長岡市山古志。油夫集落、種芋原集落の2か所にある「アルパカ牧場」は、約60頭ものアルパカたちが飼育され、訪れた人がエサをあげたり、触れ合ったりすることができる施設です。なぜ山古志の山中に、たくさんのアルパカが飼育されているのでしょうか? アルパカ牧場の運営をしている青木さんに、アルパカの魅力とあわせてお話をお聞きしました。
山古志アルパカ牧場
青木 勝 Masaru Aoki
山古志アルパカ牧場を運営している株式会社 山古志アルパカ村の代表。特定非営利活動法人 中越防災フロンティア相談役でもある。長岡市職員時代に新潟県中越地震の震災復興に尽力。2009年、アメリカから山古志にアルパカが寄贈されたことをきっかけに牧場運営に携わる。
——まずはアルパカがどんな動物なのか教えてください。
青木さん:人懐っこい、社会性がある、うるさくない、くさくない、それからトイレも決められた場所でする…まあ、飼いやすい動物だね。小学校で飼育するんだったら、1年生でも世話できるくらい。あとは触れ合いやすいことだね。
——そんなに触れ合いやすいんですか?
青木さん:アルパカを小学校で飼育するためにリースすることがあるんだよ。アルパカと小学生の目の高さが一緒なんで、アルパカは小学生を仲間と認識してすぐ仲良くなるんだ。小学生が首にしがみつこうが、腹の下にもぐり込もうが、まったく気にしないで遊ぶんだよ。
——へえ〜、目の位置で相手を判断するんですか(笑)。
青木さん:大人の先生が行って、頭の上から話したりして脅かすと、唾かけられたりする(笑)。
——やっぱり唾かけられることもあるんですね。
青木さん:アルパカ同士でたまにやるね。人間に対しては、よっぽど脅かさない限りは唾かけたりしない。エサあげるときに怖がって手を引っ込めちゃったりすると、意地悪されたと思って唾かけることはあるけどね(笑)。
——(牧場を見て)ずいぶん小さいアルパカがいますね?
青木さん:あれは昨日生まれたばっかり。令和になって初めて生まれた子だよ。あと、平成最後の4月30日に生まれた子もいるよ。
——お母さんはそばにいますが、お父さんはどこですか?
青木さん:お父さんはここにいないんだ。ここ(油夫)の牧場にいるのはメスだけ。オスは種芋原の牧場にいるよ。近親交配を避けたり、計画的に交配するために分けているんだ。あと、普段は分けておいた方が、ペアリングの時にオスがメスを追っかけて、それによってメスも発情する「交尾発情」が起こってうまく行くんだよ。今日は種芋原の牧場で毛狩りしてるんだ。
——毛刈り?アルパカは暑さに弱いんですか?
青木さん:アンデス山中に住む動物だから暑さや寒さには強いんだけど、湿気には弱いんだよ。だから日本の蒸し暑さなんて大敵。熱中症になってしまうんだ。
——それで毛を刈るんですか。はじめて知りました。
青木さん:毛を刈るついでに伸びた爪や歯を切ったり削ったり、虫下しの薬飲ませたり、色々メンテナンスするんだよ。スタッフ2名がかりで1頭あたり30分くらいかかるかな。
——なぜ山古志にアルパカがいるんでしょうか?
青木さん:2005年に新潟県中越地震があったでしょう。山古志も大きな被害を受けたんだけど、その4年後の2009年にアメリカのコロラド州から「山古志が元気になる役に立てば。」と、山古志の中でも被害の大きかった油夫集落に3頭のアルパカが贈られたんだよ。でもアメリカから油夫集落にアルパカが来る直前になっても、集落では何の準備もできてなかったんだよ(笑)。みんな、アルパカなんてよく知らないから何を準備していいのかわからないんだ。おれは長岡市職員の頃、畜産の担当もやってて家畜のことには詳しかったから、自分から引き受けちゃったんだよ(笑)。
——いきなりのアルパカで、飼育は大丈夫だったんでしょうか?
青木さん:山古志は畜産などで牛を飼育している人が多いから、そういう人に相談したりしたね。エサの牧草も共用できるし、配合飼料も牛のエサで代用がきくんだ。ただ、アルパカは岩山で生活している動物で、ミネラル分が必要になるんだよ。だから、アメリカから飼料を取り寄せ、飼料会社に頼んでアルパカ用のミネラルを共同開発したんだよ。
——普段、アルパカのお世話は誰がしてるんですか?
青木さん:集落のおじいちゃん、おばあちゃんにお願いしてやってもらってるんだ。当番制で、エサやりから糞の処理、健康管理まで。とっても助かってるよ。
——ボランティアでやってくれるんですか?
青木さん:「集落を元気にしたい」ということでボランティアでやってくれるんだ。入場料はもらってないしね。その代わり募金箱を置いて、その募金がアルパカの世話をしてくれているお年寄りたちの活動費になるんだ。
——入場料をもらわなくても大丈夫なんですか?
青木さん:山古志のゲート機能として、多くの人がアルパカを見に集まってくれればいいんだよ。その人たちが山古志のお店や施設に寄ってくれたらいいんだ。あと、入場料をもらうと大変なんだよ。
——大変…というと?
青木さん:入場料をもらうということは、入場料を払わない人が見れない施設づくりをしなくちゃならない。そうすると、設備費から人件費からお金がかかるんだ。逆に入場料もらわないと、クレームが一切来ないんだよ(笑)。入場料をもらおうもんなら、今の世の中、山ほどクレームが来るよ。案内看板がわかりにくい、駐車場がない、食うもんがないとかね…。もらわない方がメリットがあるんだよ。
——それにしても募金箱だけで運営は難しいんじゃないですか?
青木さん:牧場としては、アルパカの販売、リース、イベント展示…この3つを柱にして経営が成り立つようにしてるわけ。あとはグッズの販売とか。
——どんなところにアルパカを貸し出したりしてるんですか?
青木さん:新潟県内のアルパカは、ほとんどがうちのアルパカ。新潟市の「いくとぴあ食花」、胎内市の「樽が橋遊園」、阿賀野市の「サントピアワールド」とかね。あと県外は北海道から山口県までいろんなところで活躍してるよ。
——先ほどグッズ販売とおっしゃいましたが、どんなグッズがあるんですか?
青木さん:アルパカの毛を使ったグッズが多いかな。南米から仕入れているアルパカマスコットや、靴下、ストールなど。土日は直売所で売ってるし、管理棟でも販売させてもらってるよ。
——アルパカが来たことで山古志はどのように変わりましたか?
青木さん:集落が元気になったね。アルパカがいなかったら、こんな場所に人がたくさん来ることなんてないって(笑)。震災で戸数は半分以下になったけど、山古志で一番人が来る部落になったもん。おじいちゃん、おばあちゃんもアルパカの世話をすることで生きがいを持つことができたんじゃないかな。アルパカの効果は絶大だよね。
アルパカは会いにくる人々だけではなく、集落に住む人々までも元気にしてる存在だと感じました。みなさんもアルパカと触れ合いに、出かけてみてはいかがでしょうか?