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小麦農家の思いを大切に、時間と手間をかけて作る「薪窯パン舎 ほほ」。

昨年12月、新潟市西区の佐潟のほとりに「薪窯パン舎 ほほ」というパン屋さんがオープンしました。国産小麦を使い、昔ながらの製法を大切に薪窯でじっくり焼き上げたパンからは、小麦の豊かな風味が感じられます。店主の佐護さんに、手間がかかってもこの製法にこだわる理由や、パンを作る上で大切にしている思いについて聞いてきました。

 

 

薪窯パン舎 ほほ

佐護 裕太郎 Yutaro Sago

1986年広島県出身。北海道のパン屋さんで4年間修業し、手ごねや薪窯を使ったパンの製法を学ぶ。奥さんの地元である新潟に移住し、2022年12月に「薪窯パン舎 ほほ」をオープン。

 

北海道で学んだ、「作物からパンを作っている」という意識の大切さ。

——大きな薪窯がありますが、この窯を使ってどうやってパンを焼いているんでしょう?

佐護さん:朝来たらまず、2時間くらい窯に薪をくべ続けます。この窯は耐火レンガで作ったので、蓄熱して350度くらいまで温度が上がるんです。そうしたら火を消して、温度が下がっていく中、その余熱を使って一発勝負でパンを焼きます。窯の中は3メートルくらい奥行きがあるので、1キロサイズのパンが1度に50個くらいは入ると思います。

 

——薪窯の扱いは難しいってよく聞きますが……。

佐護さん:気温や湿度によっても窯の調子が全然違うので、日々違うパンが焼けていると思います。人間みたいに、窯にも調子があります。その中でベストを尽くせるようにやっています。

 

 

——薪窯で焼いたパンにはどんな特徴が表れるんですか?

佐護さん:薪窯はサウナと同じように、遠赤外線効果で焼いているんです。石に蓄熱した熱がパンを中心から温めてくれるので、短い時間で焼けます。そうするとパンに水分が閉じ込められて、中はしっとり、外はじんわり火が入った状態で焼き上がるのが特徴です。

 

——生地の材量や製法も他のパン屋さんとは違うんでしょうか。

佐護さん:うちでは小麦を粉の状態でも購入しているのですが、国内の農家さんから直接、粒の状態でも買わせてもらっていて、それを製粉機で全粒粉にして使っているんです。生地はヨーロッパの昔ながらのやり方で、手でこねて、発酵させて、生地に負担をかけないようにしています。小麦も作物なので時期によって状態が変わるので、手だとその変化を感じ取りやすいです。

 

 

——佐護さんはどんなきっかけで、この昔ながらの製法に興味を持ったんですか?

佐護さん:北海道に行ったときに、国産小麦を使っている、薪窯で焼いたパンを食べたのが最初ですね。そのときは外国産小麦を使っているパン屋さんで働いていたんですけど、国産の材料や薪窯を使ってパンを焼いてみたいなと思って、北海道のパン屋さんで4年間修業させてもらいました。

 

——修業先はどんなパン屋さんだったんですか?

佐護さん:全国でも珍しい、オーガニックの小麦でパンを作っているパン屋さんでした。国産小麦を使っているパン屋さんの割合ってかなり少ないんですけど、オーガニックを使っているパン屋さんとなるとさらに少ないんです。

 

——北海道で得られた学びの中で、大きかったのはどんなことですか?

佐護さん:北海道に行くまではパッケージされた製品としての小麦しか知らなかったので、小麦に対してどこか「工業製品だ」っていう意識があったんです。麦も麦畑も見たことがなかったんです。だけど北海道では近くに小麦農家さんがいらっしゃったので、季節ごとに畑を見させてもらって、何度もお話させてもらいました。

 

——実際に農家さんに会って、何か感じることがあったんでしょうか。

佐護さん:小麦は土から生まれた作物で、作物からパンを作っているんだなという意識を持つようになりました。それはパンを作る技術以上に大事なことだと今は思っています。それで「農家さんと一緒に歩んでいきたい」という思いでこのお店のロゴを作ったんです。

 

オーガニックの全粒粉と塩だけで作る、カンパーニュ。

——お店に来るお客さんにも、パン作りの工程を説明することってあるんですか?

