就労継続支援事業を行なっている「あんびえんとワークス」。障がいを持つ人が就労に向けて訓練をする場所であると同時に、アクアリウム用品と冷凍スイーツを販売しているお店でもあります。「多くの人が福祉施設に気軽に入ってきてもいいはず」と考え、起業した荒木さんに、これまでのキャリアや福祉業界への思いなど、いろいろとお話を聞いてきました。
あんびえんとワークス
荒木 愛一 Yoshikazu Araki
1982年東京都生まれ、新潟市育ち。高校卒業後は配管工事や工場勤務に従事。20代後半に介護職に進む。就労継続支援をしている施設で10年ほど経験を積み、2024年に独立。「あんびえんとワークス」を立ち上げる。
――荒木さんが独立するまでのことを教えてください。
荒木さん:高校が機械科だったので、配管工事の会社に就職したんですけど、すぐに辞めてしまいました。それからは派遣社員で、工場勤務をけっこう長く続けました。20代後半にはリーマンショックを経験しまして、「ずっと派遣勤めはどうなんだろう」と介護職に転身したんです。
――それまでの仕事と介護職、何か違いを感じました?
荒木さん:「自分は人見知りだ」って思っていたから、あまり人と接しなくてもいい仕事を選んでいました。でも介護の仕事をはじめて、利用者さんやご家族から「ありがとう」と感謝されることがすごく嬉しかったんですよね。全然ちゃんとしてこなかった人生でしたけど、本気で働こうと思えたんです。
――介護職を経て、今のお仕事に就かれたんでしょうか?
荒木さん:5、6年介護職をしてから、「就労継続支援事業」を行なっている施設に転職し、10年ほど勤めました。
――そもそも「就労継続支援」とはどういったものなのですか?
荒木さん:障がいや病気のために一般的な就職が難しい方が、就労に向けて準備をする場所、つまり「訓練施設」という位置付けです。福祉と社会の真ん中くらいにあって、それぞれをつなぐ役目があると思っています。
――介護との違いが、なんとなくわかってきました。
荒木さん:どちらも「福祉」という大きな枠組みの中にあります。でも介護が必要な方は、人生の最後の方、いわゆる終末期のステージで、僕たちが今取り組んでいる就労継続支援は、「10代~60代の活動的な人生をどう作るか」という段階にあります。
――荒木さんは就労継続支援施設で経験を積んで、独立されました。起業には、どんな思いがあったんでしょうか?
荒木さん:支援を必要としている方は、まだ若いわけです。どう生きていくか、どう生活していくかと将来のことを考えています。僕らも一緒になって仕事をしたり、悩んだりするんだけど、なかなか簡単に解決できない問題もあって。障がいを持つ人が、一般社会で働けるように頑張る。すごく難しいんだけど、「実現できたらいいよな」って思いはありました。
――どういった利用者さんがいらっしゃるんでしょう?
荒木さん:身体的、知的、精神的障がいをお持ちの方、生まれたときから障がいがある方もいれば、普通に働いていたのにあるとき病気になってしまった方など、さまざまです。直接手を差し伸べる介護とは違って、働くための訓練は間接的な支援です。障がいの特性やその人の性格を考えて、サポートをしています。
――大きな期待が寄せられていると思います。どんな思いで、利用者さんに向き合っていますか?
荒木さん:僕はいつも「利用者さんの可能性を大きくしたい」と思っています。きっと今まで、何度も「できない」「難しい」と言われてきたんじゃないかなと思うんです。それもあって、本人や家族ができる範囲を限定しているケースもあるんですよね。
――「あんびえんとワークス」さんが用意している就労準備の場としては、アクアリウムショップ「水草と美魚の店 A.t」と冷凍スイーツ販売の「あんびぃ堂」ですよね。アクアリウムに着目されたのはどうしてか気になります。
荒木さん:昨今、精神的な障がいを抱える人がとても増えています。現代は病みやすいというか、人間関係が希薄になっていたり、情報過多だったりする中で、幸せってなんなんだろうとみんなが悩んでいるんだと思います。それには自然と触れ合うのがいいだろうなと思っていて。というのは、以前、僕が施設の利用者さんと庭作業に取り組んだとき、ものすごい心地よさを感じたから。自然をテーマにした作業所を構えるのは、現代の悩みにマッチするかもしれないと思ったんです。
――起業に向けて、他にもいろいろな思いがあったのでは。
荒木さん:さっき話した通り、僕らには「福祉と社会のつながりを作る」ことが求められています。でも、福祉の事業所は多くの人にとって「よくわからない場所」「関係者以外は入ってはいけない場所」と思われているようにも感じていて。そうではなく堅苦しくない事業所を運営したいなって気持ちは、強かったです。
――その考えを聞くと、ここがどういう場所なのかよくわかります。スタッフの皆さんの事務局であり、障がいを持っている人が働く訓練をする場でもあり、そして、お客さんが商品を買いにくるお店でもあるわけですね。
荒木さん:その通りです。普通の「ショップ」でもあるので、アクアリウム好きのお客さまがやってきて、熱帯魚や水草を買っていきます。サービスとしては、法人向けに水槽のメンテナンスもしています。
――アクアリウムショップに続いて、冷凍スイーツ販売「あんびぃ堂」を立ち上げたのはなぜでしょう?
荒木さん:お菓子を扱うと利用者さんが喜ぶんです。販売業務や接客を訓練できるところも「あんびえんとワークス」の特色なんだろうなと思っているんですが、アクアリウムはどうしても専門性が高くって。一方、冷凍スイーツの販売は、すごくわかりやすい。みんなで頑張って販売するには、もってこいだと思いました。
――起業の際も含めて、荒木さんにはいろいろな選択肢があったと思うんです。どんな思いを持って福祉に関わっているんでしょう?
荒木さん:「福祉のイメージを変えたい」と思っています。若い頃、福祉には憧れもかっこいいイメージもありませんでした。まさか自分が福祉に関わるとも思っていませんでしたし。でもこの仕事に就いてから、「まだまだ可能性がある」と思うようになりました。今では当たり前になっているコーチングの手法は、一般企業よりも数年早く福祉業界に導入されていました。「福祉業界から派生していくものがある」と、僕は思っていて。もしかしたらこの業界はちょっとしたことで、すごくかっこよくなるかも。福祉のイメージが変わると、もっといい社会になるのは間違いないと思うんですよね。
あんびえんとワークス
新潟市東区桃山町2-126-5
025-288-5939