でも本音はおそ松くんみたいに、もう5人いたらいいと思っています(笑)。なんでも言い合えるし、お互い得意分野が違うからいいんだと思う。父がよく「1+1=2じゃないんだ」って言っていたけど、その通りで、双子に限らず、人と人が一緒になると「2」以上の成果が出るんだな、ってりっちゃんと一緒に取り組んで実感しました。

 

理智子さん:あっこはお裁縫もできるし、製菓衛生師でもある技術の持ち主。私も小さい頃はものづくりが好きだったけど、今の役割は会社の枠組みを作ることなのかな、と思うんです。もしあっこがいなくなったら、私がミシンを踏まなくちゃいけないし、お菓子も作らなくちゃならない。いつそうなってもいいように、って横からチラチラ様子を見ているんだけど、やっぱり真似できそうになくて。お互い、最大限の力を引き出して化学反応を起こしながら「accos」を続けていけたらいいな、と思っています。と言いつつ、毎日のように喧嘩しているけれど(笑)

 

カイロと珈琲のお店 accos

南魚沼市一村尾1840-2

025-788-1102

※最新の情報や正確な位置情報等は公式のHPやSNS等からご確認ください。なお掲載から期間が空いた店舗等は移転・閉店の場合があります。また記事は諸事情により予告なく掲載を終了する場合もございます。予めご了承ください。

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