佐護さん:小麦から作っている様子をお客様にも見てもらいたいという思いもあって、「こうやって粉をひいて作っています」って、見せながら説明することもあります。時間があるときはお客様にも窯の中を見てもらっています。

 

——パンができる過程を知ってから食べると、感じ方も違うでしょうね。お店に置いているパンについても教えてください。

佐護さん:メインで置いているのはカンパーニュです。オーガニックの小麦と塩だけで作っていて、「ルヴァン」と呼ばれるタネは北海道時代から継いでいるものを使っています。秘伝のタレみたいな感じです(笑)

 

 

——余計なものは使わずに作られているんですね。

佐護さん:卵やお砂糖やバターといった副材料はなるべく使わないようにしていて、使うとしても控えめにしています。甘いパンもありますが、基本的には粉と塩だけでできているものがメインですね。小麦の味を出すことをいちばん大切にしています。

 

——農家さんが作った小麦本来の味を大切にされている、と。

佐護さん:畑に行って農家さんと話すと「無駄にしたくない」っていう思いが出てくるんです。粒をここでひいて全粒粉にしているのも、小麦を無駄にしたくないからで。それに小麦もコーヒーと一緒で、ひきたては風味が出て美味しいんですよね。

 

 

——小麦はすべて北海道の農家さんから買っているんですか?

佐護さん:基本的には北海道の有機農家さんから粒を買っているんですけど、新潟の小麦をどうしても使いたかったので、知り合いに阿賀野市の小麦農家さんを紹介してもらいました。食パンに使っている小麦の一部は阿賀野市のものです。

 

——へ~、新潟で小麦が作られていること自体知らなかったです。ところで、カンパーニュとかハード系のパンっていろんな楽しみ方ができそうですけど、おすすめの食べ方ってありますか?

佐護さん:定番だとオリーブオイルと塩をかけたり、チーズを乗せたり、バターを乗せたり……お肉料理と合わせるのもおすすめです。逆にお客様から食べ方をおすすめしてもらうことも多いんですよ。佃煮とクリームチーズを乗せたら美味しかったとか。お洒落ですよね(笑)。和食に合うとはお伝えしていたんですけど、そうやって自由に使っていただけるとありがたいです。

 

——佃煮とクリームチーズ……試してみたくなりました(笑)

佐護さん:それとうちのパン、焼いた当日よりも2、3日経ってからの方が美味しいんですよ。生地に水分が馴染んで落ち着いて、酸味もゆっくり丸くなっていくんです。だから3日後と1週間後ではぜんぜん味が違うので、その変化も楽しんでほしいですね。すぐに冷蔵庫に入れてもらえれば1、2週間くらいはもちますよ。

 

これからも、農家さんと一緒に歩んでいきたい。

——手間がかかってもこの製法でパンを作り続けている、そのいちばんの理由って何でしょうか。

佐護さん:やっぱり、やっていて楽しいっていうのがいちばんなんです。製粉したり、手でこねたり、窯に薪をくべたり。手間はかかるかもしれませんけど、楽しいから続けられているんだと思いますし、自分が目指すパンを作るためにはどれも欠かせない作業なんですよ。

 

——今後はどんなことを大切にしながらお店を続けていきたいですか?

佐護さん:農家さんと一緒に歩んでいくっていうのは最初に決めたことなので、大事にしていきたいですね。今後は地元のお野菜も使いたいですし、顔の見える生産者さんとお付き合いさせてもらいながら、安心できるものをお客様に提供していきたいです。そういう思いもお客様にちょっとずつお伝えしていけたらいいですね。

 

 

 

薪窯パン舎 ほほ

新潟市西区赤塚1566

営業日 金・土・日

営業時間 12:00-16:00

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